第90話 変態公爵の傲慢、ストレイの品格
軽快なリズムに乗せて、会場が一体となって手拍子を打つ。
アイリスは陶酔し、父は呆然とし、客たちは何が起きているのか分からないまま、私のペースに巻き込まれていく。
最高の雰囲気だわ。
しかし、その空気を読めない……いや、読もうともしない男が一人。
バルバロス公爵だ。
彼は顔を真っ赤にして立ち上がり、ワイングラスを床に叩きつけた。
ガシャーン!
鋭い音が音楽を遮り、会場が静まり返る。
公爵は大股でステージに歩み寄り、私を睨みつけた。
「いい加減にしろ! 下品な歌を歌いやがって!
ここは貴族の社交場だぞ! サーカス小屋ではない!」
彼の怒号が響く。
しかし、私は動じることなく、マイクを持ったまま小首をかしげた。
「あら、お気に召しませんでしたか?
これは王都で大流行中の最新曲ですのに。
公爵様は、流行に疎くていらっしゃるのかしら?」
「黙れ! 口答えするな!
貴様は私の『商品』だ! 商品らしく、大人しくしていろ!」
公爵が手を伸ばし、私の腕を掴もうとする。
その指先は脂ぎり、欲望にまみれていた。
私は反射的に身を翻し、ドレスの裾を回転させて彼の手を弾いた。
「……触らないでくださいませ。
商品には手を触れないのがマナーですわよ?」
「なっ……! 避けた、だと!?」
公爵が空を掴み、よろめく。
その無様な姿に、客席からクスクスと笑い声が漏れた。
私はすかさずマイクを口元に寄せ、会場全体に語りかけるように言った。
「皆様、ご覧になりまして?
公爵様ともあろうお方が、レディの手を無理やり掴もうとなさるなんて。
まるで、酒場で暴れる酔っ払いのようですわね」
私の言葉に、会場の笑い声が大きくなる。
公爵の顔色が、赤からどす黒い紫色へと変わっていく。
「き、貴様ぁ……! 私を愚弄するか!
私はバルバロス公爵だぞ! 隣国の要人だ!
私の機嫌を損ねれば、この国ごと消し飛ばすことだってできるんだぞ!」
公爵が吠える。
権力を笠に着た、典型的な脅し文句だ。
でも、それが通用するのは、相手が自分より弱いと思い込んでいる時だけよ。
「消し飛ばす? 面白い冗談ですわね。
でも、その前にご自分の心配をなされた方がよろしいのではなくて?」
私は公爵の軍服を指差した。
私の歌声に反応して、彼の服の縫い目は既に限界を迎えていた。
ボタンが震え、糸が悲鳴を上げている。
「な、何だ? 服が……きつい……?」
公爵が首元を緩めようとするが、指が動かない。
私の魔力糸が、彼の手足を拘束するように締め付けているのだ。
「その軍服、随分と立派ですけれど、中身に見合っていないようですね。
無理に着飾ろうとするから、ボロが出るのですわ」
「貴様……! 何かしたな!
魔法か!? 卑怯な真似を!」
「卑怯? 人聞きが悪いですわ。
私はただ、貴方の『本当の姿』を映し出そうとしているだけ。
……そう、貴方が隠している、醜い欲望と傲慢さをね」
私は一歩前に出た。
公爵が後ずさりする。
その背中が、ステージの端まで追い詰められていく。
「さあ、見せてごらんなさい。
貴方が纏っている虚飾の衣の下にあるものを。
……すべて、脱ぎ捨ててしまいなさいな!」
私が叫ぶと同時に、会場の照明が一斉に点滅し、激しいストロボ効果を生み出した。
ディーノの演出だ。
光と闇が交錯する中、公爵の顔に恐怖が張り付く。
「ひっ、ひぃぃぃ! やめろ! 来るな!」
彼は足を滑らせ、尻餅をついた。
その衝撃で、軍服の背中がビリリと裂ける音が響く。
「あらあら。随分と脆い生地ですこと。
安物買いの銭失いとは、まさにこのことですわね」
私は冷ややかに見下ろした。
公爵の威厳は、もはや地に落ちたも同然だ。
客たちは、恐怖する権力者の姿を、好奇と侮蔑の入り混じった目で見つめている。
「……おのれ、小娘!
覚えていろ! この借りは必ず返す!
衛兵! 何をしている! この女を捕らえろ!」
公爵が叫ぶ。
しかし、彼の私兵団は動かなかった。
彼らもまた、私の仕込んだ『睡眠針』によって、すでに夢の中へと旅立っていたのだから。
「残念でしたわね。
貴方の命令を聞く者は、もうここにはいませんわ。
……さあ、続きを始めましょうか」
私はマイクを握り直し、ケイナに合図を送った。
音楽のテンポが上がり、クライマックスへと向かっていく。
公爵の顔が絶望に染まる。
彼は悟ったのだ。
自分が今、逃げ場のない処刑台の上に立たされていることを。
「歌いましょう、皆様!
