15.体育祭②
「いけー!」
第1体育館は熱狂に包まれる。今行われているのは1年3組と3年5組の女子バレーだった。結果はなんと、こちらが僅差で勝っている。故に、1年ほとんど全てが3組を応援していた。
「頑張れ!」
私も熱に当てられ、声を出す。熱に当てられたからだけではない。コートに立つ友人、純麗ちゃんを応援するためでもある。彼女は今も、その長い髪を高く結ってボールへ視線を送ってる。
「!うち、とるよ!!」
彼女の声が体育館に響く。3組の方へと放たれたボール。早い。間に合わないかもしれない。だが、純麗ちゃんは走る。走って、走って、間に合わないかと思った瞬間、膝を地面に擦らせてまで、なんとかボールを上げる。
「!凄い…!」
純麗ちゃんの上げたボールを味方は無駄にしなかった。そこから流れるようにトスをして、華麗にスパイクを決める。
その瞬間、試合終了の合図が鳴った。
1年3組の勝利だった。両組挨拶を終え、コートから出る。
「す、すごいよ!純麗ちゃん!3年生に勝つなんて!」
「へへっ。でしょー?ばっちり見てた?」
「うん!スマホが使えないからカメラには撮れなかったけど…。でも、ちゃんと見てたよ!」
「そっかそっか。良かった。」
汗を流し、肩で息をしていても、純麗ちゃんの顔は明るい。
「ねぇ、純麗ちゃん。……楽しかった?」
「うん!もち!!」
「………良かった…!」
親指を立て、白い歯を覗かせて笑う純麗ちゃん。彼女こそが今日の主役だと錯覚するような眩さだった。
***
バドミントン、バレー、バスケ、そして女子のクラス対抗リレーが終わる。残りは男子のクラス対抗リレーだった。
整列している生徒を眺めていると意外な人物を発見する。
「…………荒井くんも走るんだ…。」
クラス対抗リレーは誰でも参加できるというわけではない。クラス内でも足の速い生徒が指名され、走ることになっている。つまり、荒井くんはリレーに足る人物だということなのだろう。
呆けているとリレーが始まる。荒井くんはアンカーだった。リレーの花形のようなポジションに、あの無愛想な荒井くんがいる。それだけで少しおかしかった。
荒井くんのいる1年1組はそこそこ順調な順位であった。学年をまたいでのリレーなので無論、上位は3年生ばかり。だが、決して最下位ではなかった。
きっとどのクラスも最下位だけは避けたいだろう。そう思っていると、荒井くんの前の生徒が第3コーナー辺りで足をもつらせ、転んでしまう。順位はみるみる落ちていく。
彼の顔は遠いながらも、想像するに難くなかった。申し訳なさ、情けなさ、そのどれもが内在したような顔。内気な人なのか、今にも泣きそうなその生徒はおどおどとしながらも荒井くんへバトンを渡した。
その時、私は確かに見た。荒井くんが想像もできないほど優しく、まるで転んだ生徒を慰めるように肩を叩いたところを。
気にするなとでも言いたいのだろうか。ほんな気遣いが、彼に出来たとは。
驚いているうちに荒井くんはぐんぐんと前の生徒らとの距離を詰める。
なんとか最下位は免れたようだった。
ゴールをしたのは全体で5番目。17クラス中なのだから御の字だ。
「…………………。」
私はゴールしたあとの荒井くんを目で追っていた。彼はまた、普段通り愛想悪く鋭い目つきで歩く。だが、その内には優しさがあるのではないかと思わなくもなかった。




