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行方不明なキミをシる  作者: 氷雨 ユータ
1st BRD 知らないクラスメイトのハナシ
3/9

秘密の時間に聴衆求む

『今日から深夜放送開始するからラジオはつけといてくれよな。どうせお前らはゲームしかしてないだろ!』


 クラスメイトの所属するグループにそう投稿すると、瞬く間に反応があった。一人でどうやって放送するつもりなのか心配する声もあれば、放送事故確定だからとからかい気味に頷く奴も居る。俺もそうだが習慣のない行動を始めさせるには身近な人物が関係していると知るのが一番だ。それ自体に興味がなくても、例えば少女漫画をクラスメイトの一人が描いているとしたら少女漫画自体には明るくもないし興味もないが、俺なら買う。怖いもの見たさ、或いは好奇心を満たす為に。

 動機はこの際関係ない、何でもいいからラジオを聞いてほしい。


『知り合いにもラジオを聞くように言っておいてくれ。絶対に皆が夢中になるような放送に出来るから』

『あげるなあ』

『そこまで言うなら、もっとラジオっぽくお題とか募らない? 読まれるかもって思ったら、私達も聞く気になるよ』


 ……む、確かに。

 話す話題についてはその場その場で適当に作ろうと思っていたが、深夜に就寝を引き留めてまで聞かせるつもりなら興味を引かせた方がいいか。クラスへの呼びかけは単なるリスナー集めのつもりだったが名案を貰ってしまった。案をくれたのは普段絡まないようなクラスメイト、それも女子だ。俺が強硬的な姿勢を取っているだけで向こうはそれほど嫌っていないと分かるのは少し嬉しい。魚心あればなんとやら、俺の事情なんて他人は知ったことではないから嫌われていたとしても文句は言えない。


『じゃあ放送前までに個別チャットに募集するよ。お題は―――”話しても誰も信じてくれなさそうな出来事”で』


 通知を一旦切って携帯をしまう。帰り道の途中には交番が存在する。ながら見歩きは常習的についついやってしまう行為だが、自覚があるせいか露骨に取り締まられそうな場所で避けてしまうのは俺の悪い癖かもしれない。

 どうか声をかけられぬようにと祈りながら通過しようとすると、聞き覚えのある声に足を引き留められる。

「おや、神坂の子供じゃないか。こんなところでばったり出くわすとはね」

「……仇華あだばな先生?」

 藍色の作務衣を着て白い鼻緒の日光下駄を履いた長身の男は警察ではないし、公務員と呼ぶにはあまりに古風な出で立ちをしている。名前を俺が知っているように知り合いだ。

 仇華討乃介。それが彼のペンネーム。作品を呼んだ事はないが自称有名な作家らしく、三年前くらいに引っ越してきた。アイデア出しをする為には都会の喧騒を離れなければならないとか何とか。時期的には丁度俺がどうにかして一魅の存在を周りに証明しようとした時期に現れた大人で、数少ない中立を維持してくれている一だ。『まるで信じない』と『証拠がないから何も言わない』には大きな違いがある。引っ越してからずっと変人扱いを受けているような人ではあるが俺にとってはいい大人だ。

「……いい加減名前で呼んでくれませんか? 守命って名前、忘れづらいと思うんですけど」

「失礼。登場人物の名前を考えている最中に名乗られるとどちらが架空の名前だったか忘れてしまうのさ。選ばれし者は登場人物が勝手に動くのだよ、僕にとっては守命も凝空転蔵これからころぶぞうも同じ重みがあるんだ。どうか分かってくれ」

「そんな二秒で考えた名前と同列っていう辺りに名前を覚える気概を感じませんけど。外に出るなんて珍しいですね。交番に落とし物でも引き取りに来ました?」

「いやいや、話のネタになる程じゃないから気にしないでくれ。それより聞いたぞ! 君、深夜放送部に入部したんだってな!」

「え、広まってるんですか?」

 仇華先生はにわかに袖の中からお守りを取り出すと雑に投げつけてきた。作務衣の袖を合わせて腕を組み、俺の反応を窺っている。

「……なんですか?」

「―――その様子じゃ、何も知らないで入部したらしい。先輩達について何か聞いた事は?」

「何かって? 先輩達は無事に卒業してますよ。死んでなんかいません。怪我は……わかんないですけど、常識の範囲でしょ」

 名前を知っている訳でもないが、重大な事故でも起きていたら噂が広がっている筈だ。狭い町だし、何より部活自体が特殊だし。

「深夜という例外的な活動時間が悪さしているのか、妙な音を聞いたり誰かにつけ回されているという報告が絶えなかったのさ。人の不幸は蜜の味で、作家の僕にとっては話のネタでしかないが流石に知人が同じ目に遭うのは見過ごせない。気休めだと思って受け取っておきなさい。餞別だ」

