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第87話 最後の晩餐、あるいは決起集会

 日が落ち、会場には招待客が集まり始めていた。


 私たちはフロンティア号のリビングに集まり、ケイナが用意してくれた軽食を囲んでいた。

 メニューは、具だくさんのサンドイッチに、温かいポタージュスープ。

 戦場に向かう前の腹ごしらえとしては、これ以上ないご馳走だわ。


「うん、美味い!

 ケイナちゃんの料理は、王都一番だぜ!」


 ディーノがサンドイッチを頬張りながら絶賛する。

 アルフォンスも、スープを優雅に啜りながら頷いた。


「全くだ。

 この味が、僕たちの力の源だよ。

 ありがとう、ケイナさん」


「い、いいえ!

 お口に合ってよかったです……!」


 ケイナが顔を赤くして照れる。

 彼女は今夜、給仕係として会場に潜入する。

 一番危険な最前線に立つのだ。

 その小さな体に、どれほどの勇気が詰まっているのかしら。


「……みんな、聞いて」


 私が口を開くと、全員の手が止まり、私に注目した。

 ショウちゃんも、スープ皿から顔を上げてこちらを見ている。


「ここまで、本当によくついてきてくれたわね。

 私の無茶振りに付き合わされて、危険な目に遭って、泥まみれになって……。

 普通なら、とっくに逃げ出してるところよ」


 私が苦笑いすると、ディーノがふん、と鼻を鳴らした。


「何言ってやがる。

 退屈な日常より、姐さんとのスリリングな毎日のほうが百倍マシだぜ」


「僕もだよ、師匠。

 君と出会って、僕は初めて『生きている』って実感できたんだ」


 アルフォンスが真剣な眼差しで言う。

 ケースも、眼鏡を直しながら続いた。


「僕にとって、ここは最高の研究室です。

 未知の魔法、新しい理論……。

 社長の隣にいれば、世界の真理に手が届きそうな気がするんです」


 みんなの言葉が、胸に沁みる。

 彼らはもう、ただの従業員じゃない。

 私の大切な家族であり、戦友だ。


「ありがとう。

 私、一人じゃここまで来れなかった。

 この店も、この馬車も、そして今日の作戦も。

 全部、みんながいたから実現できたのよ」


 私はグラスを掲げた。

 中身は、ケイナ特製のノンアルコール『発泡酒』だ。


「これから始まるパーティーは、私たちの集大成よ。

 アイリスと公爵を倒し、過去の因縁を断ち切る。

 そして、胸を張って新しい世界へ旅立つの」


 全員がグラスを持つ。


「この戦いが終わったら、みんなでイマクサの海を見に行きましょう。

 そこには、もっと広くて、もっと自由な世界が待ってるはずだから」


「「「オーッ!!」」」


 グラスが触れ合い、澄んだ音が響く。

 それは、私たちの勝利を約束する鐘の音のようだった。


「さあ、食べた人から配置について!

 時間がないわよ!」


 私が手を叩くと、一斉に動き出す。

 ケイナは制服の襟を正し、ディーノは短剣をチェックし、アルフォンスは道化師の仮面を被る。

 それぞれの役割を胸に、戦場へと向かっていく。


 最後に残った私は、深紅のドレスの裾を翻し、鏡の前に立った。

 そこに映るのは、自信に満ちた『座長』の姿。


「……行くわよ、ストレイ。

 最高のエンディングを、迎えに行きましょう」


 私は馬車を降り、闇夜へと踏み出した。

 遠くから、パーティー会場の喧騒が聞こえてくる。


 開演のベルは、もうすぐ鳴り響く。


+++++++


 私が馬車の扉に手をかけたその時、外から蹄の音が聞こえてきた。

 公爵軍か? と身構えたけれど、現れたのは見覚えのある黒塗りの馬車だった。

 王都の店で使っていた、配送用の小型馬車だ。


「……誰?」


 扉が開き、中から小さな影が飛び出してきた。

 フラッペだ。

 彼は息を切らせ、顔を紅潮させている。

 その足元には、ポチMk-IIがぴったりと寄り添っていた。


「姉上! 待ってよ!」


「フラッペ? どうしてここに?

 店番を頼んだはずでしょう?」


 私が問いただすと、フラッペは真っ直ぐに私を見つめ返した。


「店番なんてしてられないよ!

 今日が……今日が最後なんでしょ?

 父上や母上との決着をつける日なんでしょ?」


 彼は知っていたのだ。

 私が今日、何をするつもりなのかを。

 子供だと思って甘く見ていたけれど、彼なりに状況を理解し、覚悟を決めて来たのだわ。


「……危険よ。

 公爵の兵士もいるし、何が起こるか分からないわ」


「怖くない!

 僕にはポチがいるもん!

 それに……僕も、フロンティア家の一員だ。

 家の最後を、この目で見届けたいんだ!」


 フラッペが拳を握りしめる。

 その目には、以前のような傲慢さはなく、ただ純粋な意志の光が宿っていた。

 成長したわね、本当に。


「……はぁ。分かったわ」


 私はため息をつき、彼の頭を撫でた。


「連れて行くわ。でも、約束して。

 絶対に前には出ないこと。

 舞台袖で、大人しく見ていること。

 いいわね?」


「うん! 約束する!」


 フラッペが嬉しそうに頷く。

 ポチも「ワン!(マカセテ!)」と一声吠えた。


「よし。じゃあ、あんたの席はここよ」


 私は彼を、舞台袖のテントへと案内した。

 そこには、会場全体を見渡せるモニターが設置されている。

 特等席だ。


「ここから見てなさい。

 これが、大人の喧嘩のやり方よ。

 そして、これが私たちの『家族』の終わらせ方よ」


「……分かった。

 しっかり見ておくよ、姉上」


 フラッペがモニターの前に座る。

 その背中は小さいけれど、もう震えてはいなかった。


 これで、本当に全員が揃った。

 私の大切な仲間たち、そして守るべき家族。

 彼らの想いを背負って、私はステージへと向かう。


「行くわよ、ストレイ。

 最高の笑顔で、幕を下ろしてあげましょう」


 私は深呼吸をし、テントを出た。

 夜風がドレスを揺らす。

 遠くから、パーティーの喧騒が聞こえてくる。


 その中心にいるのは、アイリス。

 彼女は今、私が贈った『感謝のドレス』を着て、人生の絶頂にいるはずだ。

 そのドレスが、彼女を地獄へ落とすための拘束具だとも知らずに。


 私の唇が、自然と弧を描く。

 残酷? ええ、そうかもね。

 でも、これは慈悲でもあるのよ。

 偽りの夢の中で踊り続けるより、現実の痛みに目覚めた方が、まだ救いがあるもの。


 さあ、お義母様。

 お父様。

 そして、公爵様。


 私の用意した『最高の舞台』へようこそ。


 今夜は、誰も寝かせないわよ!





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