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姫はドラゴンに恋をする  作者: 楡葵
第2章
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イリヤ城

___

_____


森の奥深く。


ゴオオオオオオ


渓谷に怒号が鳴り響く


「……もう、静かに眠れ」


1人の青年のつぶやきと共に、その巨大な塊は崩れ落ちる。


「お前は俺が守るから……」


その言葉を聞いて安心したのか、その「何か」はゆっくりと目を閉じた。


____

___



5日ほど経って、ようやくナワルド中心街まで来た。


「やっと来たのね!」

サラは、大きく伸びをした。

まだ差し掛かりでも、この5日間を思い返すと、すごい達成感だ。


「サラ様あああ!!」

よく見知った丸メガネの少女が駆け寄ってくる。

「エミリー!それにプト、ルチも!」

サラに飛びつき、ひしと抱き合う。


ここでやっとトリオ達と合流した。

彼らも1日前に着いたばかりらしい。


どうやら、トリオ達も散々だったようだ。

途中で変な小道に入ってしまい、野宿をした事もあったとか。


道中、空腹に耐え切れなくなったプトが、道端のミミズをヨダレを垂らして見ていてエミリーとルチを凍りつかせた話には声を上げて笑ってしまった。


「サラ様、ここからは歩きとなります。身分を隠すため、民衆の格好をしてもらいます」

いつの間に調達してきたのか、服、靴、マント、全て揃っていた。


「わかったわ」

サラの艶めく栗色の髪は非常に珍しいため、闇商に襲われる可能性がある。


それに、ただでさえこの美貌。

そこらの下級の男共にでも見つかったら一大事だ。

……いささかユーリの過保護が入っているが。


サラの髪は三つ編みにして後ろで束ね、さらにマントを被ってフードで覆った。


「完璧ね、ユーリ?」

「これでも心配なくらいです」


「僕たちはこのままでいいんでしね……」

「私も女の子ですのよ!」

「……ほぼ、男」

「キイイイイイ!」


騒いでいる召使いたちを完全に無視して、ユーリは真剣な表情でサラの両手をとり、少し屈んで目線をしっかりと合わせる。


「ユーリ?」

「いいですか、サラ様。ここからは更に危険が隣り合わせの旅路となります。片時も私から離れないでくださいね。命を懸けてあなたをお守りします」


「ユーリ様抜け駆けズルイでし!」

「私達も、全力でお守りしますわ!」

「……任せて」


いつの間に、トリオも加わっていた。

皆のその言葉に、その想いに、胸が熱くなる。

これだけの愛を捧げてくれる人々に、自分は精一杯応えたい。


「ありがとう……」

サラは唇を噛み締めた。




さすが大国だけあって、たくさんの人々が行き交っている。


『さすが物流が栄えているな』

『色んなお店がありましね』

『まあ、素敵な髪飾り!』


だが、サラも、ユーリも、トリオ達でさえも、なんだか違和感を感じた。


こんなにたくさんの人がいるのに、活気を感じないのだ。

皆それぞれ、黙々と仕事をしている。

目は虚ろで、ただ手が動いているだけだった。


「なんだか、機械みたいだわ・・・」



ここはナワルド王国、イリヤ城。


正門前で、サラたちを大勢の召し使い達が出迎えてくれる。


「お待ちしておりました。ご無事で何よりです。どうぞ中へ、サラ王女。」


微笑むことすらなくどこか機械的なのは、決して冷遇されているわけではない。


商店街を通った時も思っていたが、感情というものがそもそもこの国にはないのだ。


ナワルドは別名『氷の国』と呼ばれている。


すぐ隣は巨大な漆黒の闇、アルヴェルの森が存在し、一切の人間が介入する事も禁じられている。


唯一、森の長に赦された者だけが、関わる事ができる。


上空はいつもどんよりと曇り、雲は不穏にも渦を巻いている。


人々は笑わない。

まるで、操り人形のように。


「サラ様、私は城の周辺を見てきますので、先に部屋に行っていてください」

「ユーリ、ありがとう。気をつけて」


ユーリは早速周辺の警備に行ってくれた。




「うわあ~でっかいでしね!」

「サハージュ城の10倍はあるわね」

「・・・金持ち」


さすが大国ナワルド。

一目見ただけでは全ての場所を把握できないほどの広大な城だ。

城までまっすぐに続く通路。


両側には花壇があり、花が咲いていたが、不思議な事に、全て氷でできているのだ。


「まあ、素敵・・・」


つい、アルスと添えたあの花を思い出してしまう。


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