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第50話 【にわかでごめん】最高級ブランドを『お直し』で黙らせる


 共同研究の契約を結んだ翌日。


 アルフォンスは意気揚々と、一着のコートを持ち込んできた。

  それは、王室御用達の老舗ブランド『ロイヤル・クラウン』の新作で、価格はなんと金貨500枚。


 日本円にして約5億円。


 庶民が一生かかっても買えないどころか、地方の城が一つ丸ごと買えてしまうような代物だわ。


 「見たまえ、この輝き! 最高級のドラゴンシルクに、宮廷魔導師が三人がかりで付与した『絶対防御』の結界! これぞ至高、これぞ芸術だ!」


 アルフォンスがコートを広げ、ドヤ顔で見せびらかす。

 店内の客たちがため息を漏らす中、私とケースだけは冷ややかな目でそれを見つめていた。


 「……へえ。確かに素材はいいわね。でも、それだけ」


 「それだけ、だと!? 君はこの服の価値が分からないのか!?」


 「分からないんじゃなくて、見えすぎちゃうのよ。

 ねえケース、あんたはどう思う?」


 私が振ると、ケースは眼鏡の位置を直し、ボロボロの魔導書を開きながら淡々と答えた。


 「魔力伝導率72%。素材のポテンシャルを3割もロスしている。特に肩と脇の下の縫製が魔力の流れを阻害していて、これじゃあ防御結界を展開するのに通常の倍の魔力を消費するよ。燃費が悪すぎる」


 「な、何だと!? そんなはずは……!」


 「それに、この装飾。

 見た目は派手だけど、重心がズレてるわ。

 着ていて肩が凝るでしょう?

 おまけに、通気性が最悪。

 夏場に着たら蒸し風呂状態ね」


 私が畳み掛けると、アルフォンスは言葉を失った。

 図星だったのね。

 彼は額に汗を浮かべ、悔しそうに唇を噛んでいる。


 「う、うるさい! 庶民にこの高貴なデザインが分かってたまるか! これは『我慢して着る』ものなんだ!」


 「出たわね、そのセリフ。

 美しさは我慢、なんて言葉は三流のデザイナーが使う言い訳よ。

 一流はね、機能性と美しさを両立させてこそなの」


 私はカウンターから銀の針を取り出し、アルフォンスに突きつけた。


 「貸してごらんなさい。

 その『最高級』の鼻を、へし折ってあげるから」


 「なっ、何をする気だ! これに傷一つでもつけたら……!」


 「傷なんてつけないわ。ただ『本来あるべき姿』に戻してあげるだけ」


 私は強引にコートを奪い取り、作業台の上に広げた。

 魔力視覚で見れば、その構造的欠陥は一目瞭然だ。


 素材の良さに胡座をかき、縫製の手間を惜しんだ手抜き仕事。

 王室御用達の名が泣くわね。


 「ショウちゃん、影銀糸を準備。ケース、魔力回路の最適化パターンを計算して」


 『フン、雑用ばかりさせおって』

 「了解です社長! 計算完了まで3秒!」


 チームの連携は完璧。


 私は迷いなくハサミを入れ、コートを解体し始めた。


 アルフォンスが「あああっ! 5億が!」と悲鳴を上げるが、無視して作業を進める。


 「いい? 服っていうのはね、着る人のためにあるの。

 ブランドのロゴを見せびらかすためじゃないわ」


 私は不要な装飾を削ぎ落とし、重心バランスを修正した。

 さらに、ケースが計算した魔力回路を裏地に刺繍し、ショウちゃんの影銀糸で強度を補強する。


 作業時間はわずか10分。


 けれど、その密度は宮廷魔導師の一ヶ月分にも匹敵するわ。


 「……できた。着てみて」


 私はリフォームされたコートを放り投げた。

 見た目は以前よりもシンプルになったけれど、その放つオーラは別物だ。

 アルフォンスは恐る恐る袖を通し、そして……固まった。


 「……嘘だろ」


 彼が呟く。

 その顔には、信じられないという驚愕の色が浮かんでいた。


 「軽い。羽のように軽い……! なのに、守られている安心感がすごい! 魔力が、体の一部になったみたいに循環している!」


 「でしょうね。

 無駄な抵抗をなくして、魔力の『通り道』を作ってあげたから。

 これなら、全力で魔法を使っても疲れないわよ」


 アルフォンスはその場で軽くステップを踏み、そして私の方を向いた。

 その瞳は潤み、頬は紅潮している。


 「素晴らしい……! これこそが、僕が求めていた『最強の衣』だ! ストレイ嬢、いやマエストロ! 僕の負けだ!」


 彼が膝をつき、私の手を取ろうとする。

 私はそれを軽くかわし、ニッコリと笑った。


 「分かってくれればいいのよ。

 さて、リフォーム代は高くつくわよ?

