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学校をやさしさで満たしたら

作者: ウォーカー
掲載日:2026/05/03

 受験戦争などと呼ばれるように、受験生にとって受験は戦争だ。

そしてなにもそれは受験生にとってだけとは限らない。

学校にとっても受験は戦争なのだ。

受験生に選ばれるよう、より多くの学生に選ばれるよう、

学校側も授業内容や設備やサービスを向上させなければならない。

そうしなければ、この少子化の時代に学校であり続けることはできない。


 ここに、私立やさしさ学園という名の学校があった。

この学校のモットーはその名のとおり、やさしさである。

教育にはやさしさと厳しさが必要とされる。

しかし、厳しさは時に学生の心を折ってしまい、

勉学への意欲を失わせる原因になりかねない。

私立やさしさ学園は、やさしさを最大限に活用することで、

学生たちの勉学の一助になるべし、という精神で運営されている。

私立やさしさ学園の精神は、受験生たちに受け入れられ、

今年も何とか全クラスの人数を集められる程度の学生が集まった。


 四月になり、入学式が行われ、新学期が始まった。

私立やさしさ学園の校風は、入学式の時から現れていた。

私立やさしさ学園の入学式は、服装自由、参加自由。

どんな服装で来てもいいし、何時に来ても、何時に退出しても、

なんなら欠席してもいい。

入学式は学生にとって数少ない晴れの舞台。

自由参加であっても、大抵の学生は入学式に参加した。

しかし、その服装はユニークなものだった。

ただのスーツで参加した学生は半数程度。

他の学生は平服、それもただの平服ではない。

ある学生は、ジャージ姿でランニングしてきたようで汗びっしょり。

ある学生は、柔道部の練習に参加していたようで柔道着姿。

またある学生は、これから遊びに行くようで、

ネックレスやイヤリングなどのアクセサリーまみれ。

一見すると、入学式に参加する学生には見えない。

しかし私立やさしさ学園では、全員問題なく受け入れられた。

そして、入学式の内容もやさしさが込められていた。

学生たちが座る椅子は、安っぽいパイプ椅子などは使わない。

肘掛け付きの上等な椅子が用意されていた。

式辞などは壁に字幕が表示され、難しい言葉には意味が表示され、

15分に一回程度、トイレ休憩が取られた。

式辞など退屈な内容は30分ほどで終了。

新入生氏名読み上げや校歌斉唱などは省略。

後は新入生同士で交流するも自由、下校するのも自由。

私立やさしさ学園の入学式は、やさしさに包まれて終わった。

それを期待していた者は喜び、

通常の入学式を期待していた者は、狐につままれたような気分だった。


 こうして私立やさしさ学園の入学式は無事に終わり、新学期がスタートした。

私立やさしさ学園の新入生たちは、新学期に学校に登校し、誰もが驚いた。

私立やさしさ学園の校風はやさしさ。

それは校舎にも反映されていた。

校舎の至る所にオートロードが設置され、どの教室に行くにも、

ほとんど歩く必要もない。

さらに教室や廊下も含めて玄関からエアコン完備。

まだ四月であるにも関わらず、軽く冷房が効いていた。

教室の中も至れり尽くせり。

椅子は肘掛け付きの上等な椅子、さらにはマッサージ機能付き。

マッサージ機能は授業中でも使用可能で、学生の疲れを癒してくれる。

黒板は壁を埋め尽くすほどの大型スクリーンで、

後方の席からでも黒板が見えやすいよう、やさしさが込められていた。


 そして授業、に入る前にまずは出欠確認。

しかし私立やさしさ学園では、出欠確認は行わない。

もしも授業に遅刻欠席した場合に、

授業に出席する時に気まずくならないようにするためだ。

