命令
「サラ様! 何を言ってるんでしか!」
部屋に戻ると、心配したトリオが一生懸命声を荒げて抵抗してくれる。
外出禁止。
それは、サラから光を奪うも同然のこと。
「よそ者の私は、ただでさえ敵視されてる。ナワルドに影響を及ぼしかねない。当然の事よ。それに」
「お城の中を散策してはいけないとは言われていないわ」
サラが悪戯っ子のように微笑むと、トリオもシュン、と静かになった。
「お庭をたくさんお散歩しましょう!」
「城だって1日じゃ周りきれないでしね!」
「花……たくさん」
しかし、もう1人の教育係といったら、さっきから不機嫌丸出しモードだ。
勘の鋭いエミリーのみ、気まずそうに見守るのであった。
「あんた達、何とかしてユーリ様を連れ出してちょうだい。サラ様と2人で話がしたいの」
「げっ」
「……ずるい」
苦虫を噛み潰したような顔の2人は、有無を言わさぬ鬼の圧力に、しぶしぶ了承する。
「あっあの、僕たちユーリ様に教えてほしいことがありまし!」
「……何です?」
さすがのユーリも、一瞬いつもの目を取り戻した。
「……あっち」
「そっそうでし、さっ行きましょう!」
ユーリが本気でキレたら誰も手に負えないことは、痛いほどよくわかっている
召し使い達は、できるだけ穏便に、ユーリを外へ連れ出していった。
「サラ様、ガル王子は危険です」
「ええ、わかっているわ」
エミリーは気づいていた。
ガルが外出禁止を宣言した時、ユーリはすかさず殺気を放った。
しかし、
「では、俺は先に失礼させてもらう」
ガルは眉1つ動かさず、颯爽と広間を去って行った。
「戦い慣れしているのでしょう。あのユーリ様の気になんら動じないなど、相当の上手ですよ」
ユーリも見た瞬間から気づいていた。
ガルは強い。それも、今まで会った兵士の中でも最強レベルだということに。
だからこそ、何もできない自分に怒れるのだ。
「悪い人には見えないし、何かお考えがあるんだわ」
「そうですね。下手に抗わない方が無難ですわ」
長い戦いが始まる。
2人は、静かに息を呑んだ。
エミリーと部屋に戻れば、プトとルチがぐったりしてベッドに倒れていた。
どうやら、ユーリに剣の訓練をしてもらったらしい。
「バカね、城の案内とかにすればよかったものを!」
「とっさに思い浮かぶわけないでし!」
「……こりごり」
ユーリはといえば、激しい訓練をした直後だというのに、涼しい顔でお茶を入れに行っているらしい。
「ユーリって実は仙人の生まれ変わりなんじゃ・・」
「「絶対それ」」
周りからもはや人間と思われていない、気の毒なユーリであった。
「それにしても、ガル王子、かんっじわるーー!」
「姫様だけ籠の鳥ってわけでしか!むっかー!」
「……解せん」
サラ様大好き!なトリオは怒り爆発の状態。
他の皆は普通に街へ出られるのだから、サラは安心だった。
「サラ様、お疲れ様です」
ユーリがハーブティーを置いてくれる。
その香りだけで、心が安らぐ。
「やっと一息つけるわ」
「……」
笑顔にはっきりと青筋が入っている教育係を見て、召使いトリオは己の身を案じ、隣の自分たちの部屋に戻って行く。
「ユーリ?」
一気に笑顔を消し、氷のような目つきになるユーリ。
それを見て、金縛りのように、両手でお茶を持ったまま固まるサラ。
「姫様」
「は、はい!」
びくっとしてお茶がこぼれそうになる。
「今後一切、私の了承なしに物事を決めない事、約束して下さい」
「わかりました……」
ユーリはニッコリと笑う。
「では、今夜の勉強を始めましょう」
「そっそうでした」
「今夜は寝かせませんよ?」
「ユーリ様って絶対ドSよね」
「サラ様ファイトでしっ」
「……ガンバ」
隣のベランダから盗み聞きしていた三人。
改めて、ユーリを怒らせないようにしようと心に誓った。




