表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と薔薇と悪魔奇譚  作者: 桂真琴
Episode 2 DEAD OR ALIVE
13/44

2-4



 すでに人だかりができている雑居ビルの一階部分には、洞窟のような大きな穴が開いている。

 店は定休日だったらしく、暗い穴の向こうは無人のようだ。ということは怪我人はなく、通報も遅れるから、すぐにJSAFは来ない。


「この隙に……はいはいちょっとすいませーん」

 リュカは野次馬を押しのけて、まだうっすらと煙を上げる現場に足を踏み入れる。


 ラビットボマーは爆破現場に次回予告を残していくらしい。

 そのネットの情報を信じるなら、JSAFが到着する前にその予告を手に入れ、先回りして捕まえやすくなる。


「予告、予告っと」

 念のため『セラフ』を構えて進む。

 愛銃は旧式の回転式銃リボルバーをリュカが独自に改造チューンアップしたもの。いつもは対悪魔用特殊弾を装填しているが、今は対ヒト用の麻酔弾に切り替えてあった。


 じゃり、と足の下で破片が音を立てる。リュカはめちゃくちゃになった店内にざっと目を走らせた。


「使っているのは古いタイプのプラスチック爆弾だろうな。安価でどこででも手に入るタイプのやつだ。完全な愉快犯だな」


 ありふれた犯罪者だが、憑依体という点が見過ごせない。


「祓ったらまた賞金パアだからな。まだイマイチ手加減の仕方がわからねえから変化する前に捕まえたい……お、見つけた」


 おそらく爆心からは最も遠いであろう、レジカウンターがあったと思しき場所。

 ステンレス台の残骸の上に、小さな白いウサギのぬいぐるみが何かの間違いのようにちょこん、と座っている。


「ラビット……ラビットボマーねえ。最高にイケてないセンスの持ち主だな。早くとっ捕まえて換金してやったほうが世の中のため――」

 ウサギに手を伸ばしたリュカは次の瞬間、愛銃『セラフ』を構えて振り返った。

 突如背後に現れた気配に身体が反応したのだ。


「……へ??」


 思わず間の抜けた声が漏れる。

 そこには、小学校高学年くらいの女の子が立っていた。


 黒いジャージの上下に、白い丈夫そうなスニーカー。そしてなぜかぱんぱんに膨れた小さな防災リュックを背負っている。銀色のツインテールを揺らして傾げるその顔は薄暗い中でもたいそう端整だとわかる。

 どこかの国のお姫様と言われたら信じるだろう。奇妙な格好の中にそういう品性が漂っている。


「そのウサギはあなたの物じゃないですよね?」


 聞いてくる声は少女のものだが、とがめる口調は妙に大人びている。


「……そうだな。オレのじゃない」

――この少女は一体何なのか。


 まさかこんな虫も殺さないような美少女が攻撃してくるとは思わないが、上級悪魔には憑依の気配を巧みに隠すものもいる。銃を手にしたままリュカは答えた。


「今から持ち主に届けに行く。だから残念ながら、君にあげることはできないんだ」


 親切のつもりで子ども向けの言い方をしてやると、少女はすみれ色の双眸をけわしく細めて呆れたように言った。


「あなた馬鹿なんですか?」

「……なんだって?」

「邪魔しないで」

「おっと?!」


 不意打ちだった。突き飛ばされてよろめいたリュカの脇をすり抜け、少女はウサギを手に外へ走っていく。


「あっ、おいっ待て!」


 脱兎のごとく走る少女は意外と速く且つすばしこい。人の多いこの街では小柄な少女の方が走るのに圧倒的に有利だった。


「くそっ、なんだってんだよあのクソガキっ、人の賞金首をっ」

 子どもの賞金稼ぎや狩師など聞いたことはない。

「まさかあの見た目で20歳でしたとかいうオチか……うおっと?!」


 目の前を走る少女が突如、消えた。


「どこいった?!」


 小さな影は雑居ビルと雑居ビルの間に入っていったのだと気付いたときには完全に見失っている。大人ではあり得ない。子どもだからこその逃走経路だ。


「だから子どもは嫌いなんだーっ」


 ビルの谷間に見える昼下がりの空に向かって、リュカは叫んだ。








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