王女愛、大ピンチ
日課の鍛錬を終え、雷轟が何気なく城の入口を見る。
「あれ? 516? どっか行くの?」
「あ、雷轟! なあ、愛様見なかったか?」
「いや? 見てないけど……また逃げられたんだ」
にやにやと問いかける雷轟に、516は苦笑いを返す。
「いや……まあ……」
「あんなに次こそはとか言ってたのに?」
愛刀の手入れをしながら、そういう雷轟に516は気まずそうに視線を逸らした。
「ってか、まだ木刀使ってんの?」
「当たり前じゃん! なんたってあの人が木刀ってかっこいいよなって言ったんだもん!」
「またあの人か……」
雷轟の言うあの人とは雷轟が慕っている人の事で、あの人の言うことを優先した結果、雷轟は国を守る騎士でありながら木刀しか使わないようになった。
「あの人は私の憧れだからね」
「お前さぁ……そんなん言ってたらいつか死ぬぞ? この国だっていつ攻めてこられるか分からねえのに」
「物騒な事言わないでよ。大丈夫、この国は愛がちゃんと守ってくれてるからね」
「いや、確かにそうだけどさ……万が一って事があるだろ?」
「だから大丈夫だって。なんたってこの国は愛様が治めてるんだからさ」
「でもさ……」
「ああもう! しつこい!!」
納得いかなさそうな516の頭に、雷轟の木刀が直撃した。
「全く……愛は今頃街かな? 迷ってなければいいんだけど……」
雷轟はふと空を見上げ、目を細めた。
実際、雷轟の予感は的中していた。
「ここは何処かしら?」
キョロキョロと辺りを見回して呟いてみるが、答えてくれる者はいない。
いつもの馴染みの店に行こうとした愛だが、通ろうと思っていた道がパレードの為に塞がれていたのだ。大人しく良く知る遠回りの道を通ればいいものの、あろうことか愛は知らない道を近道として通ろうとしてしまったのだ。
「やっぱり遠回りでもあっちの道を行くべきだったわね……」
後悔するが、時すでに遅し。愛は路地裏の奥に入り込んでしまったようだ。取り敢えず大通りを目指そうと歩き出した愛の耳に、話し声が聞こえた。
「いいか、この商品を――まで渡して――」
「ああ、買い取り価格は――」
「それで――。足はついて――ないだろうな」
話し声は、曲がり角の向こう側から聞こえる。愛はそっと角から様子を伺うと、怪しげな2人の男がトランクと札束を受け渡ししているのが見てとれる。
わーお……なんかすごいの見ちゃった☆
愛の頬が引き攣った。
やっぱりこういうのは全部防げないか……とするともう少し警備とかも厳重にして……こういう所に何かしらの対策が必要よね……。
よし、今日は名残惜しいけどこのまま帰って、対策を練らないといけないわね。
そうと決まれば、こんな場所からは早くおさらばするに限る。
そう判断した愛は、そっと顔をひっこめようとした所で――
「……あ」
怪しげな人物の1人と目があった。
見つめ合う瞳、時が止まったように動けない。
これはもしや……、恋の始まり……!
「って、そんなわけあるかあああああああああああああああああああ!」
自分の考えを打ち消すように叫ぶ。こんな事を考えるとは余程追い詰められているに違いない。
ぶんぶんと頭を振り、後ずさる。
大丈夫、向こうはまだ見られたと思ってないかもしれないし……
「おい、見られたぞ」
「ふむ……仕方ない、消すか」
「ちょっ!?」
じゃきん、とナイフを持って自分の元に向かってくる2人の男を見た瞬間、愛は走り出した。
「逃げるな! 大人しくしてたらすぐに終わる!」
「お言葉ですが、そう言われて止まる人はいませんから!!!」
「言いたい事があるなら聞く位はしてやるから止まれ!!」
「このご時世にそんな怪しい恰好で! 怪しげな場所で! 怪しげな会話する人ってまだいたんですね!! とても貴重な人材なので保護してもらうためにも警察に行ってもらえませんか!?」
「それはお断りだよ! 運が悪かったと思って諦めろ!!」
「私運はいい方なので嫌です!!」
「運のいい奴はこんな寂れた誰も来ないような入り組んだ路地に来ないからな!? はよ止まれ!!」
「丁重にお断りしますううううううううううううううううううううう!!!」
大通りに出てしまえば、奴だって手出しはできないはずだ。
そう考えた愛と、怪しげな男との鬼ごっこが始まった。
2話で終わらせようと思っていたのですが区切り的に更に分かれちゃいました。今回はあんまりキャラ出てないので次回頑張る