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ジャンク・ボンド 第三章 13

 テレーゼが戦槌を手にして、扉を鉄格子ごと壊してしまった。

 おかげで、周囲が粉塵まみれだ。


 彼女の行動を予測できなかったレッドは、大量の粉塵を吸い、咳込むしかなかった。


 涙目になりながら、部屋を出ようとする。


 「ゴホッ。ゴホッ。とりあえず、あの二人を探さないと!」


 そんなレッドを後目に、テレーゼが踵を返し、股間を押さえながら悶絶する敵に近付いた。

 ハンマーを振り上げながら、だ。


 そして砕封魔が、問いかける。


 「嬢ちゃん達は何処にいやがる? 答えねぇと――潰すぞ」


 「ひゃっ!?」


 敵が、またもや言葉にならない声を上げながら、首を横に激しく振り出した。


 「喋ってくれるよなぁ?」


 テレーゼの顔が、敵に迫っていく。

 彼女の顔が、表情がないため、よけいに怖い。


 「ひゅっ!」


 今度は、敵が首を縦に激しく振っていた。


 「“ひゃっ”とか“ひゅっ”じゃ分かんねぇだろ?」


 「左に行ったところにある階段を下りた地下室にいますっ!」


 一息も吐かず発した敵の声は、上擦っていた。


 「良し」という刀の言葉と同時に、何故かハンマーが振り下ろされた。


 「……」


 振動音が収まると、床に置き去りにされたハンマーの横で、敵が気絶していた。


 「一丁上がり」


 そんな砕封魔の行動を、レッドは廊下から覗きながら苦笑いするしかなかった。


 「……とりあえず、行こうか」


 レッドは、敵の言った通りに廊下を走り出していた。


 後ろからテレーゼが追随して来るのを確認すると、声をかけた。


 「さっき、嬢ちゃん“達”って言っていたな? もしかしたら、別々にいるかもしれないのに、何でだ?」


 「隣のマジックミラーの部屋から、包帯が見つかったんだよ。退室したタイミングからすると、ユズハのものだろうな」


 「一体誰が彼女を?」


 「これも退室したタイミングからすると――ブラウンの可能性が高いだろうなぁ」


 「分からんだろ。さっきの三人組かもしれないだろ?」


 「わざわざ、まどろっこしい“計画”を立てるようなヤツが、危険を冒してまで、俺達と戦うか?」


 「――計画?」


 「詳細は分からねぇが、多分俺達の――“無力化”ってところかな」


 「無力化?」


 「まぁ。人質……だろうな」


 「なるほど。そうなると、人質は一人より二人が良いという訳か」


 「確率の話、だがな。多分間違いねぇ」


 「それにしても、ブラウンは何のために、こんな計画を?」


 「この前も言ったろ? 背景には、位の高い貴族がいるってよ」


 「じゃあ。その貴族の命令で?」


 「だろうな」


 二人が、会話をしながら廊下を走っていると、右側に下へ続く階段を発見した。


 その階段は、相当奥深くまで続いているらしく、口を開けて、レッド達を待ち構えているようだった。

 まるで光すら呑み込む程の闇が続いていた。


 「……」


 闇に躊躇して、一瞬息を呑んだレッドが、その口に足を踏み入れようとしたときだった。


 何かが背後から聞こえたのだ。


 何かを叩くような鈍い音が、不規則に、しかも何度も聞こえる。


 「ひぇっ!」


 レッドが、冷水を浴びたように、体を恐怖で硬直させた。


 そして、ゆっくりと黒目を右端に寄せていく。


 しかし、それでは背後が見えないので、結局、首をまるで錆びれた歯車のように、ぎこちなく後ろへ回すしかなかった。


 そこには、厳重に鎖で封された扉が一つあった。

 その扉を内側から叩いている音らしい。


 「な、何だよ。びっくりさせるなよ……」


 精一杯粋がってみせたが、レッドの声は上擦っていた。


 その後、肩を大きく下ろし、息を吐き出した。

 そして、階段に足を掛けた。――その時だった。


 刀の言葉が、レッドの足を止めさせたのだ。


 「扉を開けるぞ」


 その言葉に、レッドが振り返った。


 「そんなことより、二人を助ける方が先だろ」


 「だから、だ」


 「?」


 「敵の計画を知れるかもしれねぇし、人出はあったって困らねぇだろ?」


 「そ、それはそうだけど……」


 「“敵の敵は味方”ってな」


 砕封魔の言葉の直後、テレーゼが刀で鎖を断ち切った。鎖の落下音が廊下に響いた。


 しかし、その音がしても、誰も駆けつけることがなかったことからすると、少なくとも敵は近くにはいないということだろう。


 彼女が取っ手に手を掛けると、ほとんど引く力を入れずに、扉が内側から勢いよく開け放たれた。


 直後、何かが廊下に投げ出された。


 「んん……!」

 投げ出されたのは、猿轡をされて全身を縛られた、一人の男だった。


 レッドが慌てて猿轡を外す。


 「大丈夫ですか!」


 しかし男は、礼を言うどころか「助けてください!」を繰り返すばかりで、要領を得ない。


 そんな男に痺れを切らしたのか、テレーゼが刀の切っ先を、男の眼前に突き付けた。


 「おめぇは、もしかして“ブラウン”か?」


 急に突き出された刀に、目を白黒させた男が、激しく頷いた。


 「は、はい!」


 頷いた男の言葉に、今度はレッドが目を白黒させる。


 「ブラウンだって!?」


 言葉を詰まらせるレッドに対し、砕封魔が言葉を硬くした


 「……勘が当たっちまったか」

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