さらには毎授業で、今までの授業の内容を記したプリントが配られる。

以前の授業に欠席していても、その日の授業についていけるためのやさしさ。

このおかげで学生は勉強が捗るかといえば、必ずしもそうではなく、

返って欠席者を増やしている側面もあった。

しかしそれも私立やさしさ学園はやさしく受け入れる。

誰でも朝起きられない日はあるだろう。

今日は休みたいと思う日はあるだろう。

学校に行きたくない日もあるだろう。

そんな時に学校を休んでも、勉強が遅れないように済むためのやさしさだった。


 授業で頭を使えばお腹も空く。

私立やさしさ学園の学生食堂もまたやさしさに満ちていた。

好き嫌いのある人向けに、全てのメニューが、

具材の一個一個を指定して抜くことができる。

カレーから人参を抜いたり、青椒肉絲チンジャオロースからピーマンを抜くことも可能。

そしてそのメニューは多種多様。

多国籍料理からたくさんのメニューを選ぶことができた。

ただし、費用はそれなりにかかるが。

そして学生食堂で食事をする学生には、一人一人職員が付き添ってくれる。

職員は学生が行列しなくていいように、

食事のメニューの注文をしてくれて、注文したメニューを持ってきてくれる。

それだけではなく、学生に一口一口食べ物を食べさせてくれる。

まるで病院や老人ホームのようだが、私立やさしさ学園では目的が違う。

学生は自分で食事を口に運ばずに済む分、

その時間を使って勉強や好きな活動をすることができる。

食事で学生の時間を無駄にしないためのやさしさである。

食べ終われば食器の片付けもしてもらえて、

学生は食べる以外、何もしなくて済んだ。


 学生にとって授業や食事だけが校内活動ではない。

むしろその後から本番が始まると言ってもいい。

私立やさしさ学園では、学生の課外活動にもやさしさをもって受け入れた。

部活動も参加自由、サークルや同好会は部員一人から設立を受け入れた。

そしてその活動に合わせて、教室の中の設備も整えてくれた。

陸上部には校庭だけでなく、ランニングマシンなどが与えられた。

鉄道研究会には、実際に人が乗れる程度の大きさの、

模擬的な鉄道を走らせる設備が与えられた。

柔道部、剣道部にもそれぞれ専用の道場が与えられ、

練習相手になるロボットまで用意された。

もし、学生が学校外で課外活動を行う時は、送迎車が用意された。

やさしさとは金。

私立やさしさ学園は学生に金を使うことを惜しまなかった。

おかげで学生たちは、課外活動を不自由すること無く、

存分に行うことができた。


 このように、私立やさしさ学園では、

学生は何一つ不自由すること無く過ごすことができた。

しかし中にはそれでも足りない学生もいた。

授業で毎回プリントが配られるが、それを取りに行くのが難しい学生。

そんな学生のために、授業はインターネットで配信され、

さらには授業のプリントもインターネットで配信されることになった。

テストも出席が困難な学生のために、インターネットが使われた。

その結果、一度も学校に来ること無く、単位が取得可能になった。

これには法律などの問題があり、学校側は交渉に苦労したものだった。

やさしさとは手間。

私立やさしさ学園は、学生のための交渉を惜しまなかった。


 こうして、私立やさしさ学園は、やさしさで満ちていった。

その結果、学校側が意図しない結果が学生の行動に現れ始めていた。

まずは、全く学校に来ない学生。

元々はたまに授業を欠席した場合の補助措置だったインターネット配信。

これが逆に学校に来る手間を煩わしく感じさせ、

学校に全く登校しない学生が現れ始めた。

私立やさしさ学園には送迎車もあるのだが、それでも効果は限定的だった。

一度も登校したことがなく、単位だけは取っている学生は、

果たして私立やさしさ学園の学生と言えるのか?

