46、武器選定の儀
10時15分、祖母が乗っている新幹線の到着を知らせる案内が電光掲示板に流れた。次々と階段から下りてくる人たちの中に、祖母の姿を探した。しばらく目を凝らして待っていると、エスカレーターに乗って下りてくる祖母の姿が見えた。こちらに気付いたのか、帽子を握って手を振ってくれた。
「まぁ!」
真新しい制服に身を包んだ具視を前にして、祖母は感激の声を上げた。少し大きめの制服を指で触っては具視の顔を見て、にっこり笑った。
「具視ちゃん、少し見ないうちに、こんなに立派になって。よく似合ってる。本当におめでとう。身長、また少し伸びたんじゃない?」
「そうですか?」
具視は頭をかいた。
「おばあちゃん、あらためて紹介しますけど、こちらが俺に手紙をくれた藤原也信さんの弟、也草さん」
「初めまして、いつも具視がお世話になってます」
「こちらこそ」
也草は短く言った。
「案内します。車をロータリーに止めていますから」
也草は丁寧に言うと、祖母のキャリーケースをひょいと手に持って歩きだした。その後龍太郎ともあいさつを済ませ、4人を乗せた車は出発した。具視たちが車に戻って来るころにはすでに聴具の姿はなく、影の中に戻ってくれたみたいだ。
祖母は通り過ぎていく建物に興味津々で「あのお店、とっても素敵ね」と言いながら目を輝かせていた。「也草くん、あの建物は何かしら」と隙あらば質問し、也草はそのたびに説明してくれた。そうしているうちに車は払霧師大学敷地内に到着した。さっそく正面入り口から中に入ろうとすると、小柄な女性が出てきて深々とお辞儀をした。黒い髪をきれいにまとめ上げ、花のかんざしを着けている。
「払霧師大学へ、ようこそお越しくださいました。波江具視さんですね」
「はい」
「学長の渋咲花と申します。本日は入学式と武器選定の儀を行いますので、部屋までご案内します」
想像していた学長とは正反対の人だったので、具視は拍子抜けして目をしばたいた。それに、武器選定の儀とはなんなのだろうか。沸々といろんなことを考えながら歩いて行くと、地下に続く階段を下りて長い廊下を渡った。どこに行くのかと思いきや、自販機がある待合室に立ち寄った。
「武器選定のため、保護者の皆さんはこの場でお待ちください。具視さん、こちらへ」
不安な顔で也草たちを見返すと、龍太郎が来て肩をポンポンたたいた。
「大丈夫、俺と也草も通った道だ。自分だけの武器を見つけて来い」
言われるがまま1人でついて行きながら、なんでもっと早く教えてくれなかったんだという気持ちになっていた。具視はてっきり、きょうは入学式に出て記念撮影をしておしまいだと思っていた。
通された部屋は、真っ暗で何がどこにあるのかさえも分からない所だった。パチッと明かりがついてその全貌が明らかになる。広い部屋にはずらっと5メートルはある巨大な棚が何列にもなって続いていた。それぞれにアルファベットと数字が振られている。大学の地下にこんな所があったなんて。
「ここは、地下にある武器保管庫です。払霧師大学に入学したら、まず先に自分の武器を所持しなければなりません。払霧師にとって、道具は自分の命のようなもの。霧を払う守護影の光を宿す器は、鍛え抜かれた武器でなければなりません。
現役の払霧師にも剣や刀を扱う者、弓や槍、銃やハンマーを扱う者……はたまた拳につけた金具で戦う者もいます。この倉庫に保管された武器の数は、およそ1万。初代払霧師の金次が残した武器鍛錬の書に基づき、研究し作られた物です」
「1万もある中から、たった一つを選べと?」