30.もうじき期末テスト
7月にも入り、いよいよ暑さも本格的になってきた。雨の気配はすっかり薄れ、夏に向かうのは空模様ばかりではない。
私も制服をセーラーへと着替えて登校する。
いつも通りの登校風景。そこに、見慣れた生徒の姿を見た。
「荒井くん!おはよう!」
短く切りそろえた黒髪を揺らすのは同じ部活動所属の荒井くんだった。
「おはよう。」
「!今日は挨拶返してくれるんだね。」
「…………別に。何でもいいでしょ。」
「何でも良くはないよ。挨拶は返したほうがいいだろうし。」
「あっそう。」
変わりゆく季節とは逆行して、彼の態度は変わらない。あいも変わらずの塩対応も、ちょっとの小言で流せるようになってきた。良いことかどうかは微妙なところだ。
「もうすぐ期末テストだよね。そういえば、荒井くんは前回2位だったね。塾とか通ってるの?」
「まさか。」
「じゃあ何もなしであんなにいい成績なんだ。……もしかして、特別な勉強法とかあったり?」
「それも、まさかだよ。普通に勉強してれば普通にあれくらい取れるよ。」
「そうやってまたスカして…。」
最近わかってきたことだが、荒井くんには悪い癖がある。それはすぐ格好つけるクセだ。我関せず、興味なしとツンツンした態度は明らかにコミュニケーションの妨げになっている。
とはいっても、体育祭だとか部活動ではそれもなりを潜めて文句の付け所のない人になるのだが。
「じゃあ、普段どうやって勉強してるの?」
「配られた課題を徹底的にこなすだけ。……あぁ、あと、インプットとアウトプットの割合に注意してるかな。勿論、後者を多めに取ってる。」
「そ、そんなに考えて勉強してるんだ…。」
「君もそうすれば、もう少し成績上がるんじゃない。」
「…………何も言い返せない………。」
私の中間テストの全体順位は85位。丁度真ん中あたりだ。つまり、2位の荒井くんとはかなり離れた位置にいる。
少し悔しくはあるものの、ここは彼の言葉に従うのが賢明なのかもしれない。
「アウトプットとインプットね…よし。覚えた。………そうだ。今度、一緒に勉強しようよ。」
「なんで?僕に利があるの?」
「ほら!他人に教えたほうが定着しやすいって言うでしょ。アウトプットってやつだよ。インプットより大切なんだよ?」
「それ、僕がさっき言ったことだし…。というか、ひとりで充分だよ。」
「そう言わずに、ね!シャー芯数本あげるから。」
「シャーペンの芯数本なら貰わないほうがマシだけど…。」
「じゃあタダで!」
「いや、だからひとりでやるってば。」
なんとか粘るが荒井くんは崩れない。どうやら学年2位の頭脳は借りれないようだ。




