1.謎の少年
「は、はぁ、はぁ、はぁ。最悪だ…!」
山吹楓15歳。絶賛ピンチです。それというのも、後ろから明らかに人間じゃない大きい蜘蛛みたいな化け物に追いかけられているからです。
ただ追いかけられているだけじゃないです。周りの電柱とか、その他道路にあるもの全てなぎ倒しているんです。
「が、学校に、行きたいだけ、なのに…!」
そう。今日は私の華やかな入学式。高柳高校へ行く日なのです。だというのに、おかしな化け物におわれています。
何故私が化け物へ驚いていないのかと言うと、その存在を以前から認知していたから。というのも私は妖怪の血がちょっぴり入った家に生まれたのです。両親から聞かされたときはそれはもう驚いた。
でも聞いてみれば入っているのは座敷わらしの血で、何か特殊な力は特になく。強いて言えば他の人よりラッキーらしい。
話を戻すと、妖怪の血が入っていると現存する他の妖怪も目に見えるようになるようで。すなわち、人間と混じっていない純粋な妖怪。
それらは普段、妖の狭間と呼ばれる現実そっくりの異空間にいる。私は近道をしたい時とかによく妖の狭間を通る。何を言いたいかと言うと、入学式の今日も近道のために妖の狭間を通ってしまったというわけだ。まぁ、自業自得だね。
「は、はぁ、はぁ。も、もう、無理、かも…。」
走り疲れ、流石に立ち止まりそうになる。どう考えても止まってしまえば蜘蛛の妖怪に頭から食われてしまうだろうが、やっぱり無理なものは無理だ。私の足は限界だった。
「は、はぁ、はぁ。座敷わらしの、血を引いてるんなら、良いこと、起こってよ…!……わぁっ!?」
立ち止まる前に小石に躓く。アスファルトへ膝を擦り、鈍い痛みを感じる。
「あ……終わった……。」
立ち上がろうにも腰が抜けて動けない。私はただ、迫りくる蜘蛛の妖怪を見上げる。
黒く長い脚。その一本が私の腹を突き刺そうと持ち上がる。
「…………………!」
やはり恐ろしいものは恐ろしい。咄嗟に目を瞑る。蜘蛛の妖怪はひと口でたべてくれるだろうか。それとも何度か分けて人間を味わうのだろうか。
そんな怯えの中、痛みを持つ。だが、それは一向に訪れない。
「…………………あれ?」
目を開ける。もしや既に死んでいるなんて可能性も過ったが、目前の光景からそれはないと知る。
「………………………。」
なんと蜘蛛の妖怪の体が火に包まれていたのだ。赤く揺らめく炎の中、身を捩る妖怪は抵抗虚しく灰になる。
それをしたのは私の前に立つひとりの少年だった。
「あ、あの…ありがとう…。」
「……………。」
彼は何も言わず背を向ける。短く切った黒髪が風に揺れた。
「………………雑魚は妖の狭間になんか来ない方がいいんじゃない。」
「なっ!?雑魚って、私のこと…!?あっ!ちょっと!待ってよ!!」
何とも失礼な少年はそれだけを言って行ってしまう。
「な、何…あの人…。」
助けられたのはありがたいが、随分無愛想だ。なんて思いながら、入学式へ行く途中だったことを思い出す。
「そ、そうだ!早くしないと!『在』!」
『在』と唱え、手で輪っかを作る。これが妖の狭間を生き来する方法なのだ。
普通の世界に戻ってきた私は急ぎ入学式へと向かうのだった。




