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4. アトの出番

 そのとき、焦げたゴブリンの下から、跳ね除けて一際大きなゴブリン(大)が飛び出してきた。「しまった」僕がハッとしてそちらを見たがもう遅かった。ゴブリンに振り上げた棍棒が、アトの脳天めがけて振り下ろされるところだった。


 ガンッッ!シンプルながら、鈍い音がする。ゴブリン(大)が「フヘヘ」と気味の悪い笑い声をあげて、そして驚きの表情に変わった。


 アトは自分の体ほどはあるゴブリンの棍棒を、その小さな短剣で受け止めていた。ふっと、笑う。


「よかった、まだ元気なやつがいるんだね。オレの出番、なくなっちゃったかと思った」


 風が巻き、アトの髪が逆だった。小柄な肉食獣のような目をして、ゴブリン(大)を睨みつける。どうやらアトも戦闘モードに入ったようだ。


 ゴブリンがそれからもなお、棍棒をふるい続けるが、アトはそれを交わした。交わすたびにギリギリの場所になっていくが、それはゴブリンの動きが追いついたからではない。


「よっ、ほっと。あ、今のは少しかわしすぎたかな」


 アトはいかに最小で、ギリギリのところでかわせるか、試しているようだった。


「ちょっとお兄ちゃん、真面目にやってよ。ロア、そろそろ帰りたいんですけど!」


「もう少しいいじゃない。オレだってこういうの久しぶりだし」


 アトはかわしつつ、やがてゴブリンが疲れてくるのを見て、つまらなそうにする。


「ありゃ、もう終わりなの?運動不足じゃない、ゴブリン君」


 いうと同時に、飛び上がって木の短剣でゴブリンの頭を叩いた。すると一撃でゴブリンは倒れ、地面に突っ伏す。


「はい、終わり」


 アトは腕を回しながらこちらに戻ってきた。まだまだ動き足りないという顔をしている。


 そのとき、突っ伏したゴブリンが顔をあげ、「おおおおおおおお」唸り声を上げた。その声に応えて、先ほどの左の通路から「うおおおおおおおおお」三倍くらいの音量の唸り声が返ってきた。


 僕は左の奥にあった木の格子を思い出した。バリバリ、メリメリと木柵がちぎられ、破壊される音がしたかと思うと、何か巨大なものの足音がこちらに急接近してきた。


「アト!やばい!あっちに何かの猛獣がいたみたいなんだ」


「モージュー?もしかして、ゴブリンより強い?」


 アトがワクワクした顔で僕を見た。頼もしいけど、同時にアトのこういうところは心配でもある。同年代と比べてアトの強さは異常なほどだが、まだ8歳の子供なのである。思わぬところで足がすくわれることもありうる。


 通路の奥から飛び出してきたのは、巨大な狼だった。


 ゲッ。


 僕は嫌な予感がする。見れば思ったとおり、ロアが目を輝かせている。


「オオカミしゃんだあ!」


 狼はロアのかぁいいものランキングでかなり上位に入る。大きさなど関係なく、もふもふしていて狼であればロアはなんでも良いみたいだった。


 そう、現れた狼は大きい。四つ這いの姿でも、立っている人間の背丈ほどある。その牙の一本一本が研がれたナイフのように鋭い。


古代狼ダイアウルフじゃないか」


 ゴブリンとは比べ物にならない、上位レベルの魔物だ。大きだけでなく、通常の狼より賢くて高い洞察力を持つ。僕は震える指で<二次元パネル>を開いた。この魔物に有効なアイテム、何かあっただろうか。


 古代狼はゴブリン(大)を守るようにうろうろしていたが、やがて僕の方に向き直ると飛びかかってきた。


「借りるよ!」


 アトが僕の打撃の杖を取ると、狼の牙を受け止めた。そのまま弾き飛ばされ、壁に足をついて着地する。


「すごい力だね!」


 嬉しそうに言って、壁を蹴って狼に突進した。一瞬で間合いを詰めて、狼に頭に向けて杖を振り下ろす。狼は後方にとんでそれをかわし、大きく口を開いてアトを威嚇した。


「あはは、かわされちゃった」


「ちょっと、お兄ちゃん!おおかみしゃんをいじめないでよね!」


 ロアが制止し、頭の上に乗ったクエちゃんも「きゅう!」と吠えた。


「いじめてないよ!ちょっと遊んでる…だけ!」


 アトは間合いを詰めた。その足元を中心に、風が渦巻いている。古代狼の顎や爪が振るわれるたび、風と共に跳躍しそれをかわした。そのまま、つかず寄らせずのヒットアンドアウェイで杖を振るい続けた。


 しかし、いかに打撃の杖に魔法がかかっているとはいえ、あの牙とやり合うほどの耐久はない。だが僕は、アトの握り手に白印が浮かび、打撃の杖が淡い白の光に覆われているのに気がついた。白印の力で、手に持った武器を強化している。


 噛み砕こうという巨大な顎をかわし、横に回るとアトは杖を振り下ろして古代狼の頭を撃った。怯んだところに、杖を左右に振るった連撃で狼をのけぞらせる。


「ここまでかな!?」


 アトがさらに間合いをつめたその背中に、後方から飛んできた炎の矢が当たった。


「うあっちぃ!ちょっとお!」


 アトが振り返ると、その横をすり抜けてロアが古代狼の方にかけていく。そのまま、首に縋り付いてアトの方を睨んだ。


「お兄ちゃん、そこまで!いじめないでって言ってるでしょ!」


「ロア!ばか!古代狼はまだまだ元気だよ!」


 そのロアを振り解き、古代狼がその大きな口を開いた。8歳のロアなど丸呑みにされてしまいそうな大きさだ。僕は心臓が止まりそうになり、叫んだ。


「ロアあああ!」

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