8.妖力トレーニング
デイダラボッチを討伐した荒井くんは落ち着き払い、静かに私へと言う。
「君が気付いてるかは知らないけど、ここ最近1ヶ月に1回、おかしなことが発生してる。」
「それは…妖の狭間に急に転送されちゃうこと?」
「そう。それだけじゃない。転送された先の妖の狭間では、現実へ戻るための術『在』がうまく発動出来なくなる。そこにいる妖怪を倒さない限りはね。」
私は彼の話しに頷く。確かに、以前蜘蛛の妖怪に襲われた時も同様であった。彼の口ぶりからして今回もそうなのだろう。
「原因は分かってるの?」
「いや。……だから、僕は調査してる。でも、異変のある妖の狭間を完璧に探知できるわけじゃない。」
「そっか……。あっ!でも、私なら…!」
「そう。座敷わらしの幸運の力なら、君の勘が何処に妖の狭間が発生するか分かる。」
荒井くんは変わらず無表情だ。
「君には探知機として働いてもらう。次は1ヶ月後、またおかしな妖の狭間が出現するはずだから。」
正直なところ、私は荒井くんが苦手だ。無愛想で、遠慮がない。けれど、2度も助けられたのは事実だ。故に、彼の頼みを断る理由はない。
「分かった。1ヶ月後だね。私がここに行きたいって感じたら、伝えればいいんだね。」
「そう。………じゃあ、忘れずに。」
用件を伝え終えると荒井くんはすぐに何処かへ行ってしまった。
部活仲間兼、妖怪退治仲間だというのに本当に愛想がない。まぁ今に始まったことではないので、私も元の世界へ戻ることにした。
***
自室へと戻ると、ようやく肩の力が抜ける。なんだかどっと疲れた。だが、すぐにベッドに倒れ込むわけにはいかない。私にはやることがあるのだ。
それは妖力トレーニングである。1ヶ月後、また妖の狭間に行った時、足手まといにはなりたくない。
「まずは『皆』の練習をしよう…!」
筆箱からペンを取り出し、空中へ投げる。地面へ落ちる直前、指を組んで唱える。
「『皆』!」
途端にペンは自由落下をやめてその場に停止する。どうやらペンのサイズであれば問題ないようだ。
今の今まで妖怪の力など気にもとめていなかったのだ。なので、幼い頃に伝えられた事を頭の奥底から手繰り寄せて妖力を扱う練習をする。
次は枕を投げる。同じように『皆』と唱える。これもまた問題はない。だが、妖力は心の動きと連動する。焦りが生じれば妖力もまた揺れるのだ。
そうしないためにも、あらゆるモノの動きを止める練習に取りかかる。なるべく落としても困らないよう、ベッドの上で。




