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ジャンク・ボンド 第二章 9

 マシンの蒸気が高らかと噴出し、戦闘が開始した――。


 背後のパイプを引き摺りながら、一歩、また一歩と着実に前進してくる。


 その度に、地響きと振動が床、いや建物全体を揺さぶった。


 「……!」


 振動に怯えるアイザック。つい出口に向かおうと、体の向きを変えてしまう。


 そこへ、ある声が飛び込んできた。


 「逃げないで! 息子さん見てますよ!」


 「!」


 レッドの言葉に、我に返ったアイザックが、粉塵に咳き込む息子に視線を移した。


 そして一呼吸おいてから、木刀を握り直した。


 「くっ……!」木刀の切先が震えていた。


 目を前方へ戻すと、マシンが視界一杯に広がった。というか、大きな図体のため、視界に収まらないのだが……。


 「――!」


 まるで柱のような右足が、アイザックに向かって傾き、蹴り上げられた。


 空気がうねる。


 強風に煽られるレッドが、何かを喚ていた。「本当にテスト用!?」


 一方アイザックは、「ひぇー!」と奇声を上げながらも、その蹴りをギリギリのところで回避する。


 振り下ろされた足が床に激突し、大きな穴をこさえた。レッド達の体が、暴力的に揺さぶられた。


 「ひぇー!」


 もう一つ奇声がしたかと思うと、同時に甲高い音が響いた。


 木刀がマシンの脛に当たったのだ。


 これが人間なら、どんな大男でも痛みに顔を歪ませているのだろうが、眼前の巨人は黙って次の攻撃に移るだけ。


 右手を振り上げたのだ。何故か天井に穴が開いた。


 二階から悲鳴が聞こえた気がした。


 「ちょ、ちょっと、テストの意味知ってる? もしかして俺だけ違う言語使ってる!?」


 レッドのツッコみすらも、頭上から降り注ぐ瓦礫の音によって掻き消されてしまう。


 それに対し、アイザックは相変わらず奇声を上げながらも、瓦礫とマシンの攻撃を何とか躱していた。


 遠くで受付が、紙に冷静に記入している。


 「反射神経は……合格、と」


 レッドが「アンタは試験官失格だ!」とツッコんでいたが、それどころではない。


 このままでは建物が倒壊しかねない。


 さっきまで、頭上高く留まっていたマシンの右拳が、にわかに凄まじい速さで打ち下ろされた。


 目で追うことはできたが、体が追いつかない。


 「……」


 アイザックはとりあえず木刀を離さない――それだけを肝に銘じることしかできなかった。


 瞬間、衝撃音がしたかと思うと、いつの間にか父親の体が床にめり込んでいた。


 「!」


 しかし、その姿は、辺りに充満する粉塵によって、少年達からは隠されていた。


 「父ちゃーん!」


 飛び出そうとする少年の腕を、レッドが慌てて引っ張った。


 腕に痛みが走ろうが、構わず粉塵の海に飛び込もうとする少年の目の前に、マシンの足が急接近していた。


 ワンテンポ遅れていれば、踏み潰されていただろう……。


 少年が、マシンに対する恐怖と自身の無力さに、歯噛みしながら見上げると、そこには、粉塵を身に纏いながら悠然とそびえ立つマシンの背中があった。


 まるで死神のような背中に、一瞬臆したが少年は我に返り――涙を堪えることができなくなっていた。

 その後、「父ちゃん!」と叫びながら、レッドの手を振り解き、粉塵や蒸気の嵐のなかに飛び込んでしまった。


 そんななか、一つの声が聞こえた。「く、来るなっ!」


 父親だ。


 しばらくすると、粉塵が沈静し周囲の状況が少しずつ明らかになってきた。


 室内、と言うにはあまりにも開放的な空間の真ん中で、瓦礫とともに床に埋もれながらも、木刀をマシンの右肘に突き刺し、動きを封じる父親の姿があった。


 そして、マシンのけたたましい駆動音が、急に止んだ――。


 そんなマシンの代わりに、受付の声が響いた。「攻撃力……合格!」


 「……」


 惚けていた少年の目に、みるみる光が灯った。再び涙が溢れ、その勢いのまま叫びながら走っていた。


 「父ちゃん!」


 少年は知らなかった。父親が合格したその陰で、レッドがマシンのスチームパイプを刀で断ち切っていたことを――。


 溜息とともに「まったく」と口にしたレッドは、なぜか微笑んでいた。


 そんなレッドに、砕封魔がツッコんだ。


 「あれ? いつもなら文句言ってるクセに」


 しかしレッドは微笑みを消さない。


 「そっちだって、俺の体勝手に使っておいて。どうせ、“面白そうだったから”と言い出すんだろ?」

 「やっと、俺の考えが分かったきたか」


 「ばーか」と言うレッドの視線は、泣きながら抱き合う父子に向けられていた。


 そんな父子に、受付が一応眉根を寄せながら、機械的に言葉を並べるために近づいた。


 「感動に浸っているところ申し訳ありませんが、アイザックさんの今の体では、次のテストに進めません」

 

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