偽りの王様を、裸にするために!」
私の声が響き渡る。
パーティーは、狂乱の宴へと変貌していく。
++++++++
軽快なリズムに乗せて、会場が一体となって手拍子を打つ。
アイリスは陶酔し、父は呆然とし、客たちは何が起きているのか分からないまま、私のペースに巻き込まれていく。
最高の雰囲気だわ。
会場の最前列で、私の祖父である侯爵が、微かに口元を緩めていた。
彼は隣に控える側近に、短く言葉を投げる。
『……ふむ。我が孫娘ながら、見事な度胸だ。
この場の空気を完全に支配しておる』
『はい、閣下。公爵の顔色が、見る見るうちに悪くなっております』
侯爵家の面々は、冷徹な観察者としてこの狂宴を見守っていた。
彼らにとって、これは単なるパーティーではない。
没落するフロンティア家と、隣国の公爵という害悪を同時に排除するための、政治的な断罪の場なのだ。
しかし、その空気を読めない……いや、読もうともしない男が一人。
バルバロス公爵だ。
彼は顔を真っ赤にして立ち上がり、ワイングラスを床に叩きつけた。
ガシャーン!
鋭い音が音楽を遮り、会場が静まり返る。
公爵は大股でステージに歩み寄り、私を睨みつけた。
「いい加減にしろ! 下品な歌を歌いやがって!
ここは貴族の社交場だぞ! サーカス小屋ではない!」
彼の怒号が響く。
しかし、私は動じることなく、マイクを持ったまま小首をかしげた。
「あら、お気に召しませんでしたか?
これは王都で大流行中の最新曲ですのに。
公爵様は、流行に疎くていらっしゃるのかしら?」
「黙れ! 口答えするな!
貴様は私の『商品』だ! 商品らしく、大人しくしていろ!」
公爵が手を伸ばし、私の腕を掴もうとする。
その指先は脂ぎり、欲望にまみれていた。
私は反射的に身を翻し、ドレスの裾を回転させて彼の手を弾いた。
「……触らないでくださいませ。
商品には手を触れないのがマナーですわよ?」
「なっ……! 避けた、だと!?」
公爵が空を掴み、よろめく。
その無様な姿に、客席からクスクスと笑い声が漏れた。
私はすかさずマイクを口元に寄せ、会場全体に語りかけるように言った。
「皆様、ご覧になりまして?
公爵様ともあろうお方が、レディの手を無理やり掴もうとなさるなんて。
まるで、酒場で暴れる酔っ払いのようですわね」
私の言葉に、会場の笑い声が大きくなる。
公爵の顔色が、赤からどす黒い紫色へと変わっていく。
「き、貴様ぁ……! 私を愚弄するか!
私はバルバロス公爵だぞ! 隣国の要人だ!
私の機嫌を損ねれば、この国ごと消し飛ばすことだってできるんだぞ!」
公爵が吠える。
権力を笠に着た、典型的な脅し文句だ。
でも、それが通用するのは、相手が自分より弱いと思い込んでいる時だけよ。
「消し飛ばす? 面白い冗談ですわね。
でも、その前にご自分の心配をなされた方がよろしいのではなくて?」
私は公爵の軍服を指差した。
私の歌声に反応して、彼の服の縫い目は既に限界を迎えていた。
ボタンが震え、糸が悲鳴を上げている。
「な、何だ? 服が……きつい……?」
公爵が首元を緩めようとするが、指が動かない。
私の魔力糸が、彼の手足を拘束するように締め付けているのだ。
「その軍服、随分と立派ですけれど、中身に見合っていないようですね。
無理に着飾ろうとするから、ボロが出るのですわ」
「貴様……! 何かしたな!
魔法か!? 卑怯な真似を!」
「卑怯? 人聞きが悪いですわ。
私はただ、貴方の『本当の姿』を映し出そうとしているだけ。
……そう、貴方が隠している、醜い欲望と傲慢さをね」
私は一歩前に出た。
公爵が後ずさりする。
その背中が、ステージの端まで追い詰められていく。
「さあ、見せてごらんなさい。
貴方が纏っている虚飾の衣の下にあるものを。
……すべて、脱ぎ捨ててしまいなさいな!」
私が叫ぶと同時に、会場の照明が一斉に点滅し、激しいストロボ効果を生み出した。
ディーノの演出だ。
光と闇が交錯する中、公爵の顔に恐怖が張り付く。
「ひっ、ひぃぃぃ! やめろ! 来るな!」
彼は足を滑らせ、尻餅をついた。
その衝撃で、軍服の背中がビリリと裂ける音が響く。
「あらあら。随分と脆い生地ですこと。
安物買いの銭失いとは、まさにこのことですわね」
私は冷ややかに見下ろした。
公爵の威厳は、もはや地に落ちたも同然だ。
客たちは、恐怖する権力者の姿を、好奇と侮蔑の入り混じった目で見つめている。
「……おのれ、小娘!
覚えていろ! この借りは必ず返す!
