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第40話 生存戦略としての『ブランド』構想、そして世界への宣戦布告


 王宮の大広間に、万雷の拍手が鳴り響いていた。


 シャンデリアの光を浴びて、ランウェイを歩くケイナの姿は、まさしく女神の降臨だったわ。


 彼女が纏う『ネオ・クラシック』のドレスは、見る角度によって色彩を変え、歩くたびに光の粒子を撒き散らす。


 観客席の貴族たちは、息をすることも忘れてその美しさに見入っていた。


 「素晴らしい……! あれこそが、真の美しさだ!」

 「あのドレスを手に入れるためなら、領地を一つ売っても惜しくはないわ!」


 称賛の声が波のように押し寄せてくる。

 私は舞台袖で腕を組み、満足げに頷いた。


 勝ったわね。


 バルバロス公爵の妨害も、アイリスの嫉妬も、全てこの喝采の中に飲み込まれて消えた。


 ショーが終わると、私の元には注文の山と、出資を申し出る貴族たちの列ができた。

 国王陛下からも直々に「王室御用達」の称号を授かり、私のブランド『フロンティア・テキスタイル』の地位は不動のものとなった。


 「おめでとうございます、お嬢様! 私、夢を見ているようです!」


 楽屋に戻ってきたケイナが、興奮冷めやらぬ様子で私の手を取る。

 彼女の目には涙が浮かんでいた。


 「夢じゃないわ、ケイナ。

 これが私たちの実力よ。

 ……でも、喜ぶのはまだ早いわ」


 私はケイナを労いながら、視線を壁に掛けられた世界地図へと向けた。

 王都での成功は、あくまで第一歩に過ぎない。

 私の目的は、もっと遠く、もっと広い世界にあるのだから。


++++++++


 翌日。


 私は本店の一室に、主要メンバーを集めた。

 ディーノ、ケイナ、ショウちゃん、そしてロドリ。

 彼らの前で、私は一枚の巨大な羊皮紙を広げた。

 そこには、王都を中心とした流通網の図と、さらにその先――辺境『イマクサ』へと伸びる太い矢印が描かれていた。


 「いい?

 私たちの次の目標は『大衆化』よ。

 王都の貴族だけじゃない、冒険者も、職人も、農民も。

 全ての人が私の服を着て、その機能性に感動する。

 そんな世界を作るの」


 「……本気ですか、ストレイ様。貴族向けの高級品と、庶民向けの量産品では、作る手間も利益率も段違いですよ?」


 ロドリが眉をひそめる。

 商売人としては当然の反応ね。

 けれど、私はニヤリと笑って、懐から一枚の設計図を取り出した。


 「だからこそ、魔法を使うのよ。これを見て」


 それは、私が考案した『魔導ミシン』の設計図だった。

 私の魔導から展開、概念を通じて視覚化され、現存化した『心臓部』を持つミシン、内部的には心臓部を構成する魔力糸が作業者の魔力を取り込むことで動力源となり、複雑な刺繍や縫製を自動で行う魔法の機械。


 これがあれば、熟練の職人が一週間かかる仕事を、わずか数分で終わらせることができる。


 しかもブラックボックスの『心臓部』は私の意思で停止も可能。

 言わないけどね。


 「なっ……! こ、これは……! これが実用化できれば、服飾業界の革命だ!」


 ロドリが設計図に食い入るように見入る。

 彼の目が『ゴールド』マークになっているのが見えるわ。


 「量産体制が整えば、次は物流ね。

 ディーノ、あんたにはイマクサへのルート確保を頼みたいの。

 あそこは素材の宝庫よ。

 現地の特産品を安く仕入れて、私の工場で製品化する。

 完璧なエコシステムだわ」


 「へいへい。要するに、また危険な場所へ行ってこいってことだな? イマクサは異民族の反乱で荒れてるって噂だぜ?」


 「だからこそ、ビジネスチャンスがあるのよ。

 混乱している場所ほど、新しい秩序を求めているもの。

 私たちが服を通じて、彼らに平和と繁栄をもたらしてあげるの」


 私は力強く宣言した。

 単なる金儲けじゃない。

 服で世界を変える。

 それが、私の生存戦略であり、この世界への宣戦布告よ。


 「面白え。やってやろうじゃねえか。姐さんの夢物語に、最後まで付き合ってやるよ」


 ディーノが拳を突き出し、私もそれにコツンと拳を合わせた。

 ケイナも、ショウちゃんも、そしてロドリも、それぞれの決意を瞳に宿している。


 「よし、作戦開始よ!

 フロンティア・テキスタイル、第二章!

