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剣と薔薇と悪魔奇譚  作者: 桂真琴
Episode3 High tea on a beautiful moonlight evening
20/44

3-2


「『コズミックゲート計画』という、簡単に言えば他惑星への移住計画の一部となる基幹計画があった。太陽系の惑星をテラフォーミングする技術は進化しても、惑星間移動がスムーズじゃなきゃ移住は現実的じゃない。そのために開発されたのが人工的ワームホール『コズミックゲート』だ」

「人工的ワームホールって、実用化は不可能なんじゃないですか? 理論としては昔から存在しますけれど」

「その不可能を無理やり可能にしようとしたのが『コズミックゲート計画』なんだよ」


 リュカはもう一度大きく息を吐いた。


「長年、物理学界が総力上げて研究してきた成果だな。まあ言ってみればファンタジーに出てくるテレポーテーションってやつだ。物体が一瞬で、A地点からB地点まで移動できる。2100年代に人工的ワームホールの開発に成功した国際宇宙開発機構は、2149年に火星への『コズミックゲート』の試験運用に踏み切ったんだ」

「その試験運用をしていたのが、『コズミック管制センター』ですか?」

「その通り。太平洋上のとある無人島に作られた宇宙開発基地で、もともと月へ向かうシャトルや衛星の打ち上げも頻繁に行われている場所だったらしい。そこに『コズミックゲート』を作った。詳しい仕組みはオレも知らないが、少なくとも2149年時点では月と火星へ一瞬で行ける計算が成されていたそうだ。まあ、だからこそ国際宇宙開発機構は試験運用に踏み切ったんだろうが」

「それで、その……コズミックゲートが月や火星じゃなく、ゲヘナへ繋がってしまった、ってことですか……?」


 ローズはおそるおそる尋ねる。しかしリュカは軽く首を振った。


「いや、試験運用は最初はうまくいっていたそうだ。当時を知る高齢者に聞くと、当時のニュースでも連日報道されていたという。今日は月のどこそこへ貨物船が到着したとか、初めて火星へ有人船が到着した、とか」

 ローズが目を輝かせた。

「え……じゃあ、じゃあ人類は月や火星へ一瞬で行けていたんですか?!」

「しばらくはな。だが――事件が起きた」



 リュカは瀟洒なティーカップを傾けてすべてを飲み干した。底に大量の砂糖が溜まっていたが、リュカの視点は空中の一点に定まったまま、硬い表情も変わらない。


「ある日突然だったらしい。それまで運用は順調で、毎日のように宇宙船がゲートから出入りする様子の報道から一転、コズミックゲート内で事故が起きた、と報道されてからゲートの映像はぱったりと公開されなくなった」

「事故……」

「その事故の衝撃により、コズミックゲート内で『特異点』が生じた。『特異点』はいわばバグのような地点となり、そこに開いた穴からゲートが裏返って一つとなり、別の大きなワームホールが出現した――とかなんとか後で説明されたそうだが、コズミックゲート内で何が起きたのか、真実を知る人間は残念ながら存在しなかった。これはあくまで、帰還した宇宙船のすべてを調査して立てられた仮設だ」

「え?! コズミックゲート内にいた宇宙船は帰ってきたんですか?」

「ほぼすべてな」

「すごいじゃないですか!」

「ただし、乗客はすべて行方不明か、残っていたとしても――凄惨な状態の遺体となって発見された」

「そんな、それってまさか」


 ローズは言葉を失う。リュカは軽く頷いた。


「いくつかの宇宙船内に潜んでいた未知の生物(エイリアン)の仕業だ。宇宙船が帰還したのは、そいつらの意思で帰還させたんだ」

「意思って……」

「そいつらは地球に降り立ち、人々を――宇宙船が帰還したコズミックゲート管制センターに常駐していた人々を襲った。今では『悪魔』と呼ばれる未知の生物はとても狡猾で知能が高かった。事故によって『裏返った』コズミックゲートから、奴らは仲間を呼び寄せたんだ。恰好のエサ場を見つけたとばかりにね」

「ひどい……!」

「これが一般的に『ゲヘナ開門』と呼ばれる事件だ。さしずめ、宇宙人による宇宙侵略ってやつだな」


 リュカは冗談めかしたが、ローズの表情は暗い。


「コズミックゲートは……その未知の生物(エイリアン)の故郷の星につながった、ってことですか?」

 リュカは首を振る。

「わからない。コズミックゲートから湧き出るように悪魔が出てくるようになったのは確かだそうだがな。とにかくそれ以来、人類はコズミックゲートの向こう側を『ゲヘナ(地獄)』と呼び、コズミックゲートはいつしか『ゲヘナの門』と呼ばれるようになった。それが2150年、10月31日に起きたことだ」

「この雑誌には……この『ゲヘナの門』跡は、聖地だって書いてあります。五年前、2183年の『聖戦』で、キリスト教系対悪魔戦闘特殊部隊『聖騎士団』によって『ゲヘナの門』が閉じられ、世界を救った証だって」

「世界を救った証、ねえ」

 皮肉気に口の端を上げたリュカに、ローズはおそるおそる言った。


「あの……確か聖騎士団、って、リュカとティナさんが所属していた組織でしょう?」





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