学校側は難問に直面することとなった。

また、それとは逆の現象も起こっていた。

私立やさしさ学園の設備があまりに快適なため、

学校から帰らない学生が増えていた。

学校には仮眠室や入浴室もあるので、生活するのには困らない。

だからいっそ学校に住んでしまおう、そんな学生たちが現れた。

これは一見、歓迎すべき結果のようで、実は問題があった。

いくら私立やさしさ学園とはいえ、学校の大きさや設備には限界もある。

学生の多くが学校で寝起きするほどには、学校の設備が足りなかった。

足りない設備で学生が不自由するのは、私立やさしさ学園の理念に反する。

学校側は、学校で生活するようになった学生たちの扱いに苦慮した。

学校側が苦心するのとは対称的に、学生たちは学生生活を満喫していた。


 私立やさしさ学園に立ちはだかった問題。

学校に来ない学生と、学校で暮らす学生。

これを解決するために、私立やさしさ学園は動き始めた。

学校に来ない学生は、つまるところ学校に来る時間で他のことをしたいわけだ。

それに応えるために、学校に遊戯室とリラクゼーションルームを作った。

学校に来るよりやりたいことといえば、遊びか休息だろう。

そう考えて、それを満たす方策を考えたのだった。

効果はてきめん。

今まで学校に来なかった学生たちの多くが、学校に来るようになった。

方策はもう一つ、学校で暮らすようになった学生への対応だ。

それには、授業を夜間にも行うことで解決を図った。

授業を昼と夜の二部制にすることで、

寝起きする設備を昼と夜で二人で一つにすることができる。

学生の中には夜に授業を受けたい、という声も少なからずあった。

だから授業を昼と夜の二部制にすることは学生に歓迎された。

これにより、寝具や入浴施設の不足はある程度補うことができた。

やさしさとは、誰も切り捨てないこと。

私立やさしさ学園のやさしさは、こうして金と手間と工夫で実現されていった。


 今まで学校に来なくなっていた学生が学校にくるようになって、

また、常に学校で生活する学生が増えたことで、学生同士の交流も増えた。

時にはなかよく、時にはけんかをすることがあっても、

最後にはお互いを尊重できるよう、学校側は最低限の介入を行った。

そのおかげで、学生たちは助け合い、お互いを認め合うことができた。

認め合う学生たちは、一緒にいる時間が長くなっていった。

そうすると、人間は自然にある感情を持ち始める。

恋愛感情である。


 ある日、私立やさしさ学園で暮らしている男子学生と女子学生が相談に来た。

女子学生が、男子学生の子供を身籠みごもったというのだ。

学校内で男子学生と女子学生が性交し、あまつさえ妊娠するなど、

普通の学校であれば大問題になっていただろう。

しかし、ここ私立やさしさ学園では違った。

私立やさしさ学園のモットーは、やさしさ。

学校側はその男女生徒を祝福し、妊娠生活をしながら勉強できるよう支援した。

学校内には医療施設も完備されている。

それに急遽、出産と育児のための施設も追加された。

身重となった女子学生は保健室で勉強していた。

それから時は流れ、今日も保健室で勉強していたその女子学生に異変が。

本陣痛が始まったのだ。

私立やさしさ学園には医者も看護婦も完備されている。

直ちに出産の準備が行われた。

父親である男子学生も呼ばれ、祈るような気持ちで保健室の扉を見ていた。

やがて、学校には似つかわしくない、元気な鳴き声が聞こえてきた。

「オギャー!オギャー!」

私立やさしさ学園所属の学生同士の、学校内で産まれた、

はじめての子供の誕生だった。

両親である男女学生は無事の出産を喜び、学校に感謝した。

こうして、やさしさをモットーとする私立やさしさ学園は、

学生を育て、子供を設けるに至った。

今ここに、私立やさしさ学園は、学校を超えた存在になった。

私立やさしさ学園は人を生み人を育て、

そして人が最期を迎える場所になるだろう。

最初の子供は私立やさしさ学園で育てられる予定だ。

この子供がどんな人間になるのか。

あるいは、この子も私立やさしさ学園の関係者となるのか。

すべては学校の人々のやさしさにかかっている。



終わり。


 学生を徹底的に甘やかしたらどうなるか。

そんな私立やさしさ学園を考えてみました。

甘やかす、というと聞こえはよくないですが、

サービスと言えば通じやすいでしょうか。

学校は先生が学生に勉強を教えるだけの場ではありません。

学生の勉強をサポートし、学生の活動をサポートする必要があります。

それには教室だけでなく、病院やその他の施設が必要でしょう。


学校が学生をふるい落とす時代が長く続きました

今は逆に、学生が学校をふるい落とす時代が来ています。

学生にふるい落とされた学校は滅びるのみ。

学校の体裁を保っていれば失業せずに済んだのは過去の話です。

学生の役に立たない先生や職員は消えゆくのみ。

これからは学校による学生へのサービス競争になるでしょう。


お読み頂きありがとうございました。


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