6.下校
一日の授業を終え、放課後。純麗ちゃんは部活動へ行き、取り残された私はひとりで帰ることにした。
下駄箱から靴を取り、履き替える。校門を出た先には偶然にも荒井くんがいた。彼はやはり、私を追い抜くこともなく何故か隣を歩く。
学校を出てからも、荒井くんとは帰り道が同じだった。
「あ、荒井くんも家こっちなの?」
「なんで?」
「同じ方向で一緒に帰ってるから…。」
「別に一緒に帰ってないけど。僕と君の歩く速度がたまたま合っただけでしょ。話しかけるくらいなら僕より早く歩くかゆっくり歩いてくれる?」
「……………そうするよ!」
暗に隣を歩きたくないと言われたようだ。当然、私は駆け足で去る方にした。その前にひとこと言ってやる。
「そんな物言いだと、友達いなくなっちゃうからね!」
「……………に……がら…。」
何か言ったようだが気にせず走る。それほど一緒に帰りたくないなら荒井くんの方が走るなりゆっくりするなりすればいいのに。
***
アラームの音がしない朝。何も用事のない休日である。さて、今日はどうしようか。特に予定もないので出掛けることにしよう。
1ヶ月に1回はひとりで何処かへ行くのも楽しい。
折角の4月。桜が散ってしまう前に公園で花見をすることにした。
歩いて20分ほど。運動場や広場のある公園には花見客の為の屋台なんかが設置されていた。私は花より団子、というわけでもないので花だけを見に行く。
正直なところ桜の匂いは好きではないが、桜の咲くような季節の匂いは好きだった。まぁ今は屋台で売ってる焼きそばの匂いしかないが。
「綺麗だなぁ。」
桜を見上げる。温かい風が吹き、花びらを空へと押し上げる。少し強かったので、思わず目を瞑った。
そして瞼を開いた次の瞬間、周囲にいた人々の姿がなくなる。屋台に並んでいた人も、ブルーシートに座る人も、皆。
「!?まさか、妖の狭間…!?」
この雰囲気には覚えがあった。妖怪のみが住む現実に酷似した空間、妖の狭間。どうやら私は意図せず入り込んでしまったらしい。
驚きながらもこの空間から出る為に手で輪っかを作り唱える。
「『在』!………………あれ?」
『在』と唱えても、一向に元の空間へ戻れない。普段であればこうすることで戻れるというのに。
「ざ、『在』!」
やはり戻れない。これは一体どういうことなのだろうか。そんなことを考える暇もなく、大きな音が耳に響く。
それは鯨の鳴き声のような、不気味な音。
「も、もしかして…。」
答えを出す前に、足元が揺れる。アスファルトや周囲の煉瓦道を巻き込み、地面が盛り上がる。
咄嗟に盛り上がった地面から振り落とされ、尻餅をつく。
徐々にせり立つ地面は遂にビルほどの高さにまでなった。
「よ、妖怪…だよね…。」
デイダラボッチを思い起こさせる巨体を前に、完全に思考が止まるのだった。




