3. ロアだって活躍したい!
「僕が先行して左を見てくるか。アトとロアはちょっと待ってて」
「おいちゃん、ちょっと待って」
アトが僕の打撃の杖に触れて何か短い言葉を発した。すると、打撃の杖の先がうっすらと光始める。
「継続光。灯りだよ。松明は僕が持ってるね」
「ありがとう!」
僕は杖を先に出して洞窟の先を照らしながら、注意深く奥へすすんだ。
僕の左手につけた腕輪がうっすらと光始める。生命探知の魔法がかかっていて、生物は青、魔物は赤く光る。その腕輪が赤く光っている。
通路を出た先の部屋は行き止まりになっていて、奥に大きな木の格子が置かれている。木の格子の中からガサガサっと動く音と、獣の息遣いが聞こえた。注意が一瞬逸れたとき、すぐ横からゴブリンの息遣いが聞こえた。部屋の入り口の横で隠れていたゴブリンの棍棒が振り下ろされる。
「わかってたさ」
僕は部屋から通路に下がってそれをかわした。この手の待ち伏せはゴブリンの常套手段だ。杖を構えながら、今きた通路をジリジリと下がる。
「アト、ゴブリンがいる!」
「キエェェ!」
僕が叫ぶのと同時に、ゴブリンが叫んだ。その声が岩肌に反響し洞窟中を響き渡る。まずい、これは仲間に知らせる声だ。僕は急いで先ほどの部屋に戻り、アトに合流する。ゴブリンも僕を追いかけ、部屋に出た。すると反対側の通路からも、ゴブリンたちの賑やかな声が聞こえてくる。
「大勢、来るみたいだね」
アトが笑いを堪えていた。短剣を構えて、今にも飛び出しそうになっている。
「おいちゃん、どーするの?」
ロアが緊張感のない声を出した。僕のことを待ちくたびれた様子で、あくびをしている。
「とにかく、挟み撃ちにならないよう、下がろう」
来た入り口の方に下がり、僕とアトが並んでロアを守るように立った。そこに弓が飛んできて、アトが剣で払った。
「飛び道具だ!」
見ればゴブリンを3体従えた大柄なゴブリンが、弓を構えてこちらに矢を向けている。アトはそこから目を離さず、
「風の護り、出そうか?」
「うん、頼む」
「風よ!付き従え!」
アトが短く言うと、僕たちの周りを風が渦巻き始めた。これである程度の威力の矢は風に阻まれて届かないが、あまり近距離の矢や物理攻撃は防げない。
そこで突然、
「ああーーー!」
ロアが大声を出した。あまりの声の大きさに、びっくりしたアトが涙目で耳を押さえている。
「なんだよ、急に大きな声で」
「お兄ちゃん、ずるい!それ、ちゅーきゅー魔法、じゃん!」
「え?そうだけど、なんで?ずるくないよ」
「ロアだってかっこよくチューキュー使いたいのにぃ!」
あ、そう言うことか。僕は青くなる。
「仕方ないだろ!お前の魔法は制御できてないんだから!」
「できるもん!ロアの方がお兄ちゃんより先にチューキュー使えるようになったんだもん!」
そう言ってロアが詠唱を始める。
「ちょっと、ロアちゃん?中級魔法は使わない約束では?」
「ばかロア!こんな洞窟でお前の魔法使ったら!」
「あ、バカって言った!ロア、バカじゃないもん!バカっていう方がバカなんだからね!」
言うと同時に両手を前に出す。やばい、本気だ。僕は耳を塞いでロアにすがりつき、アトは手を出して風の護りを強める。
「見てて、おいちゃん!ロアがかっこよくやっつけるね!中級火球!!」
ロアの手からバレーボールくらいの火球が飛び出してゴブリンの方に向かったかと思うと、次の瞬間、
ドッグォオオオオオオオオオオオ
空中で破裂し、あたりは爆風と閃光に包まれた。暗闇に慣れていた僕の目が眩む。やがてゆっくりと目が慣れてきて、当たりの惨状が目に入ってきた。
岩が削れた瓦礫が散乱し、部屋の隅っこに生えていた草が火をあげている。その中央でこんがり焼けたゴブリンが折り重なって倒れていた。
「どう、ロアのチューキュー!お兄ちゃんのより、すごいんだから!」
「すごいんだから!じゃないよ!」
煙に咳き込みながらアトが言った。
「僕たちも巻き込まれるところだったよ!おいちゃん、大丈夫?」
魔法を撃つ時、術者の周りには自己防衛の障壁が貼られる。そのことを知っていた僕は、ロアに縋り付いて無事だった。
「なんともないよ。けど、ロア。ダメだよ、約束を破ったら。中級魔法はもっと練習してうまくなるまで使わない約束だったよ」
僕はロアを諭した。すると途端にロアは涙目になる。
「だって、ロアだって、かっこいいとこ見せたかったんだもん」
僕に叱られたと感じたロアは一転してしゅんとなってしまった。僕はかわいそうになって、その頭を撫でた。
「中級魔法を使わなくたって、ロアちゃんは十分、かっこいいよ。今日だっておいちゃんの手伝いに、こんな暗い洞窟までついてきてくれたじゃないか?」
「そぅお?」
「うん」
「おいちゃん、ロアのこと好き?」
「うん、大好きだよ」
するとロアの顔がパッと輝いた。
「ロアもおいちゃん、だーいしゅき!」
抱きつくロアと僕を、アトが呆れたように見ている。
「甘すぎるよ、おいちゃん」




