イリヤ城
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森の奥深く。
ゴオオオオオオ
渓谷に怒号が鳴り響く
「……もう、静かに眠れ」
1人の青年のつぶやきと共に、その巨大な塊は崩れ落ちる。
「お前は俺が守るから……」
その言葉を聞いて安心したのか、その「何か」はゆっくりと目を閉じた。
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5日ほど経って、ようやくナワルド中心街まで来た。
「やっと来たのね!」
サラは、大きく伸びをした。
まだ差し掛かりでも、この5日間を思い返すと、すごい達成感だ。
「サラ様あああ!!」
よく見知った丸メガネの少女が駆け寄ってくる。
「エミリー!それにプト、ルチも!」
サラに飛びつき、ひしと抱き合う。
ここでやっとトリオ達と合流した。
彼らも1日前に着いたばかりらしい。
どうやら、トリオ達も散々だったようだ。
途中で変な小道に入ってしまい、野宿をした事もあったとか。
道中、空腹に耐え切れなくなったプトが、道端のミミズをヨダレを垂らして見ていてエミリーとルチを凍りつかせた話には声を上げて笑ってしまった。
「サラ様、ここからは歩きとなります。身分を隠すため、民衆の格好をしてもらいます」
いつの間に調達してきたのか、服、靴、マント、全て揃っていた。
「わかったわ」
サラの艶めく栗色の髪は非常に珍しいため、闇商に襲われる可能性がある。
それに、ただでさえこの美貌。
そこらの下級の男共にでも見つかったら一大事だ。
……いささかユーリの過保護が入っているが。
サラの髪は三つ編みにして後ろで束ね、さらにマントを被ってフードで覆った。
「完璧ね、ユーリ?」
「これでも心配なくらいです」
「僕たちはこのままでいいんでしね……」
「私も女の子ですのよ!」
「……ほぼ、男」
「キイイイイイ!」
騒いでいる召使いたちを完全に無視して、ユーリは真剣な表情でサラの両手をとり、少し屈んで目線をしっかりと合わせる。
「ユーリ?」
「いいですか、サラ様。ここからは更に危険が隣り合わせの旅路となります。片時も私から離れないでくださいね。命を懸けてあなたをお守りします」
「ユーリ様抜け駆けズルイでし!」
「私達も、全力でお守りしますわ!」
「……任せて」
いつの間に、トリオも加わっていた。
皆のその言葉に、その想いに、胸が熱くなる。
これだけの愛を捧げてくれる人々に、自分は精一杯応えたい。
「ありがとう……」
サラは唇を噛み締めた。
さすが大国だけあって、たくさんの人々が行き交っている。
『さすが物流が栄えているな』
『色んなお店がありましね』
『まあ、素敵な髪飾り!』
だが、サラも、ユーリも、トリオ達でさえも、なんだか違和感を感じた。
こんなにたくさんの人がいるのに、活気を感じないのだ。
皆それぞれ、黙々と仕事をしている。
目は虚ろで、ただ手が動いているだけだった。
「なんだか、機械みたいだわ・・・」
ここはナワルド王国、イリヤ城。
正門前で、サラたちを大勢の召し使い達が出迎えてくれる。
「お待ちしておりました。ご無事で何よりです。どうぞ中へ、サラ王女。」
微笑むことすらなくどこか機械的なのは、決して冷遇されているわけではない。
商店街を通った時も思っていたが、感情というものがそもそもこの国にはないのだ。
ナワルドは別名『氷の国』と呼ばれている。
すぐ隣は巨大な漆黒の闇、アルヴェルの森が存在し、一切の人間が介入する事も禁じられている。
唯一、森の長に赦された者だけが、関わる事ができる。
上空はいつもどんよりと曇り、雲は不穏にも渦を巻いている。
人々は笑わない。
まるで、操り人形のように。
「サラ様、私は城の周辺を見てきますので、先に部屋に行っていてください」
「ユーリ、ありがとう。気をつけて」
ユーリは早速周辺の警備に行ってくれた。
「うわあ~でっかいでしね!」
「サハージュ城の10倍はあるわね」
「・・・金持ち」
さすが大国ナワルド。
一目見ただけでは全ての場所を把握できないほどの広大な城だ。
城までまっすぐに続く通路。
両側には花壇があり、花が咲いていたが、不思議な事に、全て氷でできているのだ。
「まあ、素敵・・・」
つい、アルスと添えたあの花を思い出してしまう。




