34‐歩み寄る
世界は自分中心で回っている訳ではない
そんな事とはとっくに理解していた
―—していたはずだった。
幼いころは頭がいいことを褒められ自分は誰かの上に立つ人物なのだと勘違いした。
運動が苦手だったから勉強を頑張っていたらまわりには友人と呼べる存在はいなかった。
彼らに合わせていたら自分の勉強が進まないのだからしかたないだろ?
でもその勉強さえもいつの間にか他の人物に追い抜かれてしまった。
その人物はいつもへらへら笑っていて気にくわなかった。
だが彼のまわりは笑顔であふれていた。
何においても負けているようだった。
三者面談に進路を聞かれた。
弁護士になると答えた。
返ってきた答えは
「お前に人の気持ちは理解できるのか。」
教師のみならず親にも責められた。
自分は何が間違っているというのだ。
弁護士とは悪人も善人も関係なく弁護するのだからそこに気持ちは必要なのか?
他人の考えが理解できない。
そもそも理解する必要があるのか?
親に言われた一言で自分の世界は崩壊した。
「育て方を間違えた。」
―—そうか、ここに、いる、自分は、失敗作、なのか
気が付くと家を飛び出していた。
まわりの目が怖かった。
理解できない
理解とはなんだ
理解したら理解してくれるのか
自分はできそこないで
この世界にとって自分は中心にいるどころか
存在する場所さえ与えられていなかったのではないか。
勘違いもいいところだ。
目の前が
歪み
滲み
何も見えない。
これは本当に自分の声かと驚くほどみっともなく泣き続けた。
おい、どうしてお前は泣いているんだ?
こんな雨の中傘も差さずにいたら風邪ひくぞ。
来いよ、話くらいなら聞いてやるぜ。ガキ。
あたたかな光に出会った。
自分の居場所はどこにも無かった。
実の両親でさえも理解してくれない。
自分はこの世界にいるべきだはないことに気付かされた。
その言葉に彼は言った。
自分から居場所をつくろうと行動したことはあったか?
理解される前に理解したことがあったか?
お前の世界はそんなに狭いのか?
居場所が欲しいなら待たずに行動しろ
人に理解されたいのなら自分から理解しろ
たかだか十年そこら生きてきて世界を語るな
笑顔を向けてほしいなら自分から笑顔を送れ
確かに世界は自分中心には回ってはいないが
だからこそ自分という存在が動かなければならん
世の中はgive and takeと言うだろ?
何もしなくてもすべてを得られる奴なんて存在しない
お前が気にくわないと思った奴とお前さんは何が違うか考えてみたことがあるか?
一度深呼吸してもう一度まわりをよく見てみろ
よく考えてほんの少しでも構わないから歩み寄ってみろ
お前はまだまだ若いんだからやり直しなんていくらでも効く
それでもまだわからなかったらここに来い
俺はいつでもいるからな
こんなオヤジでよければいつでも話を聞いてやるよ。
帰り道の空は自分の心のように太陽がのぞいていた。
今から自分の世界が動き出す。
動かなければどうにもならないことを知ったから。
心配かけてすみませんでした。
父さん、母さん、自分と一緒に歩みなおしてもらってもいいですか?
空の雲は消えていた。