 世界中の『綻び』を、私たちが縫い直してやるんだから!」


 私の号令と共に、新しい風が吹き始めた。


 王都から辺境へ。


 私たちのブランドは、国境を越えて広がり続ける。


 その先にある未来が、どんな色をしているのか。


 それを確かめるために、私は今日も針を握るのよ。


++++++++


  事業拡大計画が決まれば、次に必要なのは人材だわ。


 私とケイナだけじゃ、世界を相手にするには手が足りないもの。

 私は王都の街を歩き、才能の原石を探し求めた。


 路地裏で銀細工を売っているチャラそうな青年、スノッツティ。


 彼は通りがかる女性すべてに声をかけ、ことごとく振られていたけれど、その手元で作られる細工の精緻さは目を見張るものがあった。


(情報通りね。)


 「ハロー、そこの美しいお嬢さん! 僕の愛を込めたリングはいかが?」


 「あら、素敵ね。

 でも、その愛、デザインは少し重すぎるわ。

 もう少し引き算を覚えたら、私の店で雇ってあげてもいいわよ」


 私がダメ出しをすると、彼は一瞬キョトンとしてから、パァッと顔を輝かせた。


 「君、僕の芸術が分かるのかい!? ぜひ詳しく聞かせてくれ!」


 こうして、ウザいけど腕は確かな細工師をゲット。


 さらに、ディーノの資料で目星をつけていた優秀な研究者のケース。


 スカウト候補者の報告書を片手に魔導を展開し、魔法視で観察したときには古本屋の前でボロボロの魔導書を立ち読みしていた、妙に顔色の悪い青年。


 今日の彼は私の店の前を通りかかった際、展示していた『自動洗浄ドレス』の術式構造を一目で見抜き、ブツブツと独り言を言い始めた。


 「……ありえない。この術式構成、第3種魔力保存則を無視している。だが、結果として現象は成立している……。一体どういう理論なんだ?」


 その鋭い洞察力に報告書以上に興味を持った私は、彼に声をかけた。


 「あら、詳しいのね。

 お腹が空いてるなら、ウチでご飯を食べさせてあげるわよ。

 その代わり、あんたの知識を少し貸してくれない?」


 彼は最初、怪しんで後ずさりしたけれど、私が即興で壊れた魔導ランプを直して見せると、涙を流して感動した。


 「あ、あなたは……! 僕が長年追い求めていた『感覚的魔導論』の体現者だ! 師匠! どうか僕に、その理論を教授してください!」


 「師匠じゃなくて社長と呼びなさい。

 あんたの知識、ウチの研究開発部で存分に活かしてもらうわよ」


 報告書によれば、どうやら彼は、王立魔導院に所属する学者らしいけれど、研究費をすべて魔導書の購入に充ててしまい、常に極貧生活を送っている変わり者らしい。


 知識は賢者並みだけど、生活能力は皆無。


 まあ、ウチにはケイナという最強の『お母さん』がいるから問題ないわね。


 こうして集まった個性豊かなメンバーたちが、私の工房を賑やかに彩っていく。

 ケイナが彼らのまとめ役として奮闘し、ディーノが影からトラブルを処理する。

 ショウちゃんは……まあ、マスコットとして可愛がられているわね。


 「いい調子だわ。このままいけば、イマクサ支店のオープンも前倒しできそうね」


 私は工房の窓から、活気あふれる王都の街を見下ろした。

 そこには、私の作った服を着て笑顔で歩く人々の姿がある。

 前世では得られなかった、確かな充足感。


 これが、私が求めていた景色なのかもしれない。


++++++++


 けれど、光があれば影もある。


 王都の路地裏、そのさらに奥深く。

 バルバロス公爵の手先である密偵が、私の店の繁盛ぶりを苦々しい顔で見つめていた。


 「……忌々しい小娘め。公爵様の顔に泥を塗りおって」


 彼は懐から飛行用の魔導具を取り出し魔石をセットして、録音した魔導具を括り付けて、本国への報告を送る。


 『ターゲットは王都で勢力を拡大中。通常手段での排除は困難。……プランB、イマクサでの暴動扇動を実行します』


 その報告が、遠く離れたイマクサの地で、新たな火種を生むことになるなんて、今の私はまだ知る由もなかった。


 「さて、みんな! 今日は早めに店を閉めて、決起集会よ! ロドリから差し入れの高級肉が届いてるわ!」


 「やったー! 肉だ肉だ!」

 「ハロー! 僕は君の隣を予約するよ!」

 「師匠、肉の焼き加減についても理論的な考察を……」


 賑やかな声に包まれながら、私はグラスを掲げた。


 「乾杯! 私たちの未来と、これから始まる大冒険に!」


 「「「乾杯!!」」」


 グラスが触れ合う音が、高らかに響く。


 次なる舞台は、未知の素材と危険が待つ辺境の地。


 フロンティア・テキスタイル、いよいよ世界進出の時よ!


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