▷『始まりは』
ここはどこだろう。
起きたばかりの粋は考える。
寝る前の記憶がない。
立ち上がると、先程まで自分が寝そべっていた場所に、跡が付く。
何故記憶がないのだろうか。
人は、寝ている間の記憶を所持していない。
だが、寝る前の記憶は鮮明に残っているものだ。
「(この広い草原はどこなんだろ…。)」
少女はふと思う。
ここから抜け出せば、記憶が戻るのではないだろうか。
と。
決めた事は、早速実行に移す。
この言葉は、記憶が無くなっていても少女の体に染みついているものだった。
ならば早速実行に移そう。
「記憶を戻す旅に。」
少女は一歩、前に足を踏み出した。
数分前、決意を決めた粋は、早速一直線に歩いていた。
向かう先には一つの森。
粋は、
「(あの森に行けば、何かしら発見できるのでは?)」
と思い、その思いひとつで留まることなく歩き続けていた。
森の前に着くと、一つの大きな門があることに気付いた。
鉄製の錆びた、門番も居ない門だ。
でも、見ているとどこか惹かれる門。
粋は何を思ったのか、その門をくぐった。
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目の前に広がる光景は、森の緑一色。
……ではなく、賑やかな城下町。
後ろを振り返れば、先程くぐった錆びた門は無くなり、
その代わりに、兵士のような恰好をしている門番と白い鉄製の錆びていない門があった。
「(どういうこと…?)」
いきなりの事に驚いて、その場にたたずんでいた粋に人がぶつかった。
ぶつかった相手を見てみると、こげ茶の二つ結びをした女の子だった。
「…あぁ…!ご、ごめんなさい!」
そう言って少女は急いで立ち上がり去ろうとした。
「あの…ここの街について……教えて貰っても…いいでしょうか…?」
粋は先程この街に着いたばかりで、この街の事を全く知らないのだ。
知るには、この街の人達に聞かないといけない。
だが、残念ながら粋にはそんな能力を持ち合わせていないのだ。
そう、粋は世間でいう「コミュ症」という類。
あれでもスムーズに言えた方だ。
「(スムーズに……言えた……。)」
心の中で歓喜していると、少女から返事が返ってきた。
「えぇ、良いわよ!」