26.ゲームセンターにて②
私の膝ほどしかない緑色の身体に不自然な黒髪。その妖怪は私と荒井くんを見てにやにやと笑う。手元には先程舐めていたメダルを持っていた。
「!来るよ!」
荒井くんはそう言い、横に走る。私も彼に従い、状況を把握する前に避けた。
「!!」
左へズレた瞬間、私がいた場所の足元が抉れる。何があったのか。そこを観察すると、ベタベタなメダルが落ちていた。
「舌でメダルを飛ばしたの…?」
「そうみたいだね。」
私の呟きに頷く荒井くん。
そういえば、いつもの彼だったら既に妖怪を焼き払っているはず。何故今日に限ってそうしないのか。
「荒井くん。炎は使わないの?」
「…………あいにく、煩いゲームセンターじゃ少し時間がいる。」
「そっか。妖力を使うには心を落ち着かせないとだもんね。」
確かに鳴り止まない筐体の音楽は集中力をきらす要因にもなるだろう。
そんなことを話していると妖怪は再びメダルを飛ばしてくる。だが、次はひとつだけでない。
「!?あ、あんなに沢山…!」
両手いっぱいに抱えたメダル。それらを舌で取り、此方へ飛ばしてきた。
荒井くんの炎が使えないのであれば、今行えるのは逃げの一手。私達は他の筐体を遮蔽物とするように、その影に潜る。
しかし、かなりの威力を持つメダルは筐体のガラスを粉々にして飛んできた。
「走って!」
「う、うん!」
遮蔽物は意味がないと知り、妖怪からなるべく距離を取ることにした。
メダルコーナーから離れ、UFOキャッチャーのコーナーへ。だが、後ろからは変わらずメダルが飛んでくる。周囲の筐体を破壊しながら確実に私達を追い込むために。
「は、はぁ、はぁ。この、調子、なら…!」
立ち止まり、後ろを振り向く。
「?なに、やって、」
荒井くんは驚くが問題ない。良い感じに体力を消費した今なら、力まずにいれるはず。私は指を全て組み、唱える。
「『皆』。」
無駄な力を入れずに『皆』を使う。途端、飛んでくる数多のメダルと妖怪の動きが止まった。
私の意図を理解したのか、荒井くんは咄嗟に手を突き出して炎を出す。目標は妖怪。メダルも今や動きを止め、狙いを定めるのには充分な時間があった。
パチパチと音がする。荒井くんの生み出した炎が妖怪の体を包む。
少しするとその体は塵になる。
「や、やった。今の、良いコンビネーションだったよね?」
「だね。」
「!」
「な、なに…。」
つい、まじまじと荒井くんの顔を見る。まさか、素直に同意されるとは思わなかったからだ。
「そうだよね。今の、良かったよね。」
噛みしめるように呟く。妖力トレーニングの甲斐があったようだ。
「そうだ。荒井くん。ついでに、ゲームセンターで遊んでいかない?」
このまま少し仲良くなろう。なんて思って提案する。が、現実はそれほど甘くはないらしい。
「…………………パス。」
「え!?どうして!?」
「……………別に。何でもいいでしょ。」
いつも通りに戻ってしまった荒井くん。どうやらまだ遊びに行くような間柄ではないようだ。




