サラの秘密
翌朝。
サラはカチコチに固まりながら、ガル王子の私室の前にいた。
こんな事でもなければ、一生来ることはなかったであろう場所だ。
臣下に問い詰められる事もなく、スルスルと回廊を通り抜ける。
こんな時だけ、王妃でよかったと思ってしまう。
自分と向き合う為には、どうしてもここに来る必要があった。
サラの周りはみんな優しい。
きっとこれまでも何かしらの危険はあったのだろうが、気付かないように片付けてくれていたに違いない。
だが、自分は嫁いだ身であっても、サハージュの王家の姫として、国の重しになりたくなかった。
役に立ちたかった。
(勢いで来ちゃったけど……緊張する〜〜!)
コッ、コツ。
力み過ぎて、変なノックになってしまった。
ガチャ。
わりとすぐに扉が開き、ギクッとする。
(え、聞こえてた?!)
朝早いというのに、扉はすぐに開かれた。
「逢瀬は不要と言ったはずだろ?」
上から寝起きで機嫌の悪そうな、低い声が降ってくる。それでも隠し通せない色気があった。
はだけた胸元も、少し乱れた髪もそのままで扉に寄りかかり、サラを見下ろすガル。
昨日の高貴な姿とあまりに違いすぎてうろたえる。
どこを見ていいかわからず、俯く。
「……おはようございます。あの、そうでなく、」
「なんだ」
面倒臭そうながらも、ちゃんと話を聞こうとしてくれる所はやはり紳士だ。
教えて欲しい事があって、と切り出すと、部屋に通してくれた。
「私、自分にどんな力があるのか、知りたいんです」
「……やはりジュナイルは平和を守ったか」
ガルの呟きの意味はよく分からなかった。
少し穏やかな目つきになり、サラを見据える。
「知った所で良い事などないぞ」
心配してくれている。
目でわかった。
この人は無愛想だけれど、悪い人ではない。
こく、とうなづく。
それを受けたガルは、何か考えるような素振りを見せ、
「自ら知りたがる者など初めてだ。変わっているな」
「よく言われます、ふふ」
2人の間に少しだけホッとした空間が生まれる。
ガルは立ち上がった。
「着いて来てくれ」
サラに羽織を渡し、自分もガウンを羽織ると、突然どこかへ向かって歩き始めた。
着いた場所は、図書館。
「こっちだ」
金色の両扉を開けば、大きな吹き抜けのホール。
全面に本棚が置かれ、端から端までズラリとたくさんの本が並んでいる。
ガルはどんどん奥に進んでいく。
(どこまで行くのかしら)
一番奥まで進むと、鍵付きの扉があった。
いつも肌身離さず持っているのか、ガルは胸ポケットから鍵を取り出し、扉を開ける。
「ここは……」
鉄の重たい扉をあけるとーー
カーテンの締められた薄暗い部屋に、1つの本棚があった。
外の本とは違い、分厚くて大きな本ばかりだ。
それに、どれも随分年季が入っている。
「触っても?」
「構わん、自由にしろ」
とりあえず目に付いた赤い本を手にとって見る。
長い間誰も触っていなかったのか、少し埃が被っていた。
手で払って、題名を読んでみる。
「…アルヴェルの、森?」
「本当に何も知らないようだな」
「……?」
確かにこの名前は聞いたことがない。
ドラゴンと何か関係があるのだろう。
サラは少し怖くなったが。
深く息を吸って、顔を上げる。
「教えてください。私は何者なのか……」
「いいだろう」
真剣な顔つきで、ガルは語り始めた。




