1. ダンジョン!きた!
全6話。
今日中に完結予定です。
「おいちゃん、ここじゃない?」
兄のアトが、まだ声変わり前の幼い声で言った。父親譲りのサラサラの銀髪に、母親譲りの大きな赤い目をしている。来月の誕生日が来れば、9歳になる。
青いマントに子供用のレザーアーマー、腰には短剣を模した木刀を差していて、小さいながらも剣士だった。
アトが指差す先には、丘の斜面に生い茂った草に隠されて、洞窟の入り口が見えた。中は暗く、先が見えない。
「あそこぉ?やだなあ、虫さんがいっぱいいそう」
妹のロアが自分の体を抱いて言った。アトと同じ銀髪に赤い目、髪は女の子らしく三つ編みにしてサイドテールにしている。ロアも同じく次の誕生日で9歳。
お揃いの青いマントに、ゆったりとしたローブに古びた樫の杖を持っている。一応は、魔法使いだった。
そのローブのフードから、手乗りサイズの黒い子犬が出てきた。
「きゅう!きゅう!」
「だよね、クエちゃんだってあんなとこやだよね!」
ロアが子犬の顎を撫でると「きゅううう」と気持ちよさそうに顎をあげた。背中に申し訳程度の小さな蝙蝠の羽が生えていて、嬉しそうにパタパタさせた。犬にしか見えないが、歴とした狼の魔物である。
アトとロアは双子の兄妹だった。二人はそっくりで、美しい母親に似て人形のように愛くるしい見た目をしている。だが、性格はまるで違っていた。
「ロア、やっぱり入るのやめようかなあ」
ロアが言い出した。アトが詰め寄る。
「はあ?ここまで来て何言ってんのさ」
「ロア、虫、嫌いだもん!あんな暗いところで踏んじゃったら…」
そこまで言って、ロアが身震いする。
「誕生日にケーキでスペシャルベリーミックスが食べたいって言ったのはロアだろ!あの高いやつ!いつものおつかいクエストじゃお金たまらないから、ダンジョン行くの決めたのロアじゃないか!」
「こんなに暗いとこなんて知らなかったもん!あ、でもおいちゃんが抱っこしてくれるなら、ロア行けるかも!」
ロアが上目遣いで僕を見上げた。肩に乗った子犬も一緒に見上げる。え、子供抱っこしてダンジョン入るの?本気…なんだろうなロアだから。
アトは僕の前に割って入って、
「そんなことできるわけないだろ!魔物退治に来たんだぞ!おんぶしてたら、おいちゃん戦えないじゃん!」
「アトがなんとかすればいいじゃん!パパみたいな剣士になるんでしょ!?」
「それとこれとは今、関係ないよ!」
「まあまあ」
僕はいがみ合う二人の間に入った。
「とりあえずおんぶでもいいか?抱っこだと手が塞がっちゃうからね。けど、魔物が出たら降ろすかもしれないよ。それでいいかい?」
「わあい、おいちゃん大好きぃ!」
ロアが僕に飛びついた。もちろん抱きつかれて、悪い気はしない。僕がデレデレしてたのか、アトがジト目で僕を見ている。
「おいちゃんは、甘やかしすぎだと思うよ。あ、ベーしてる!おいちゃんが見えないとこでベーってしてる!」
「ロア、そんなことしないもーん。おいちゃんはロアのこと大好きだから、ロアの言うことなんでも聞いてくれるの!」
勝ち誇ったようにロアが言う。確かにロアに頼まれると大概のことはOKしてしまう。この子が少しわがままに育ってしまったのは、僕のそうしたところにも原因があるかもしれない。
アトが先行し、松明を持って中を覗いた。
「なんかキィキィ音がするよ。わっ!」
その途端、中からコウモリの群れが集団で飛び出してくる。
「わ、コウモリさん!」
「アト!」
目を輝かせるロアの声を聞きながら、僕がアトの名を呼ぶ。しかし洞窟の入り口にいたはずのアトの姿が消えている。
「アト!どうした、どこ行った!?」
「ここだよ」
気がつけばアトは洞窟の斜面の上につかまっていた。「びっくりしたね」何事もないように降りてくる。
「いつの間に?」
「え?見てなかったの?ジャンプしたんだよ」
アトはにこにこしている。見ていたけど、いつジャンプしたのかまるでわからなかった。
「けど、いきなりだったね。なんだか楽しくなってきたよ」
アトの目の色が少し変わっている。アトは普段はおとなしいが、スイッチが入るとちょっと人が変わるところがあった。
「コウモリさん、まだ中にいるかなあ」
興味津々にロアが入り口の方を見ている。
「ロアはコウモリが好きなんだよね」
「うん!かあいいもん!」
かわいい、かなあ。気味悪くて、僕は苦手だけど。
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