優麗少女はキミの傍
『守命君なんて大っ嫌い!』
好きだった女の子ではない。嫌いでもない。ただ小学校の鬼ごっこで揉めただけの話だ。この後に尾を引いて連鎖的なトラブルが発生した事実もない、何なら発言した女子はこの事すら覚えていないだろう。クラス全体で遊んでいた時の一幕なんて誰も気にしない。殆どの場合は加害者も被害者も『そんな事があったね』か『あれはマジ最悪だった!』で終わらせるだろう。最悪という言葉は文面だけだと怒りしか伝わってこないが、実際のところは言外に『ツイてない』程度の注釈がある。
俺は、違った。
神坂守命にとってその発言の何がクリティカルだったのかは遠い昔となった今ではもう分からない。確かなのはその一言をきっかけに俺は女性に触れなくなった事だけだ。冷静に考えれば鬼ごっこでタッチしようとして靴紐がほどけたからタンマなどという自分ルールを持ち出した女子に非があるのかもしれない。だがこの際どちらに非があったかなんて些細な話だ。
その一言が、俺に接触を『禁忌』だと思わせた。
高校から色気づいた同級生達が次々交際していく中で、俺だけが潔癖症のように最低限の関与に留めた。俺のトラウマを知る友人は『意識して徹底的に接触を避けるなんて気がおかしくならないのか』とも心配してくれたが、大丈夫だ。グループ分けでは優先的に男子を探せばいいし、授業中には落とし物をしないよう最初からポーチの中にでも入れてそれを固定すればいい。部活は……一人でも出来る部活に入部すれば良かった。
幸いうちにはそんな部活があった。森芽高校深夜放送部。通常の部活とは違い深夜に町内に向けて放送をしなければならない。山に囲まれた町だからこそ許された部活であり、放送はスピーカーではなく各家にある専用のラジオから流される。学校設立当初から存在していた部活であり入学から卒業までに所属出来る人数は二人まで。三年生が卒業したのをきっかけに俺はそこに飛び込んだ。女子と身体的接触をする状況に偶然でもなりたくないのもそうだが、もう一つ。
俺の目には、唯一触れる女の子が映っている。
人ならざるナニカ、俺と一緒に成長するせいで中学に入るまでその存在が他人には見えないと分からなかった幼馴染。弓水一魅。今日も何処かの電柱に捜索願を貼られる、行方不明の女の子。
彼女を見つけたくて。




