35-忘れたくて
忘れたい思い出があって、それでも忘れることはできなくて。
辛いのだろうか、覚えているということが。
それでも、自分を形作る一つの要素で。
笑おうと思えば笑えるのに、泣こうと思わなくても泣けるのだ。
日常が色あせたように、体に力が入らない。
忘れることができれば、すべてがリセットされるというのか。
記憶から消えたところで、過去は変わらない。
過去の過ちを、反省することに意味はあっても、後悔することに意味はないのだ。
たった一人、自分と言う存在がここから消えても、気付く人はいるのだろうか。
自分の過ちから逃げたくて。
忘れたい思い出に、一番忘れたい思い出に、実際自分は何の関係もない現実。
どうしてやなんで、と疑問ばかりを浮かべて。
忘れたいことは忘れられなくて、忘れたくないことは忘れてしまう。
人とはおかしな生き物だ。
この記憶を忘れることができないのなら、いっそ感情を壊してしまおうか。
悲しいだとか、うれしいだとか、綺麗に無くして。
悲劇を演じたい訳じゃない。
喜劇を思い描いている訳じゃない。
ただ現実から逃げたくて、忘れることを望んだ。
自分だけがこんな思いを持っている訳ではない。
そんなことは百も承知で、ただ。
他人は他人にすぎないから。
無に帰したいのだ。
何億という人に生まれ変わろうと、何億という刻が過ぎようと。
自分という存在は同じことを繰り返すだろう。
いつになったら忘れることができるのか。
泣きたいと思わなくても、涙が出るのだ。
君の記憶は消えないから。