王女愛、逃亡
これは――とある国の、とある城が中心のお話。
「今日は何を占ってもらおうかなー」
「どうせまた下らないことでしょ。はい、占うならさっさと部屋に入る」
占い部屋の前で考える愛を催促するように、占い師であるもーみんはさっさと奥の椅子に座る。
「じゃあ、ここで待っててね」
「はいはい……」
面倒そうに返した516を見て、愛はにやりと目を細めた。
「あらぁー? 一国の王女様にそんな口聞いていいのかしらー?」
「もーみんだって似たようなもんじゃねえか」
「もーみんは別。というか、あんただけ別なの。なぜなら奴隷だから! そしてロリコンだから!」
「ロリコンは関係ねぇ!?」
ドヤァ、と威張る愛は、待ち切れなかったもーみんに部屋まで引っ張っていかれる。
「全く……ま、今回は部屋の前に立ってるし、逃げられないかな」
取り残された516は、脱走癖のある愛を今日は取り逃がすまいと決心し、扉の前に立ちはだかった。
「で、今日は何を占えば良い? まあ、どうせ今日の晩御飯は何がいいと思うとか明日の服は何がいいかしらとかだろうけど……」
「良く分かるねー」
「そりゃあ、毎日そんな事だっかり占ってるからね。むしろ他のないよね」
100発100中と噂の占い師もーみんは、数年前、その噂を聞いた愛に興味本位で城に招待され、それ以来城お抱えの占い師となっている。最初は国の命運を占いで決められるのではと怯えていたが、どうでもいい事しか頼まれないので、今ではすっかり城に馴染んでいる。
「でもね、今日は占ってもらおうと思って来たんじゃないのよ」
「……? どういう事?」
「ちょっとだけ、協力してくれない?」
不敵な笑みを浮かべた愛に、もーみんの顔が少し引き攣った。
「……遅い」
部屋の前で待ち構えていた516だが、あまりの遅さに眉をひそめる。少し確認しておこうか、そう思いそっと扉を開く。覗いてみれば、豪華なドレスを纏った愛様の後ろ姿が薄暗いながらもしっかりと確認できる。
「よし、大丈夫だな……」
扉を閉めてから、言いようのない違和感に囚われる。確かにドレスの後ろ姿は確認したが、あれは本当に愛様本人なのだろうか。ちょうど向こう側にいたもーみんは確認できたか?
「まさか……!」
ガチャッ!
思い切って扉を開ける。薄暗い部屋。テーブルに置かれた水晶。その奥で豪華なドレスを脱ぎかけているもーみん。
バタン
深呼吸。どういう状況だ……早急にここを立ち去るべきか……?
いやいやいや、これこそが罠じゃないのか? 実は愛様はまだどこかに隠れていて、俺が扉を開けるのを待つ。あらかじめ愛様のドレスを着たもーみんが着替えている場面に遭遇させ、俺がダッシュで立ち去ったらタイミングを見計らって城から逃げる。よし、謎は全て解けた!
「逃がすかあ!!」
ガチャッ!
再び扉を開ける。薄暗い部屋。テーブルに置かれた水晶。その奥で自分の服を半分以上着たもーみん。
「あれ……?」
嫌な汗が背中を伝う。
「……2回も扉を開けるとはいい度胸だなぁ……?」
冷静に服をかっちり着こんで、もーみんは満面の笑みを浮かべた
「いや……あの……もーみんさん?」
「しかも謝らないとか? 本当いい度胸だねぇ?」
「えっとその……ほら、薄暗くて何も見えなかったし……ね? だからその手に握りしめた水晶を離そう? な?」
「目ぇつむって歯ぁ食いしばれ!」
ものすごい勢いで飛んできた水晶が、516の頭に激突した。
「よーっし、脱出成功ー」
占い部屋の窓から脱出した愛は、上機嫌で街を歩いていた。もちろん、服装は何の変哲もないごく普通の服だ。
「あれ? 愛?」
「あら、じょにーじゃない」
「また抜け出してきたの?」
「街の視察も立派な仕事よ!」
じょにーは、やれやれといった風に首を振り、苦笑いを返した。
「ま、王女様にも息抜きは必要か」
「お、分かってるじゃん。じょにーも一緒にどう?」
「んー、悪いけど、今日は新刊が手に入ったからパス」
手に持った袋を掲げるじょにー。
「あら、随分と薄いようだけど……」
「そういう本なの! じゃ、また城でね! あんまり遅くならないようにね!」
「分かってるって! ……さてと、行きますか!」
じょにーと別れ、愛は上機嫌で街を歩きだした。
Twitterネタから書かせて頂きました!