序章
執筆者:狐々原朱逆
小さくて、可愛らしい。一般的にはそういう事に成るだろう。だが、その内に秘めた性質によって彼らは存在を否定されて生きてきた。否、生きているとも言い難い生活を強いられていたのである。自我も崩壊し、ただ単純に己の快楽のみを模索するような、獣じみた姿。親からさえも忌み嫌われ、薄暗い地下牢に閉じ込められていまう程であった。
材質の知れぬ金属の格子で囲われた、こじんまりとした部屋。天井近くの明かり取りの隙間ですら格子状である。そこからのぞく日の光はほとんどなく、恐らくは建物に阻害されているのであろう。
埋まっている部屋は、二部屋しかなかった。
その一方で、少女は目を覚ます。チャリチャリ、と微かに物音をたて、のそのそと這うように移動していった。彼女が眠っていたのは、薄く布の敷かれた石の床の上。どう見ても、十分な睡眠を取るに適した寝床等ではなく、事実彼女も酷い隈を目元に作っていた。夜中に目を覚ますことが多々あるのか、単純に寝付けないだけなのか。
何時の間に用意されてあるのか、金属格子の側には欠けてヒビ入った白いお椀がある。中にあるのは半分程の透明なスープと、浸されたパンの欠片。彼女は獣のように四つんばいとなり、それらのエサを食らった。
「……お腹、空いた。足りない……足りない……! 足りないよっ! こんなんじゃ、全然足りないよっ」
吠える。金属格子に手を掛け、凄まじい勢いで揺らしに揺らす。盛大な金属を擦り合わせる音が響き渡る。その物音に驚いたのか、隣の部屋に入っていた彼は飛び起きた。こちらもまた興奮状態にあり、壁や格子にぶち当たり転げても、暴れ回っていく。
「やめて! やめて! 耳が痛いよっ。やめてよ! いやぁぁぁぁぁぁぁ」
錯乱したように、彼らは吠える。本能で、声が枯れてしまうまで。彼らの腹部には、鈍色で発光する、目の形の痣が存在していた。先程までは、閉じていた瞼が開かれた状態で。
暫くはそんな調子であった。本来は居るはずの牢番でさえ置かれていないのか、はたまた慣れたことだから来ないのか。彼らは力尽きたようで、操り手のいないマリオネットのように急激に。それは本人たちにも知らぬ間に。身動きも取らずに死んだように眠りに落ちていった。
*
薄汚れた、元は白であろう貫頭衣。切り付けた自身らの血色の拘束具。焦げた跡の残る部屋の壁。それら以外には、彼ら自身しか居ない、地下世界。気が狂うほどに何もないこの空間で、彼らの感情は爆発を起こそうとしていた。
脇腹に刻まれた、生まれながらの憎い痣。赤く青く光り、それは目を開く。言葉に表すことの出来ないほどに溜りにたまったある思い。狭い狭い閉鎖空間は、幼い彼らには苦痛以外の何者でもなかった。
「――――嗚呼、全てを壊し尽くしてしまいたい――――」
その、重なった言葉を聞いていた賢者は細く笑む。元から彼らを引き取りに来た賢者は、これ幸いとばかりに、鎖を引っ張った。