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第81話 【受理】「嫁入り」という名の強制捜査


 決戦のパーティーまで、あと数日。

 私は王都の工房で、アイリスから送られてきた『嫁入り契約書(偽造品)』を手に取り、ニヤリと笑った。


「さて、と。この紙切れ一枚で、私は公爵家の嫁になる……ことになっているわね。

 なら、花嫁として『嫁入り道具』を準備しなくちゃいけないわよね?」


 私は立ち上がり、ケイナとディーノに号令をかけた。


「行くわよ、みんな。

 フロンティア家本館への、合法的なカチコミ……いいえ、『お片付け』の時間よ!」


 私たちは馬車に乗り込み、フロンティア家の本館跡地へと向かった。

 そこでは、アイリスが明日のパーティーに向けて、仮設のプレハブ小屋で指示を飛ばしている最中だった。


「あら、ストレイ。何の用かしら?

 大人しく店で待っていればいいのに」


 アイリスが不機嫌そうに顔を上げる。

 私は契約書をひらひらとさせながら、満面の笑みで近づいた。


「お義母様、ごきげんよう。

 今日は『嫁入り道具』の選定に参りましたの。

 公爵家に嫁ぐ身として、恥ずかしくない品を持参しなければなりませんでしょう?」


「嫁入り道具……?

 そんなもの、ウチには残ってないわよ。

 火事で全部燃えちゃったもの」


 アイリスが鼻で笑う。

 しかし、私は知っている。

 彼女が燃え残った地下金庫に、大量の財宝を隠し込んでいることを。


「いいえ、あるはずですわ。

 例えば……お母様が大切にされていた宝石箱とか、公爵様から頂いた(偽の)魔石とか。

 それに、亡くなった実母の遺品も、どこかに保管されているはずです」


 私が核心を突くと、アイリスの目が泳いだ。


「な、何を言っているの!

 そんなもの、あるわけないじゃない!」


「あら、そうですか?

 では、私が探しても問題ありませんね?

 もし見つかったら、私の嫁入り道具として持って行っても構いませんわね?」


「……勝手にしなさいよ!

 どうせ何も出てきやしないわ!」


 アイリスは強がるが、その額には冷や汗が浮かんでいる。

 彼女は契約書に縛られている。

 私が「嫁入り」を承諾している以上、私の機嫌を損ねて破談になることを何よりも恐れているのだ。


「ありがとうございます。

 では、遠慮なく」


 私は指を鳴らした。

 瞬間、私の影からショウちゃんが飛び出し、地面に潜り込んでいく。

 同時に、ケイナとディーノが、私が用意した『魔法の風呂敷』を広げた。


「探索開始。

 狙うは地下金庫、隠し部屋、そして屋根裏の隠蔽スペース!」


 私の号令で、スタッフたちが一斉に散らばった。

 私は魔導端末を取り出し、ショウちゃんの視覚とリンクする。

 画面には、瓦礫の下に隠された地下金庫の扉が映し出されていた。


「やっぱりね。

 ショウちゃん、解錠お願い」


『フン、朝飯前だ』


 ショウちゃんの影が鍵穴に侵入し、複雑な魔導錠を内側から破壊する。

 カチャリ、と音がして、重厚な扉が開かれた。


 中には、アイリスが隠し持っていた財宝の山があった。

 金貨、宝石、骨董品。

 それらは全て、父が領民から搾り取り、アイリスが私物化していた「汚れた財産」だ。


「……見つけたわ。

 これだけの量があれば、イマクサの復興資金には十分すぎるわね」


 私は端末を操作し、転送魔法の座標を指定した。

 風呂敷を持ったケイナたちが、金庫の中身を次々と放り込んでいく。

 私の開発した『空間圧縮風呂敷』は、見た目以上の容量を持ち、象一頭でも軽々と飲み込んでしまうのだ。


「ちょ、ちょっと待ちなさい!

 何をしているの!?」


 騒ぎを聞きつけたアイリスが、地下室に駆け込んでくる。

 彼女は空っぽになりつつある金庫を見て、悲鳴を上げた。


「私の宝石が! 私の壺が!

 泥棒! 泥棒よ!」


「人聞きが悪いですね、お義母様。

 これは『嫁入り道具』ですよ?

 貴女が私を売った代金みたいなものですわ」


 私は涼しい顔で言い返す。

 アイリスは顔を真っ赤にして地団駄を踏んだ。


「ふざけないで!

 それは私が苦労して集めた……!」


「苦労? 領民から巻き上げた金で?

 それとも、投資詐欺の横領金で?

 ……公爵様に言いつけてもいいんですよ?

 『母が横領品を隠し持っていました』って」


 私が脅すと、アイリスは口をパクパクさせて黙り込んだ。

 公爵に知られれば、彼女の立場はなくなる。

 彼女は歯ぎしりしながら、自分の財産が持ち去られるのをただ見ているしかなかった。


「……くそっ! 覚えてなさいよ!」


「ええ、覚えていますとも。

 貴女のその強欲さ、私の胸に刻んでおきますわ」


 私は最後の木箱――実母の裁縫箱を回収し、金庫を出た。

 これで、本館に残るべきものは何もない。

 物理的にも、フロンティア家は空っぽになったのだ。


「お嬢様、回収完了です!