 お友達価格で……金貨100枚でどうかしら」


 「安い! 安すぎる! 1000枚払おう! いや、僕の全財産を君に捧げてもいい!」


 「それは重いから結構よ。

 代わりに、これからも良い『素材』(カモ)でいてちょうだいね」


 店内に笑い声が響く。


 こうして、1800万ゴールドの男は、完全に私の軍門に下った。


 権威も、ブランドも、確かな技術の前には無力。


 それを証明した瞬間だったわ。


++++++++


 アルフォンスの心酔ぶりは凄まじかった。


 彼はリフォームしたコートを着て、王都中のサロンや夜会に出没し、「この服は奇跡だ! 神の御業だ!」と宣伝して回ったのだ。


 おかげで、私の店の前には貴族の馬車が列をなすようになったけれど、同時に厄介な連中の注目も集めてしまった。


 「ストレイ・フロンティア! 貴様を『魔導倫理規定違反』および『伝統工芸冒涜罪』で告発する!」


 店に怒鳴り込んできたのは、王立魔導院の老魔導師たちだった。

 彼らは古めかしいローブを纏い、いかにも権威主義といった顔つきで私を睨みつけている。


 「伝統ある魔法付与技術を、貴様のような小娘が勝手に改変するなど言語道断! 直ちに店を畳み、魔導院の査問会に出頭せよ!」


 「……はぁ。また面倒くさいのが来たわね」


 私はため息をつき、奥で研究をしていたケースを呼んだ。

 彼は元魔導院の研究員だから、彼らの扱いには慣れているはずだ。


 「ケース、あのお爺ちゃんたちの相手してあげて。私、忙しいの」


 「ええっ!? 僕があの狸たちの相手を!? 無理ですよ、また胃に穴が開いちゃう!」


 ケースが泣き言を言うが、私は聞く耳を持たない。

 これは彼のトラウマ克服のチャンスでもあるのだから。


 「大丈夫よ。あんたには私がついてる。理論武装で論破してやりなさい」


+++++++


 数日後。


 私たちは王立魔導院の大講堂に呼び出された。


 そこには数百人の魔導師たちが集まり、私たちを処刑するかのような殺伐とした空気が漂っている。

 壇上には、魔導院の長老たちが偉そうに座っていた。


 「被告人、ストレイ・フロンティア。貴様の罪状は明白だ。貴様の使う『魔法糸』とやらは、既存の魔法体系に存在しない異端の術式である!」


 長老の一人が声を張り上げる。

 会場がどよめく中、私は優雅に一礼し、隣で震えているケースの背中を叩いた。


 「さあ、行ってきなさい、弟子一号。あんたの研究成果を見せる時よ」


 ケースは深呼吸し、震える足で演台へと進んだ。


 最初は声が小さかったけれど、魔法で空中に投影したホワイトボードに数式を書き始めると、その目は次第に熱を帯びていった。


 「……確かに、ストレイ社長の術式は既存の体系にはありません。しかし、それは異端ではなく『進化』です! ご覧ください、この魔力効率のグラフを!」


 ケースが示したのは、従来の付与魔法と、私の『お直し魔法』の比較データだった。

 私の魔法は、無駄な詠唱や儀式を省き、素材の特性を最大限に活かすことで、実に10倍以上の効率を叩き出していたのだ。


 「こ、これは……! 数値が間違っているのではないか!?」


 「計測器の故障だ! ありえん!」


 長老たちが狼狽える。

 ケースは眼鏡を光らせ、さらに畳み掛けた。


 「いいえ、計測は正確です。あなた方が『伝統』という名の怠慢に浸っている間に、彼女は『現場』で革新を起こしていたのです! これを認めないのは、学問への冒涜だ!」


 「なっ、貴様……! かつての落ちこぼれが、偉そうに!」


 長老が激昂し、杖を振り上げた。


 物理的な暴力に出るとは、議論で勝てない証拠ね。

 私はスッと前に出て、ケースを庇うように立った。


 「そこまでよ。議論ができないなら、実演でお見せしましょうか?」


 私は指を鳴らし、展開していた魔導で会場の照明を落とした。


 そして、あらかじめ仕込んでおいた『演出』を発動させる。


 暗闇の中に、無数の影銀糸が光り輝き、幻想的なドレスの形を織りなしていく。


 「これが私の答えよ。

 理論がどうとか関係ない。

 美しいか、役に立つか。

 それだけが真実だわ」


 光のドレスが会場を舞い、魔導師たちの頭上を優雅に旋回する。

 そのあまりの美しさと魔力の純度に、誰もが言葉を失い、ただ魅入ることしかできなかった。


 「……美しい。これが、新しい魔法……」


 若手の魔導師たちが呟く。


 長老たちも、杖を下ろし、呆然と光を見つめていた。


 勝負ありね。


 「私の店は、いつでも開いてるわ。

 新しい風を感じたいなら、いらっしゃい。

 もちろん、お代は頂くけどね」


 私はケースの手を取り、堂々と会場を後にした。


 背後から、万雷の拍手が湧き起こる。


 それは、古い権威が新しい才能にひれ伏した瞬間だった。


 「やった……やったぞ! 僕、勝ったんだ!」


 ケースが泣きながらガッツポーズをする。

 私は彼の頭をクシャクシャに撫でてあげた。


 「ええ、立派だったわよ。

 これで魔導院も、私のブランドを無視できなくなったはずだわ」


 こうして、私たちは権威すらも味方につけ、王都での地盤をさらに強固なものにした。

 アルフォンスの金、ケースの知識、そして私の技術。


 このトライアングルは、もはや誰にも止められないわ!



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