23.妖力トレーニング②
待ちに待った休日。私はバスを1時間ほどいった先の山奥へと来ていた。ハイキングの為ではない。妖力トレーニングの為だ。
ここ最近、対象の動きを止める『皆』の練習をしているのだが、まだまだ効力は薄いと感じる。分かりやすく言えば、私ならきっともっと出来るのではないか、ということだ。
今回、練習場に山を選択肢たのには理由がある。それは、妖力を使っているところを見られたくないこと、そして『皆』を使いたい対象が丁度あること、だ。
対象というのはズバリ、木々から落ちる葉っぱ。勿論、ひとつではない。はらはらと沢山落ちていく木の葉。それの動き、全てを止めるようにしたいのだ。
「よーし。行くぞぉ。………『皆』!」
ひとり叫び、全ての指を組む。すると、風で下へと落下する木の葉が動きを止めた。
が、止まったのは数にして2,3個。全てではなかった。
「だ、だめかぁ。……もっと心を落ち着かせないと…。」
妖力の使用には心の揺らぎに注意する必要がある。私は深呼吸をして、森に漂う木の匂いを目一杯かぐ。
「すぅ。……よし。もう一回。『皆』!!」
先よりも動きが止まった木の葉は増えた。しかし、やはり全てとはいかない。
原因もよく分からないまま、とにかく『皆』を使用し続ける。
それが何10回目かに達した頃。気力も尽き始めたのか、疲れを感じてきた。
「はぁ、はぁ、はぁ。」
妖力を使う感覚は運動をしたあとの感覚とはまた違う。強いて言えば、受験前の緊張感がずっと胃を支配し続けるような、そんな感じだ。
理論的に表現するならば交感神経が強くはたらくのだとか。それにより脳も疲労していくらしい。
少し息が苦しくなってきた。
「はぁ、はぁ…。か、『皆』」
はじめと比べ、随分弱々しく唱える。流石にこの状態では碌な効果も見込めないだろう。そう思っていた。
しかし、目の前で落ち行く木の葉は、その全てが動きを止める。
「!?え!?な、なんで、」
これほど疲れた状態で唱えたというのに、何故効果を発揮したのだろう。
しばらく考える。先程までとどう状況が違うのか。そうすると、ふとあることが思い浮かんだ。
「……………もしかして、力み過ぎてたのかな…?」
思えば『皆』と唱えるときはいつも、なるべく大きな声ではっきりとした発声を心がけていた。それが所以して、満足な効果が出なかったのかもしれない。
予想も立てられたところで、もう一度。そう思った矢先、頬が冷たくなる。
「あ…。雨だ。」
上を見上げると水滴が顔に落ちる。雨だ。
急ぎバス停へと移動する。まだバスは来ない。近くには屋根付きの停留所があった。
移動の際少し濡れてしまったが、風邪を引くほどではないだろう。
ベンチに座ると、足音がした。誰かが後ろから屋根のある下へとやって来たらしい。
「大里先生。奇遇ですね。」
現れたのは大里先生だった。先生は傘を閉じ、いつものような笑顔で言う。
「山吹さん。奇遇ですね。もしや、ハイキングですか。」
「は、はい。そんなところです。…………?先生?」
大里先生は私の答えを聞いたあと、突然着ていたカーディガンを脱ぐ。
「山吹さん。これを着ていてください。私ので申し訳ないですが、無いよりかは。」
「え…。あっ!も、もしかして、その、」
「……………はい。山吹さんの着ているシャツが白いせいですかね…。」
急いで先生のカーディガンを受け取る。小雨だったとはいえ、どうやら私の下着が透けてしまっていたらしい。なんとも恥ずかしい。
そして先生も申し訳なさそうに頬を掻く。
「あ、ありがとうございます…。」
「いえ。………これ、セクハラになってしまいますかね。」
「な、なりませんよ!セクハラにはしませんから!」
「それなら安心です。私、まだ教師をしていたいので…。」
こんな何もない山奥で何をしていたのか。踏み込むことは何故か躊躇われた。
詳しいことは聞かないまま、私と先生はバスを待つのだった。