衛兵! 何をしている! この女を捕らえろ!」
公爵が叫ぶ。
しかし、彼の私兵団は動かなかった。
彼らもまた、私の仕込んだ『睡眠針』によって、すでに夢の中へと旅立っていたのだから。
「残念でしたわね。
貴方の命令を聞く者は、もうここにはいませんわ。
……さあ、続きを始めましょうか」
私はマイクを握り直し、ケイナに合図を送った。
音楽のテンポが上がり、クライマックスへと向かっていく。
公爵の顔が絶望に染まる。
彼は悟ったのだ。
自分が今、逃げ場のない処刑台の上に立たされていることを。
「歌いましょう、皆様!
偽りの王様を、裸にするために!」
私の声が響き渡る。
パーティーは、狂乱の宴へと変貌していく。
++++++++
音楽のテンポが上がり、会場のボルテージが最高潮に達する中、バルバロス公爵は追い詰められた獣のように荒い息を吐いていた。
彼の私兵団は全滅し、頼みの綱である権威も地に落ちた。
逃げ場はない。
「……くそっ、くそぉぉぉ!
こうなれば、道連れだ!」
公爵は懐から、一丁の銃を取り出した。
魔力を圧縮して撃ち出す『魔導拳銃』だ。
貴族が護身用に持つにはあまりにも物騒な、殺傷能力の高い代物だわ。
「死ねぇぇぇ! ストレイ・フロンティア!」
銃声が響き渡る。
客たちが悲鳴を上げ、伏せる。
魔力の弾丸が一直線に私に向かって飛んでくる。
しかし、私は微動だにしなかった。
バシィッ!
弾丸は私のドレスに命中した瞬間、火花を散らして弾かれた。
キメラの皮と『対魔力コーティング』の複合装甲。
これくらいのおもちゃで貫けるほど、私の服はヤワじゃないわ。
「な、何だと……!?
弾いた!? 馬鹿な!」
公爵が目を剥く。
私はドレスの埃を払うように、弾かれた跡を撫でた。
「野蛮な武器ね。
せっかくのドレスが傷つくじゃない。
……没収よ」
私が指を振ると、ショウちゃんの影が公爵の手首に巻き付いた。
ギリリと締め上げられ、公爵は悲鳴を上げて銃を取り落とす。
銃は地面に落ちる前に、私の魔法糸に絡め取られ、空中でバラバラに分解された。
「ひっ……! あ、悪魔だ……!」
公爵が後ずさりし、ステージの端まで追い詰められる。
その醜態を、最前列の侯爵が冷ややかに見つめていた。
『……見苦しい。
あれが、隣国の貴族とはな』
侯爵が短く吐き捨てる。
その言葉は、公爵にとって何よりも重い断罪だった。
侯爵家の支持を失えば、彼は国際的にも孤立無援となる。
私はゆっくりと彼に歩み寄った。
その一歩一歩が、彼にとっては死刑執行の足音のように聞こえているはずだ。
「悪魔? 失礼ね。
私はただの服屋よ。
貴方みたいな『汚れたお客様』を、お断りしているだけ」
私は公爵の目の前で立ち止まり、冷ややかに見下ろした。
脂汗をかき、震え上がる初老の男。
かつては隣国の要人としてふんぞり返っていた彼も、今やただの肉塊に過ぎない。
「……ねえ、公爵様。
貴方の罪、数え切れないほどあるわよね。
人身売買、詐欺、横領、そして……私の母国への内政干渉。
今夜、その全てを精算してもらうわ」
私が耳元で囁くと、公爵は白目を剥いて硬直した。
そして、股間からじわりと温かいものが広がり、ズボンを濡らしていく。
失禁だ。
「……あらあら。汚いわね。
でも、安心なさい。
その汚れも、すぐに皆様に見ていただけるわ」
私は指を鳴らした。
瞬間、会場の巨大スクリーンに、公爵のズボンがアップで映し出された。
濡れた股間、震える太もも。
その情けない姿が、大画面で晒される。
「キャアアッ! 汚らわしい!」
「公爵様が漏らしたぞ! あははは!」
会場中から悲鳴と爆笑が巻き起こる。
公爵の社会的な死が、確定した瞬間だった。
「うわぁぁぁぁ! 殺してくれぇぇぇ!」
公爵が泣き叫び、頭を抱えてうずくまる。
もう、彼に再起の目はない。
権威も、名誉も、そして人間としての尊厳も、全て失ったのだから。
「……さあ、フィナーレよ。
アイリス、貴女も道連れよ」
私は視線をアイリスに向けた。
彼女はステージの隅で、ガタガタと震えていた。
公爵の末路を見て、自分の運命を悟ったのだろう。
「い、嫌よ……! 許して……!」
「許さないわ。
さあ、最後のダンスを踊りましょう。
曲目は『全裸の王様』。
貴方たちの化けの皮、全部剥がしてあげるわ!」
私は再びマイクを握り、高らかに歌い出した。
その歌声に反応して、二人の服が、いよいよ限界を超えて発光し始める。
破滅のメロディが、夜空に響き渡った。




