38.夏合宿
夏休み。今日の最高気温は31度。中々の暑さだ。そんな中、私はというと学校のプール掃除をしていた。ボランティア、というわけではない。
私の所属する生徒会執行部、夏合宿での活動なのだ。執行部の夏合宿、何をするかと思えば校内の掃除に励む、という単純な作業だった。単純だが、寝泊まりを学校で行うので特別感はある。
デッキブラシで青いタイルを擦りながら汗をぬぐう。隣には同じ部活仲間兼、妖怪退治仲間の荒井くんがいた。彼もまた鬱陶しそうに黒髪を避けながら掃除をしていた。
「今日、は、暑いねぇ。」
ブラシを揺らしながら話しかけてみる。
「言わ、なくても、分かるよ。というか、口に出すともっと暑くなる。」
「じゃあ、涼しいって言えば涼しくなる?」
「かもね。」
「涼しい!涼しい!涼しい!」
「うるさ。もっと静かに言いなよ。」
荒井くんは相変わらずの様子だった。
この間の、人魚を退治した時のような寂しげな雰囲気はすっかり鳴りを潜めている。別に寂しげにしてほしいわけではないが。それはそれとして、彼とあの人魚に何があったのか少し気になった。しかし、直接聞いても教えてはくれないのだろう。
「そう、いえば。この間、海で荒井くんを助けてくれた水って、なんだったんだろうね。」
ふと、疑問を口にする。以前、水中に引き込まれた荒井くんは謎の水の力で水上に押し上げられ、一命を取り留めたのだ。勿論、私の力ではない。荒井くんのでもないだろうし、一体何の力だったのだろう。
「さぁね。まっ、他の、妖怪とか、妖怪の血を引く人間のじゃ、ない。」
「他にも妖怪の血を引く人っているんだ。」
「そりゃ、いるよ。でも、あんまり情報共有とかは、しないかな。昔、ご先祖さんが争ってたみたいだから。」
「争ってたなら逆に他の妖怪を血を引く人にも詳しいと思うけどなぁ。」
例えばあの妖怪の血を引く人間は強いから要注意、とか。
「争ってたのも昔、だからね。争いやめてからは、互いに不干渉になったの。それぞれ、生活も、あったし、ね。」
「へぇ。」
ということは身近な人物も妖怪の血を引く可能性があるのか。そう考えると、なんだか不思議な気持ちになる。
なんて話をしていると生徒会長のやけに通る声が聞こえた。
「プール掃除はそろそろ終わりにしましょう。日も高くなってきましたからね。スイカでも食べて休憩です。」
その一声に他の生徒がざわめきたつ。
「スイカ!?よっしゃー!」
「さっすが会長!分かってるー!」
私はブラシを動かす手を止め、荒井くんへ言う。
「スイカだって!楽しみだね!」
「別に。あんなの、ほとんど水じゃん。」
「そ、そういうこと言うなら荒井くんの分も私が貰うからね!」
「………別に、要らないとは言ってない。」
「じゃあ食べたいんだ。」
「………食べたいとも言ってない。」
「じゃあ頂戴?」
「やだ。」
「食べたいんじゃん!」
本当に荒井くんは素直じゃないというか、斜に構えすぎているというか。
以前言ったガラじゃない、というのに随分囚われているような気がした。




