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第72話 領民の祈り、毒親が手を染める『最後の契約』


 イマクサでの支援活動は、予想以上の成果を上げていた。


 ロドリ商会が持ち込んだ『幸運のストール』は飛ぶように売れ、その売上の一部は現地の復興資金として還元された。


 さらに、私が遠隔で修復したインフラのおかげで、物流も復活しつつある。

 街には活気が戻り、人々の顔には笑顔が浮かんでいた。


 王都の工房で、私は魔導端末のディスプレイを眺めながら、満足げに頷いた。


 「いいわね。経済が回れば、人は強くなる。もう誰かに頼らなくても、自分たちの力で生きていけるはずよ」


 画面には、広場でケッターに興じる子供たちや、市場で活発に取引をする商人たちの姿が映し出されている。

 その中心には、チアキ・ワカタがデザインした『ムッタん♥』の看板が掲げられ、新しい観光名所になりつつあった。


 「お嬢様、見てください! イマクサからの納税額が、先月の10倍になっています!」


 ケイナが興奮した様子で報告書を持ってくる。

 イマクサは母の化粧領。

 つまり、そこから上がる税収は、正当な後継者である私の口座に直接振り込まれる仕組みになっているのだ。

 父が『領主代行』としてピンハネしていたルートは、私が銀行に手を回して完全に遮断済みよ。


 「ふふっ。10倍どころじゃないわ。これからもっと増えるわよ。……さて、こっちが潤えば潤うほど、困る人たちがいるわよね?」


 私は端末のチャンネルを切り替え、本館の監視カメラ、ショウちゃんの影の映像を映し出した。

 そこには、薄暗い部屋で頭を抱えるリックザクと、ヒステリックに叫び散らすアイリスの姿があった。


 『どうなっているのよ! 今月の仕送りがまだ届かないじゃない! 宝石もドレスも、もう売るものがないのよ!』


 『ううっ……。銀行に問い合わせても「口座は凍結されています」の一点張りだ。イマクサからの税収も、どこか別の口座に流れているらしい……』


 「あらあら。随分とお困りのようね」


 私は冷ややかに笑った。

 彼らの生活費は、これまでイマクサからの搾取と、投資詐欺の配当で賄われていた。

 その両方が絶たれた今、彼らは完全な『兵糧攻め』状態にある。

 借金取りの追及は日増しに厳しくなり、使用人たちへの給料も払えず、屋敷の中は荒れ放題だわ。


 『くそっ! これも全部あいつの仕業か! ストレイの!』


 アイリスが机を叩く。

 彼女は薄々感づいているのだ。

 自分たちを追い詰めているのが、死んだはずの(と彼女が信じたがっている)私であることに。


 『あなた、何とかしなさいよ! 剣で脅してでも、金を奪い取ってきなさい!』


 『無茶を言うな! 相手は王都でも評判の店だぞ! 騎士団が警備しているんだ!』


 リックザクが情けなく首を振る。

 彼の中には、もう私に立ち向かう気力なんて残っていない。

 あるのは、終わりの見えない貧困への恐怖だけ。


 「……ざまあみろ、とは言わないわ。これが現実よ。今まで散々、他人を踏みつけにしてきたツケが回ってきただけ」


 私はモニターの電源を切り、立ち上がった。

 彼らが苦しめば苦しむほど、イマクサの人々は救われる。

 それが、この世界の新しいルールだわ。


 「ケイナ、次の準備をしましょう。イマクサの復興は順調だけど、まだ油断はできない。バルバロス公爵が、このまま黙っているはずがないもの」


 「はい! 次の一手は、何でしょうか?」


 「……そうね。そろそろ、現地の『防衛力』を強化する必要があるわ。ただの番犬くんだけじゃ、公爵の私兵団には対抗できない」


 私は工房の奥に眠る、ある『極秘プロジェクト』の設計図を取り出した。

 それは、イマクサの地下遺跡から発掘された古代兵器の残骸をベースに、私の技術で魔改造した『自律型機動要塞』のプランだ。


 「名付けて『フロンティア・ガーディアン』。これをイマクサに配備すれば、どんな軍隊が来ても追い返せるわ」


 「す、すごいです……! でも、こんな巨大なもの、どうやって作るんですか?」


 「ふふっ。材料は現地調達よ。イマクサの山岳部に住む異民族……彼らの持つ『製鉄技術』と、私の魔法を組み合わせるの」


 私はニヤリと笑った。

 敵対している異民族さえも、私のビジネスパートナーに変えてみせる。

 それが、フロンティア・テキスタイルのやり方よ。


 「ディーノに連絡して。異民族の族長との会談をセッティングするようにってね」


 私の号令と共に、新たな歯車が回り始めた。

 経済の次は、軍事。


 イマクサを、難攻不落の要塞都市へと変貌させるための、壮大なリフォーム計画の始まりだわ。


++++++++


 イマクサでの支援活動は、予想以上の成果を上げていた。

