13.心を鎮めるもの
5月にもなると、既に桃色の桜はその花びらを散らしていた。そして次の季節を迎えるために緑色の葉を迎える。寂しくもあり、当然の変化でもある。
登校中に公園に植えてある木へとそんな思いを抱く。
今日もまた学校だ。体育の時間もあるので、体育祭に向けて練習をしなければ。
***
5限までの授業が終わる。休み時間。私はお手洗いから戻り、教室へと帰っていく所だった。その廊下の途中。見知った顔とこれまた見知った顔が顔を突き合わせて会話をしていた。
人間の会話なんて珍しいものではないが、人選が人選だ。何せ、その2人は荒井くんと大里先生だった。
「荒井くん。やはり、言葉が少し足りていませんよ。そうですね…あと2,3言多めに話してはどうです?」
「………別に意思疎通がはかれてるなら問題ないと思いますけど。」
「そうですか?ですが、私は貴方と会話を楽しみたいんです。」
「………僕はそう思いません。」
先生に対しても変わらぬ物言いに、感心に近い感情を得る。
「荒井くん。先生相手でもそういう感じなんだ…。」
私に気付いた大里先生は困ったように眉尻を下げる。
「そうなんです山吹さん。……あぁ、勿論、荒井くんらしさといえばらしさなのですが…私、少し心配で…。」
「分かります。こんな物言いじゃ、友達も減っちゃいますよね。」
「いらないし、困らないからいいよ。」
「また、そんなこと言って…。」
荒井くんは吐き捨てるように言って教室へと戻ってしまう。先生はまだ言いかけたことがあったようだが、あまりのとりつく島もない様子に今日は諦めるようだ。
「山吹さん。貴方は、荒井くんと仲が良いですか?」
「うーん…。普通…ですかね。一応、同じ部活動ではありますし…。」
「そうですか。なら、これからも仲良くなさってください。なんて、私が言うのも変ですが。」
確かに過干渉すぎる気もする。まるで幼稚園児の子を持つ母親のような心配性だ。元より先生がその質ある可能性もあるが、少し気にかかった。
「どうしてそんなに荒井くんを気にしてるんですか?」
「そう、ですね…。……以前お話しした心を静めることについて覚えていますか。」
「は、はい。」
以前、先生は言っていた。心を鎮めるのも2種類あると。ひとつは心を押し殺し張り詰めて静める方法。もうひとつは心を解放し甘やかして静める方法。
「荒井くんは確かに落ち着いていますが…それは無理を強いての結果だと感じるんです。だから、それが気がかりで。」
「…………そうなんですね。…それじゃあ、私も気にかけてみます。同じ部活仲間ですし。」
「はい。ありがとうございます。」
大里先生は優しく微笑み、次の担当教室へと移動した。
私も休み時間が終わる前に教室へと戻ることにした。