 馬車への積み込みも終わりました!」


 ケイナが報告してくる。

 私は満足げに頷き、アイリスに向き直った。


「では、お義母様。

 パーティーの準備、頑張ってくださいね。

 ……精々、着飾っていらして」


 私は優雅にカーテシーをして、その場を去った。

 背後で、アイリスの絶叫が響き渡る。


 これで、脱出の資金と物資は確保できた。

 次は、私たちが乗る『箱舟』――馬車の改造に取り掛かるわよ。


「ディーノ、工房に戻るわ。

 徹夜で作業よ!」


「へいへい。人使いが荒いこって」


 私たちは馬車に乗り込み、王都の工房へと急いだ。

 決戦の日まで、あとわずか。


 私の針仕事は、最高潮に達しようとしていた。


+++++++


 王都の工房に戻った私たちは、本館から回収した「嫁入り道具(略奪品)」の山を前に、ため息をついていた。

 それは、ただの財宝ではない。

 アイリスの執念と、フロンティア家の暗部が詰まったパンドラの箱だわ。


「うわぁ……。これ、呪われてねえか?」


 ディーノが、禍々しいオーラを放つ黒い短剣を摘まみ上げる。

 それは『吸血鬼の牙』と呼ばれる、持ち主の生命力を吸って切れ味を増す危険な魔導具だ。

 アイリスはこんな物までコレクションしていたのね。


「ええ、呪われているわ。

 他にも『不幸を呼ぶネックレス』に『持ち主を裏切る指輪』……。

 よくもまあ、こんなゴミばかり集めたものね」


 私は呆れながら鑑定を続ける。

 普通なら処分に困る代物ばかりだけれど、私にとっては宝の山だ。


「ショウちゃん、影銀糸をちょうだい。

 この呪い、全部解体して『魔力エネルギー』として再利用するわ。

 馬車の動力源にぴったりよ」


『フン、悪食な女め。だが、効率は良いな』


 ショウちゃんの影が、呪いのアイテムを飲み込んでいく。

 毒を以て毒を制す。

 アイリスが集めた悪意が、皮肉にも私たちの脱出を助ける力になるなんてね。


 一方、フロンティア家本館跡地。

 地下金庫でへたり込んでいたアイリスは、空っぽになった棚を見つめ、虚ろに笑い出した。


「ふふふ……。なくなった。全部なくなっちゃった。

 私の宝石も、私の思い出も……」


 彼女は震える手で、自分の首元に触れた。

 そこには、私がすり替えた偽物のダイヤが輝いている。

 彼女にとって、それが唯一残された「希望」だった。


「でも、いいわ。

 これは公爵様からの贈り物。本物の愛の証よ。

 これさえあれば、私はまた立ち直れる。

 公爵夫人になって、あんな小娘が二度と手出しできないくらいの権力を手に入れるのよ!」


 彼女の目には、狂気じみた野心が宿っていた。

 失えば失うほど、彼女の欲望は肥大化していく。

 まるで、底なし沼のように。


「見てなさい、ストレイ。

 貴女が持っていったガラクタなんて、目じゃないくらいの財宝を、公爵様に貢がせてみせるわ!

 私は選ばれた女なんだから!」


 アイリスは立ち上がり、ドレスの裾を払った。

 その背中は、どこまでも強欲で、そして哀れだった。


 工房で作業をしていた私は、ふと手を止め、窓の外を見た。

 本館の方角から、歪んだ魔力の波動を感じる。


「……懲りない人。

 その執念深さだけは、評価してあげるわ」


「お嬢様、どうかなさいましたか?」


 ケイナが心配そうに声をかけてくる。

 私は首を振り、作業に戻った。


「ううん、何でもないわ。

 さあ、急ぎましょう。

 馬車の改造を終わらせないと、明後日のパーティーに間に合わないわよ」


 私たちは夜通し作業を続けた。

 呪いのアイテムから抽出した魔力を、馬車の車軸に組み込み、空間拡張の術式を強化していく。

 外見はボロボロの幌馬車だが、その中身は最新鋭の魔導要塞。

 これが、私たちの新しい「家」になる。


「できた……!

 『フロンティア号』、完成よ!」


 夜明け前。

 工房の中庭に、一台の奇妙な馬車が完成していた。

 見た目は普通だが、魔力視覚で見れば、複雑な魔法陣が幾重にも重なって輝いているのが分かる。


「すごい……! これが私たちの馬車ですか!?」

「へっ、こいつならドラゴンが来ても返り討ちにできそうだぜ」


 仲間たちが歓声を上げる。

 私も満足げに頷き、馬車の扉を開けた。


「さあ、乗り心地を試してみましょうか。

 ……と言いたいところだけど、まずは『最後のお客様』をお迎えしなきゃね」


 私は店の入り口を見た。

 そこには、開店前だというのに、一人の男が立っていた。

 アルフォンスだ。

 彼は大きなトランクを抱え、決意に満ちた顔でこちらを見つめている。


「……師匠。僕も連れて行ってくれ」


「あら、早いわね。

 でも、まだ出発しないわよ?

 まずはパーティーで一暴れしてからよ」


「分かってるさ。

 そのパーティーも含めて、僕の美学でサポートさせてほしいんだ。

 それに……これを見てくれ」


 彼はトランクを開け、中から眩い光を放つ巨大な魔石を取り出した。

 それは、ゴールドバーグ家の家宝であり、市場価格にして1800万ゴールドを下らない代物だ。


「これを、旅費として使ってくれ。

 僕の誠意だ」


 ……やれやれ。

 本当に、愛すべき馬鹿ね。


 私は苦笑いし、彼の手を取った。


「分かったわ。採用よ、パシリ一号。

 その代わり、御者台は貴方の指定席だからね」


「望むところだ!」


 アルフォンスが嬉しそうに叫ぶ。

 これで、旅の仲間は全員揃った。


 さあ、いよいよ決戦の時が近づいている。

 王都での最後の仕事――パーティーでの「ざまぁ」を成功させ、私たちは新しい世界へと旅立つのだ。

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