 ロドリ商会が持ち込んだ『幸運のストール』は飛ぶように売れ、その売上の一部は現地の復興資金として還元された。

 さらに、私が遠隔で修復したインフラのおかげで、物流も復活しつつある。

 街には活気が戻り、人々の顔には笑顔が浮かんでいた。


 王都の工房で、私は魔導端末のディスプレイを眺めながら、満足げに頷いた。


 「いいわね。経済が回れば、人は強くなる。もう誰かに頼らなくても、自分たちの力で生きていけるはずよ」


 画面には、広場でケッターに興じる子供たちや、市場で活発に取引をする商人たちの姿が映し出されている。

 その中心には、チアキ・ワカタがデザインした『ムッタん♥』の看板が掲げられ、新しい観光名所になりつつあった。


 「お嬢様、見てください! イマクサからの納税額が、先月の10倍になっています!」


 ケイナが興奮した様子で報告書を持ってくる。

 イマクサは母の化粧領。

 つまり、そこから上がる税収は、正当な後継者である私の口座に直接振り込まれる仕組みになっているのだ。

 父が『領主代行』としてピンハネしていたルートは、私が銀行(魔導バンク)に手を回して完全に遮断済みよ。


 「ふふっ。10倍どころじゃないわ。これからもっと増えるわよ。……さて、こっちが潤えば潤うほど、困る人たちがいるわよね?」


 私は端末のチャンネルを切り替え、本館の監視カメラ(ショウちゃんの影)の映像を映し出した。

 そこには、薄暗い部屋で頭を抱えるリックザクと、ヒステリックに叫び散らすアイリスの姿があった。


 『どうなっているのよ! 今月の仕送りがまだ届かないじゃない! 宝石もドレスも、もう売るものがないのよ!』


 『ううっ……。銀行に問い合わせても「口座は凍結されています」の一点張りだ。イマクサからの税収も、どこか別の口座に流れているらしい……』


 「あらあら。随分とお困りのようね」


 私は冷ややかに笑った。

 彼らの生活費は、これまでイマクサからの搾取と、投資詐欺の配当で賄われていた。

 その両方が絶たれた今、彼らは完全な『兵糧攻め』状態にある。

 借金取りの追及は日増しに厳しくなり、使用人たちへの給料も払えず、屋敷の中は荒れ放題だわ。


 『くそっ! これも全部あいつの仕業か! ストレイの!』


 アイリスが机を叩く。

 彼女は薄々感づいているのだ。

 自分たちを追い詰めているのが、死んだはずの(と彼女が信じたがっている)私であることに。


 『あなた、何とかしなさいよ! 剣で脅してでも、金を奪い取ってきなさい!』


 『無茶を言うな! 相手は王都でも評判の店だぞ! 騎士団が警備しているんだ!』


 リックザクが情けなく首を振る。

 彼の中には、もう私に立ち向かう気力なんて残っていない。

 あるのは、終わりの見えない貧困への恐怖だけ。


 「……ざまあみろ、とは言わないわ。これが現実よ。今まで散々、他人を踏みつけにしてきたツケが回ってきただけ」


 私はモニターの電源を切り、立ち上がった。

 彼らが苦しめば苦しむほど、イマクサの人々は救われる。

 それが、この世界の新しいルールだわ。


 「ケイナ、次の準備をしましょう。イマクサの復興は順調だけど、まだ油断はできない。バルバロス公爵が、このまま黙っているはずがないもの」


 「はい! 次の一手は、何でしょうか?」


 「……そうね。そろそろ、現地の『防衛力』を強化する必要があるわ。ただの番犬くんだけじゃ、公爵の私兵団には対抗できない」


 私は工房の奥に眠る、ある『極秘プロジェクト』の設計図を取り出した。

 それは、イマクサの地下遺跡から発掘された古代兵器の残骸をベースに、私の技術で魔改造した『自律型機動要塞』のプランだ。


 「名付けて『フロンティア・ガーディアン』。これをイマクサに配備すれば、どんな軍隊が来ても追い返せるわ」


 「す、すごいです……! でも、こんな巨大なもの、どうやって作るんですか?」


 「ふふっ。材料は現地調達よ。イマクサの山岳部に住む異民族……彼らの持つ『製鉄技術』と、私の魔法を組み合わせるの」


 私はニヤリと笑った。

 敵対している異民族さえも、私のビジネスパートナーに変えてみせる。

 それが、フロンティア・テキスタイルのやり方よ。


 「ディーノに連絡して。異民族の族長との会談をセッティングするようにってね」


 私の号令と共に、新たな歯車が回り始めた。

 経済の次は、軍事。

 イマクサを、難攻不落の要塞都市へと変貌させるための、壮大なリフォーム計画の始まりだわ。


++++++++


 イマクサからの送金が完全に途絶え、王都の銀行からも融資を断られたフロンティア家の本館は、今や幽霊屋敷のような有様だった。

 使用人たちは給料の未払いを理由に次々と去り、残されたのは空っぽの部屋と、埃を被った家具だけ。