「は、はあ」

 一魅のような特殊な存在が確かに居るのだから、死人が目の前に現れる事くらいあってもおかしくない―――俺の幽霊に対するスタンスはそんなところだが、 これからずっとこの部活で活動する事を考えたら幽霊なんかに睡眠妨害されたら大変だ。授業がまともに受けられなくなる。

 そう思うと、このお守りはあっても損はないかもしれない。効果のほどはさておき。

「ありがとうございます! 先生もラジオ聞いてくださいね。今夜、絶対に面白いですから」

「ほう? そこまで言うからには準備がありそうだな。いいだろう、丁度睡眠は人生の無駄だと思っていたんだ。ちゃあんと布団に入って隣で聞いておくさ」

「……睡眠は人生の無駄なんですよね?」

「無駄を楽しむのが人生だよ。それに気づいた時、とっくに君はおじさんだろうがね! 守衛君!」

「守命! 何処のお屋敷を警備してるんですか俺は!」




















 深夜に部活動なんて、およそ健全とは言い難い。

 しかし深夜放送部は設立当初から存在したらしい由緒正しき部活という事で、例外的に文句は言われない。警察でさえ見逃している節がある。夜遊びで隣町のデパートに遊びに行くだけで直ちに補導が入り場合によっては三者面談まで繋がるのにこの違いはなんだ。

 とにかく、仮眠を一度も取らずに深夜まで起きるなんてまともな人間のする生活じゃない。夜食も風呂も済ませた後直ちに仮眠を取った。家を出る直前、二度寝したいという突発的な衝動に操られそうになったがそこはグッと堪えた。事前に荷物を準備した以上、それを無意味にしたくなかったのだ。


 ―――行ってきます。


 両親はもう眠っている。心の中で出発を伝えると、父が用意してくれた強力な懐中電灯を頼りに再び学校へ。昼と夜とで同じ道を歩いている筈なのに、どうしてか知らない道に迷い込んだような錯覚を受けている。カーブミラー、ガードレール、雑草、コンクリートのひび割れ。個別に景色を見れば同じ道な事は一目瞭然なのに。

 果たして何を不安に思う必要がある、まだ活動を開始してもいないのに。仇華先生の脅しがそんなにクリティカルだったのか。向かう足は大股に、次第に早足に、やがて駆け足に校舎へ飛び込んだ。校舎の鍵は帰る時に渡されているから心配はいらない。活動時間の都合上、不審者に後をつけられ襲われても助けは期待出来ないのでしっかりと施錠はしておく。

 これでこの校舎は密室になった。

「…………居るのか? 一魅」

 まっすぐに階段を駆け上がり、部室へと向かう。寄り道をする気は全く起きなかった。学校探検なんてまたまた冗談を、奥行きのある暗闇が怖くて足が進まなかった。

 扉を開けると、弓水一魅が奥の部屋からひょこっと顔を出し、微笑んだ。

「守命クン。私達の秘密基地にようこそ。ふふ」

「お、おう……せ、制服姿で深夜に会うのってなんか変だな」

「私服で会うのもきっと変だから、気にしないで。とりあえず中に入って落ち着く? それとももう放送を始める?」

「落ち着くのは放送が終わってからでいい。早く放送しよう。みんな、絶対に食いつく」

 これで後日校長先生に呼び出されようと知った事か。無関係な人物を部活に巻き込んだ? 不審者が居た? どんな言い分だって構わない、このラジオはその為に行うのだ。

 席に着いて、息を整える。手で合図を送ると、一魅は機材を起動して収録を開始した。




『―――えーと、はい。こちら森芽高校深夜放送部です。皆さん、聞こえてますか?』

『どうして敬語なの?』

『クラスメイト以外も聞いてるからだよ―――っと、そうそう。自己紹介が遅れましたね。俺は今年度より入部させていただきました神坂守命です。それでこっちは―――』

『弓水一魅です。あの、守命クンのイマジナリーフレンドとして有名な』

『そういうこった! これでお前達分かっただろ、一魅は本当に居るんだよ! ―――以降、放送は俺と一魅の対話形式で行わせていただきます。よろしくお願いします』 




 機材を介入させれば、彼女の声は皆に聞こえる。これが、唯一その存在を皆に証明する方法だった。今まではただ単に喋ってもらったのを録音しただけで聞かせたから俺の裏声だのAI音声だの散々な言われようだったが、ラジオ形式なら収録中はずっと彼女と喋る。疑われる余地は存在しない。

 きっと、俺は自分で思うよりも喜んでいたのだろう。釣られるように一魅は微笑み、オフレコとばかりに筆記で俺に言った。


〈私より喜ぶなんて、変なの〉

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