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7話 復讐の使者。元婚約者の惨めな再会


 ガルディア王国の王城の裏手、エリンがかつて蘇らせた「禁じられた庭園」は、今や国中で最も美しい聖域となっていた。

 エリンはカイル王に贈られた、動きやすくも上品な乗馬服に身を包み、咲き誇る花々の手入れをしていた。彼女の指先が触れるだけで、萎れかけた蕾は歓喜するように花開き、清らかな魔力が風に乗って周囲を癒やしていく。


「エリン様、例の『労働奉仕者』たちが到着いたしました」


 侍女の冷ややかな声に、エリンは手を止めた。

 バトラー王国は、ガルディア王国から提供された食料と浄化の種の対価を支払えず、ついに「王族による労働奉仕」を提案してきた。これは事実上の降伏であり、自国の王族を奴隷同然の扱いに差し出すという屈辱的な和解案だった。


 庭園の入り口に引き立てられてきたのは、かつてこの世の春を謳歌していた二人――レオナルドとミナだった。


 かつての金糸をあしらった華麗な装束は見る影もない。泥に汚れ、継ぎ接ぎだらけの麻の服を纏い、手には錆びかけた鍬と鋏。レオナルドの頬はこけ、ミナの自慢だった髪は手入れもされずバサバサに傷んでいる。


「……エ、エリン……」


 レオナルドが、喉を鳴らすような掠れた声で彼女の名前を呼んだ。

 彼が見上げた先には、陽光を背に受け、神々しいまでの美しさを湛えたエリンが立っている。その肌は陶器のように滑らかで、瞳は以前の怯えを完全に捨て、深い慈愛と――そして一筋の「憐れみ」を宿していた。


「レオナルド様、そしてミナ様。我が国の庭園へようこそ」


 エリンは静かに微笑んだ。それはかつて彼女が受けてきた蔑みに対する、最大級の報復だった。


「お前たちに与える仕事は、この庭園の雑草抜きと、家畜小屋の清掃だ。……エリンがかつて『地味で無能な仕事』と笑われながら、一人でこなしていた量と同じ分だけな」


 背後から現れたカイル王が、冷酷な声を響かせる。カイルは当たり前のようにエリンの腰に手を回し、彼女を自分の胸へと引き寄せた。見せつけるようなその動作に、レオナルドの顔が屈辱で歪む。


「カイル陛下……! 私は一国の王子だぞ! こんな、土にまみれるような仕事が務まると思うのか!」

「王子? 借金も返せず、民を見捨てて命乞いに来た男がよく言う。……いいか、レオナルド。今の君は王子ではない。我が国の大地を汚した罪を贖う、ただの『罪人』だ」


 カイルの殺気に当てられ、レオナルドは膝をついた。隣でミナは「嫌よ、こんなの! 私の手が汚れちゃう!」と泣き喚いているが、周囲の近衛騎士たちに冷たく突き放される。


「エリン! 頼む、お前から言ってくれ! 昔の仲だろう? 私が悪かった。お前がどれほど重要だったか、今ならわかる。……だから、もう一度私のもとに……」


 レオナルドが泥だらけの手をエリンに伸ばそうとした。だが、その手はエリンに届く前に、彼女自身の薄い黄金の障壁に阻まれた。


「レオナルド様。私は今、とても幸せなのです」


 エリンは静かに、けれどきっぱりと言い放った。


「毎日、愛する人に必要とされ、守られ、自分の力が誰かの笑顔に変わるのを見ることができる。……あなたが私に与えたのは、冷たい雨と孤独だけでした。今の私には、あなたに差し上げる慈悲も、分かち合う言葉もありません」


 エリンは一歩、彼らに近づいた。


「さあ、お仕事を始めてください。あなたが馬鹿にしていた『地味な雑用』が、どれほど重く、どれほど大切だったのか。その身をもって、一生をかけて理解してください」


 エリンとカイルは、二人に背を向けた。

 レオナルドの背後に残されたのは、かつてエリンが注いでいた愛情が消え、厳しい自然の摂理だけが残った冷徹な庭園だった。


「待ってくれ、エリン! エリィィィン!!」


 惨めな叫びが庭園に響くが、エリンが振り返ることは二度となかった。

 カイルは彼女を抱き上げ、耳元で甘く囁いた。


「よく言った、我が愛しの王妃。……あんな屑のことは忘れろ。今夜は君のために、海を越えて取り寄せた最高のデザートを用意させているんだ」


「カイル様、またそんなに甘やかして……」

「足りないくらいだ。君を甘やかすことが、私の生涯をかけた事業だからな」


 かつての婚約者が泥にまみれて這いつくばる中、エリンは真の王の腕の中で、最高の幸福へと向かって歩みを進めていた。



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