 その薄暗い居間で、アイリスは爪を噛みながら狂ったように部屋の中を歩き回っていた。


 「お金……お金がないわ。ドレスも、宝石も、もう売るものがない……」


 彼女の目には、正気の色が薄れている。

 極度のストレスと空腹、そして『転落』への恐怖が、彼女の精神を蝕んでいたのだわ。

 そこへ、裏口の扉が重々しく叩かれた。

 借金取りではない。

 もっと粘着質で、甘い腐臭を漂わせる、夜の訪問者の気配だ。


 「……どなた?」


 「お困りのようですね、奥様。救いの手を差し伸べに参りましたよ」


 現れたのは、黒いシルクハットを目深に被り、顔を包帯で隠した怪しい男だった。

 その声は低く加工されているけれど、独特の『間の取り方』には聞き覚えがある。

 変装したディーノだ。

 彼は私が用意した『闇の金融業者』という役を、ノリノリで演じている。


 「救い……? お金を、貸してくれるの?」


 「ええ。ただし、担保が必要です。貴女に残された、最後の価値あるものを」


 男は革鞄から一枚の羊皮紙を取り出した。

 そこには、血のように赤いインクで複雑な契約文が記されている。

 内容は単純。

 『当座の資金100万ゴールドを融資する代わりに、フロンティア家の全権限(資産・人事・領地運営権)を担保とする』というものだ。


 「全権限……? つまり、この家を売れと言うの?」


 「まさか。あくまで担保ですよ。返済さえすれば、権利はお戻しします。……もっとも、貴女には『切り札』があるのでしょう? 行方不明の長女、ストレイ様を他家に嫁がせれば、莫大な結納金が入るはず」


 男が甘く囁く。

 その言葉は、アイリスが心の奥底で温めていた、最も卑劣な計画を肯定するものだった。

 そう、彼女は私をバルバロス公爵に売り飛ばし、その金で借金をチャラにしようと考えていたのだ。


 「……そうよ。あの子さえ捕まえれば、100万なんてすぐに返せるわ」


 アイリスの目に、ドス黒い欲望の光が戻る。

 彼女はもう、自分が何を失おうとしているのかさえ理解できていない。

 ただ、目の前の現金と、未来の妄想に縋り付いているだけ。


 「契約するわ! 早くハンコを!」


 「賢明なご判断です。では、ここに署名と、血判を」


 アイリスは震える手で羽ペンを取り、サインをした。

 そして、親指を噛み切り、羊皮紙に血を押し付ける。

 ジュウウッ!

 契約書が赤く発光し、彼女の魔力を吸い上げて契約が成立した。


 「……成立しました。これで、貴女は一時的に救われます」


 男は鞄から金貨の袋を積み上げた。

 ジャラジャラという音が、アイリスを陶酔させる。

 彼女は金貨に顔を埋め、高笑いを上げた。


 「あははっ! 見なさい! 私はまだ終わってない! これでまた、ドレスが買える! パーティーが開けるわ!」


 その無防備な背中を見下ろしながら、男――ディーノは、包帯の下で冷酷に笑っていたはずだ。

 この契約書には、私が仕込んだ隠しインク『魔法文字』がある。

 そこにはこう書かれているのだ。

 『返済が一日でも遅れた場合、担保の権利は即座に債権者、ストレイへと譲渡される』と。

 そして、その返済期限は『明日』に設定されている。


 「では、私はこれで。……良い夢を、奥様」


 男は姿を消した。

 アイリスは金貨の山に埋もれながら、来るはずのない未来の栄華を夢見ている。

 自分が今、全ての権利を放棄し、完全なる『無一文』になったことにも気づかずに。


 一方、王都の工房で。

 私は手元に転送されてきた契約書を手に取り、満足げに検分していた。


 「お疲れ様、ディーノ。名演技だったわよ」


 『へっ、あんなチョロい客は初めてだぜ。契約書の中身も読まねえんだからな』


 通信機からディーノの呆れた声が聞こえる。

 これで、フロンティア家の実権は、法的にも魔術的にも完全に私のものとなった。

 アイリスと父は、今や私の掌の上で踊るマリオネットに過ぎない。


 「さあ、お義母様。そのお金で精一杯着飾りなさい。それが貴女の『死に装束』になるんだから」


 私は契約書を金庫にしまい、次の指示を出した。


 「ケイナ、チアキちゃんに連絡して。『ムッタん♥』の新作グッズを大量生産するように伝えて。次の作戦で使うわ」


 「はい! あのキモ可愛いデザイン(ムツゴロウをディフォルメした)は、きっと王都でも流行りますよ!」


 「ええ。流行らせるのよ。……そして、その流行の陰で、私たちは最後の大仕事を成し遂げる」


 次はいよいよ、アイリスが仕掛ける『人身売買』の罠と、それを逆手に取った私の『全裸の王様作戦』が動き出す。


 毒親との因縁、ここで完全に断ち切ってあげるわ!


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