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バッドエンドの向こう側  作者: 白い黒猫
愛花の世界

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10/14

恐怖の時間

 気がつくと手錠をはめられていて天井から下がるフックに吊るされていた。

 慌てて背伸びしてフックから外れようともしたが、その前にフックが上昇してしまい足も浮き完全に吊り下げられてしまう。

 男がリモコンを持っていてそれで操作したようだ。

 正面の鏡には無様に吊るされた私の姿が見える。

「ラブホなんて初めてきたけど、なかなか楽しいな。

 こういった部屋もあるなんて。

 もっと前に気がつけば良かった。色々役に立ったのに……」

 必死に暴れ何とか逃げようとする私を眺めながら男はノンビリとそんな事を言ってくる。

 吊るされるという事は、手首と肩の負担が思った以上に大きい。暴れるとさらに肩が辛くなる。

 痛くて私は直ぐに暴れる事もできなくなった。ジッとこの状況のまま辛い手首と肩の痛みに耐えるしかない。

「で、お返事は?

 お前が周子ちゃんの代わりをしてくれるの?」

 近づいて耳元で囁くように聞いてくる。

 どっちも嫌だが、そんな答えは求められていない。

 私はガチガチと歯を鳴らし震えることしか出来ない。

 カチャっと音がする。視線を鏡に向ける。鏡の中の男の手にナイフが握られているのが見えた。

 男が見やすいように私の顔のある所までナイフを持った手を上げてから、その刃を私の頬に躊躇うことなく滑らせた。切られたショックが大きすぎるせいか逆に痛み感じなかった。

 鏡の中で吊るされて頬から血を流す自分の姿を見てから、遅れて痛みがやってくる。

 冷静でいれたのはここまでだった。


 男は私の体ナイフの刃を滑らせ次々と傷つけていく。大きな血管のある場所は避けているようで、傷の数の割に血はあまり流れていない。切り傷が時間と共増えていき、着ていた服も赤く染まっていく。

 服もナイフでボロボロとなっていき、あられもない状態になっているが、恥ずかしいと感じる余裕もない。

 次に何処を切られるか? という恐怖で常に緊張状態が溶けない。

 最初は浅く入れられていた傷も、次第により深いモノへとかわっていく。痛みも強く鋭い感じへとなっていく。それまで切られた場所も痛みが治まる訳もなく私に痛みを主張しつづけている状況。時間は痛みを追加する為にだけ過ぎていく。


 痛みと恐怖で、私は叫び泣き続けるしか無かった。

 そんな私の様子を男は楽しんでいる様子もなく、冷淡な感じ。私の様子を見つつ、まるでつまらない作業をしているだけのように淡々とナイフを使っていく。


 泣き叫んでも降ろして貰える事はない。どのくらいの時間が経ったのかも分からない。

 出来たのは、涙と鼻水で顔をグシャグシャにしながら『ゴメンナサイ』『助けて』『もう切らないで』『やめてください』『許してください』と繰り返し男に縋るだけ。

 自分を痛めつけている男に、何故許しを乞い謝っているのか? 何故助けを求めているのか? その意味も分からないまま叫び続けるしか無かった。


 何十回その言葉を言い続けたのだろうか? 百近く、いやそれ以上叫び続けた気もする。

 流す涙が、顔の傷の痛みに染みてそれもまた痛い。それでも涙が止まらない。

「愛花ちゃん、バカなの?

 謝って欲しい訳では無いんだよ。

 俺に誓うべき言葉あるだろ?」

 耳元に囁くように、男がそんな事言って、今度はナイフを腿に深く刺す。

 私は必死に男が求めている言葉が何かを考える。

「……言う通りにします! 周子お姉様に、もう関わりません! 痛いのはイヤ……」

 私は絞り出すようにその言葉を口にする。

「ほんとに? 口先だけじゃないのか?」

 そう言ってまた、別の場所を刺してくる男の言葉に私はもう一度繰り返す。しかし男は目を眇めて私を見つめてくるだけ。

 本気の言葉では無いと判断されたら、また痛めつけられる時間が続く。下手したら今日終わっても次の今日に捕まえにこられて更に続けられる可能性もある。

 私は本気の言葉だと伝わるように気持ちを込めて『二度と逆らいません! 邪魔もしません! 言う通り周子お姉様から距離を取ります!』と叫び続ける。もう声がかすれて出なくなるまで……。

 これ以上こんなに時間を続けられたら狂ってしまう。もう限界だった。私は必死に声を出し続けた。


 何十回も男が求めている言葉を、繰り返し叫び続けたことで、なんとか納得してもらえたようだ。男は満足そうに笑う。

 優しくも見える顔で笑い私の頭をクシャクシャと撫でる。男の顔に人間らしい表情が戻ってほんの少しだけホッとする。

「やっと理解してくれたか。

 良い子良い子。

 このまま良い子でいてくれよ。

 素直に良い子にしていたら、痛いことも辛いこともないから。

 この世界にはあんたのような子にとって楽しい事いっぱいある。だからお前の人生楽しめ。

 ほら、もう泣くな」

 私はもう痛め付けられない。そう感じ、安堵したのかそこで意識を失った。

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