26‐走り続ける
走って走って、ただ走り続けていた。
息が切れても、終わりが見えなくても
ここで止まったら、もう一度走り出すことはできない気がするから。
ずっとずっと走っていたら、必死で考えてる余裕なんかなかったはずなのに
いつの間にかごちゃごちゃと考えていた。
考えたくないから、がむしゃらに走っていたはずなのに。
少しずつ遅くなっていく足並み、反比例するかのように増える考え事。
止ってしまった足元には、大きな粒が降ってきて。
はねたシズクが散らばった。
増えていく、そして越されていく。
視界は前を見ていないはずなのに、誰かの笑った顔が浮かんでしまう。
それは嘲笑か同情か、どちらでも今の自分には苦でしかなかった。
初めから選択するという行為が嫌いだった。
甘えて、縋って、逃げていた。
考えることなんて何もなかった。
だから走っていられたんだ。
いつの間にか終わりはすでに越えていた。
投げ出されてしまった自分は、何も持っていなかった。
空っぽの両手が急に虚しくなり、重さがないから走れない。
走れない。
それは、終焉を意味しているように思えて、
今からでも遅くはないはずなのに、
勇気も決心も、
なにもなにも
持つこともできなかった。
文句を言った、我が儘を言った、
そのころの自分がとても惨めに見えた。
ふと、視界に影が映る。
音もなく、声もなく、
差し出された右手が
乗せられた左手が
とても優しくて、とても暖かくて
まっすぐに前を向く。
足元の水たまりを飛び越えて、再び走り出す。
今度は愛するあなたと共に。
人は独りでは進めない、
だから
独りでなければ進める。
空いていた手に君の手を重ねて。
本当の終焉まで
走り続ける。