愛様がピンチすぎてやばい
「はぁっ……はぁっ……」
大通りを目指し、全力疾走していた愛は、追い詰められていた。
「なんで……行き止まりなの……」
相手は体格のいい男が2人。目の前のコンクリート製の壁をぶち壊すか、敵をぶん殴るか……。
「どっちも極めて難しいわね。仕方ない……か」
はあ、と溜息をついて、覚悟を決めて振り返る。
「ようやく覚悟を決めたか」
ニヤニヤとそれはもう悪役のように2人の男が迫ってくる。
方針は決まってる何か秘策があるように、はったりをかます。できるだけ自信満々に。そうだ、自分の利益を最優先して縁談を持ち込んでくる他国の王子に高慢な態度で色々言ったあの時の自信を思い出せ。
とにかく、隙を作る。
「で、私をどうするつもり?」
愛の問いかけに、2人の男は顔を見合わせた。
「「どうする?」」
決めてなかったんかい。危うくそう言いそうになったが、なんとか抑え込む。相手が方針を決めていないのなら、今のうちに畳みかける。髪をかきあげ、できるだけ偉そうに見えるように心がける。
「いい事を教えてあげる。……そうね、今なら見逃して上げてもいいわよ」
「は……?」
男たちの眉間にしわが寄る。
「もちろんタダでとは言わない。その密売品を置いて行くならお咎めなしにしてあげるわ」
追い詰められているのは向こうなのに、なぜそんな事を言われなければならないのか、男たちは考え込むようにこちらを見る。それでいい。不確定な要素をちらつかせ、向こうがこちらにビビってしまえば私の勝ちだ。
「ねえ、どうする? 早く決めないと捕まっちゃうわよ?」
腕を組み、少々首を傾げて微笑む。それがいけなかった。襟で隠れていた王家の血縁を現すネックレスが、一瞬チラリと光る。外し忘れていた自分の迂闊さに腹が立つ。
「おい……いまのって……」
しまった。そんな表情をしてしまった。と同時に抑え込んでいた震えがどうしようもなく体を襲う。
「やっぱりこいつ王家の人間だぜ……こいつを誘拐すれば身代金が稼げるぞ!!」
「で、でも……こんなお偉いさん攫ってもし捕まったら……」
「馬鹿言え! こんな機会滅多にねえぞ!」
躊躇う男の意見を押しのけるように、もう1人の男が嬉々としてこちらに歩み寄ってくる。
詰めが甘かったか……。
意識を刈り取ろうと振り下ろされる拳をぼんやりと見つめながら、愛はそっと念じた。
大丈夫。きっと皆が助けに来てくれるから。
「なあ、愛様見なかったか?」
「え? 愛?」
城に戻り、薄めの本を堪能したじょにーは、城内を歩き回っている516に出くわした。
「いや、見てないけど」
街で見かけたが、それから随分と時間が過ぎている。いつも通りであればもうとっくに城に戻っているであろうと判断し、じょにーは首を振った。
「もしかして、まだ帰ってきてないの?」
「帰ってきてないって聞くってことは、街で一回会ったんだな。なんで止めてくれなかったんだよ」
じとーっと睨みつける516を無視して、じょにーは少し考え込む。
「まだ帰ってきてないってのは心配だなぁ……よし、ちょっと相談しに行くか」
「相談って何処に」
「決まってんじゃん。もーみんの所」
「もーみん、いる?」
「ノックぐらいしてよね」
全く……と呟きながらもーみんは2人を部屋に招き入れてくれる。
「愛がまだ帰ってこない」
「……そう。それは心配だ」
「この時間まで帰ってこないのは事件に巻き込まれた可能性もあるからちょっと心配してて……」
顔を伏せったじょにーを見て、もーみんは溜息をついた。
「全く……516がちゃんと見てないからだよ……」
「俺のせい!?」
「逃げられたりするから……」
「いや、もーみんさん!? 貴方が協力しなかったら愛様は逃げなかったよね!?」
「がっかりだよ」
「無視ですか!?」
騒ぎ立てる516をスルーして、もーみんは手元からカードを取り出した。
「いいよ、占ってしんぜよう」
随分間を開けましたはい。フォロワーの皆様とかにはなんかもう申し訳ないです。