さんぽ
三題噺もどき―にひゃくはちじゅうはち。
外に出ると、痛いほどの日差しが、視界を白く染めてきた。
思わず目を閉じてしまう程に、眩しい光。
もうそろそろ、本格的な夏がやってくるのだろう。
今は梅雨の時期だ。毎日ジメジメとうっとおしい。
「……さて」
開いた扉を閉じ、玄関に広げられた靴の上に座る彼を見やる。
今扉を開いたのは、数字ではなくて体感でどれくらい暑いのかと確認したかっただけなのだが……。
何を期待したのか、ご丁寧にリードを咥えて、行儀よくお座りしている。
「……まだ行かないよ」
分かったのか分かっていないのか。
こてんと、首を横に倒す。
結構男らしいタイプの方のお顔をしているのだが、こういうところは他に負けないほどに可愛いと思う。
「準備終わったらね」
靴の上に座る彼の頭を軽くなで、部屋へと戻る。
身体が大きい彼の横を抜けるのは、まぁなかなか大変なんだが。
何せ、玄関は狭いし、彼は大きい上に重いし、ガンとして動こうとしないし。
もう慣れたが。
……おかげで何個靴がつぶれたことか。
「……」
リードを咥えた彼の横を抜け、部屋の廊下を進む。
当然のように、後ろからカチャカチャと足音が続く。
彼のことも考えて、マットでも敷こうと思って、だいぶたった。いい加減やらないとなぁ……買ってはあるからいつでもできる。
でも、この足音が何気に好きだったりする。
「んー」
今日は天気もいいし、散歩がてらピクニックと洒落込もうと思っていたのだがtね…外の暑さが想像以上すぎて、面倒になってしまった。
散歩はいくにしても、ピクニックは今度だな。
「よし。」
とりあえず着替えよう。
散歩に行くだけだし、荷物も最低限で良い。
動きやすいいつもの格好にするとして……
―おっと。
「もーちょっとまって」
ぐいぐいと体を押し付けてくる彼を宥めつつ、服を取り出す。
我慢ができないから早くしろと急かして来るのは、いつものことだが。やっぱり重い……。
これに耐えながら色々とこなすようになってきたので、体感が何気に鍛えられている気がする。多分。
「……」
こちらの意図がきちんと伝わったのか、少し離れたところにすとんと座る。
どれだけ楽しみなのかがうかがい知れるほどに、尾を左右に振っている。
毎日行っている事ではあるが、毎回こうして喜んでくれれば、散歩のしがいもあると言うものだ。
散歩中も、ルンルンで歩いてくれるから、こちらも嬉しくなる。
まぁ、あの力で惹かれるのはなかなかに大変だが、いい運動にもなるし。うん。
「……」
着替えを済ませ、いつもの散歩用バッグの中身を確認する。
お、あれを入れておかないと……。よし。
後は……入ってる。
あと、財布と、携帯と……。
「……よし」
とりあえず、こっちの準備は終わり。
出る前にもう一回確認するとして……。
「おいで」
大人しく座っていた彼を呼ぶ。
呼んだ途端に、意気揚々とこちらへ向かってくる。
そんなに距離ないから、そんな勢いで――
「った」
勢い押し倒された。
どうどう宥めつつ、加えていたリードを手に取る。
ん。頭はいいから、大人しく座ることは出来るね。
「……んしょ」
彼の美しい毛並みを巻き込まないように注意しながら、止めていく。
その間、大人しくしつつ、テンションは上がりつつ……尾はもう千切れるんじゃないかと思う程の勢いで動いている。
「…よし」
なんとか準備を終え、立ち上がる。
そのままの脚で玄関へと向かう。
彼はもう、我慢できずに前を進んでいく。
玄関に到達すると、靴を履くためにかがむ。
「……」
その間ずっと、隣でそわそわしている。
まだお座りをしているあたりが、ホントに賢いいい子だなぁ……。と毎度感心してる。
うちの子は大きくてカッコよくてかわいい上に、こんなに賢い……。
「よし、いこーか」
ガチャリと玄関の扉を開く。
先程よりも強くなったのではないかと思う程に、まばゆい日差しが、じくりと目をさしてくる。
それでも、今度は、目を閉じたりはしない。
「……」
何度見ても。
毎日見ても。
やっぱり飽きはしないし、美しいと感心させられる。
美人は三日で飽きるとかいうが……嘘だな。
「……」
陽の光の下で、キラキラと輝く。
美しい色を身に纏う、彼。
聞いたところによると、狼の血をひいているらしい。
そのおかげか、野性味のある顔をしている。
ピントした大きな耳に、凛とした精悍な瞳。
「……」
キラキラと瞳を輝かせながら、尾を振って。
まばゆい光をその身に纏って。
「さ、いこうか」
「わん!!!」
お題:楽しい・色・狼