【 決 死 行 】
バゴンをバゴスと書いてしまっている不具合を見かけましたら誤字脱字報告おねがいします(`・ω・´)ゞ
「なんだ……あの化け物は……」
「オークエンペラーだ」
「エンペラーって……Sランクの?」
「そうだ。オークの中でも最強最大のバケモンだよ。俺だって初めて見る。しかも――」
「三体もいるじゃないか」
双眼鏡で覗いた先は、魔物の群れの向こう側。
魔物によって踏み潰された森の残骸が広がっていて、そこに三体の巨大なオークエンペラーが今もどこから取り出したのか岩を投げる態勢に入っていた。
「あんなのが来たら、いくらこの町の壁や門が頑強でも……」
「無駄だろうな。ただ」
「ただ?」
「彼奴らが近寄ってこないのはきっと魔素の消費が激しいからだと睨んでいる」
「つまり、あの投石が終わるまで耐え切れれば勝機はあるってことか」
「何を持って勝利とするかによるが――」
しかしその言葉が終わるか終わらないかのうちに事態はさらに悪化した。
ドガッ!
バギャッ!!
バギャッ!!
三体のオークエンペラーが同時に放った大岩が、狙ったかのように門扉に命中したのである。
いや、双眼鏡の先で三体のオークエンペラーはニヤリと笑った気がした。
あれは確実に狙っている。
「外側の一番門扉が破壊されたぞ!!」
「魔物を中に入れるな! 上から投げ落とせる物は全部投げ落として門の前を塞げ!!」
悲鳴のような声が響く。
「ど、どうすれば……このままじゃ二番門も」
うろたえる俺の背後から突然野太い声が響いた。
「ギルマス!!」
その声の主は【青竜の鱗】リーダーのバゴンであった。
どうやらここに来るまでにも町の中に入り込んだ魔物と戦ってきたのか、その顔や体には魔物の血が張り付いていて。
壮絶な姿のままバゴンはギルマスに悲壮な決意を込めて一つの作戦を口にした。
「ギルマス、このままでは門を突破されるのも時間の問題だ。だから俺たちが行く!」
「なんだと」
「俺たちが裏門から出て魔物の薄い部分を突破してあのオークエンペラーを襲撃すると言っている!」
「死ぬ気か?」
「このままではどうせ全滅だ。それに青竜の防具を持っている俺たちならオークエンペラー相手でも守りに徹すれば十分時間稼ぎは出来るはずだ」
俺は気がついた。
こいつらは……【青竜の鱗】はユーリスを追い出し、この場にいれば確実に状況を打破できたであろう戦力を失わせた責任を取ろうというのだ。
「責任を取るつもりか?」
俺はバゴンの前に立ち、思わずそう口にした。
その言葉にバゴンは頷いて肯定する。
「今外に出てあんな化け物と戦ったら確実に全員死んじまうぞ」
「承知の上だ」
俺はなんだか哀しくなって叫んだ。
「ユーリスが出て行ったのはお前らだけのせいじゃないんだぞ! ここにいるグリンガルだって、他のハンターだって同罪だろ!」
「だが、最後の一押しをしたのは俺たちだ。それに今この状態で他にこの町を救う選択肢があるのか?」
「それは……」
「それともお前は俺たちこの町の人たちまで見捨ててまた全てから逃げろとでも言うのか!?」
ブルードラゴン討伐で仲間を失い、逃げて逃げてこの町にやってきて、またユーリスの力を目の当たりにして逃げた彼ら。
そんな彼らがやっと逃げずに戦うというのだ。
それを止める権利は俺には何も無いことに気がついて、何も言い返せず下を向いてしまう。
「ギルマス!」
「……わかった。俺はお前たちが出るタイミングに合わせて魔物どもを誘導するように攻撃をさせよう」
グリンガルはそう言うと、懐から取り出した紙に何やら書いてバゴンに手渡した。
「攻撃はそこに書いてある時間に行う。タイミングを間違うなよ」
「わかっている」
「それと、お前たちが帰ってくるまでここは任せろ。だから……死ぬんじゃねぇぞ」
グリンガルはそう告げると作戦を指揮するために去って行く。
俺はその背中を見送ってからバゴンに告げた。
「本当に死ぬなよ。お前は生きて俺の結婚式でユーリスに詫びを入れる仕事が残ってるんだからよ」
「……ああ、絶対に死なない。約束しよう」
そう言って去ろうとしたバゴンだったが、その足を止めて振り返る。
「ところでお前と誰の結婚式だ?」
「そ、そんなのまだ言えるわけねぇだろ!」
「そうか。まぁ頑張れ」
バゴンはそれだけを言い残して仲間の待つ壁の下へ向かっていった。
「まだ告白すらしてねぇなんて言えるわけないだろうが」
そういえば。
ユーリスに送り返す手紙には見栄を張って『フェリスに告白したら一発でOKもらえて、毎日ラブラブに暮らしてるぜ』とか毎回嘘の報告をしているのを思い出し、俺はこんな状況だと言うのに恥ずかしさに悶えそうになる。
どごーん!
だがそんな間もオークエンペラーと魔物たちの攻撃は続いていて。
俺は我に返ると今やるべきことを考え始めた。
【青竜の鱗】が間に合うかどうかはわからない。
だが、もし間に合っても間に合わなくても、俺達はこの町の門を守らなければならない。
せっかくバゴンたちが命をかけて時間を作ってくれても、この町が壊滅してはすべてが無駄になる。
「考えていても仕方ねぇ。このことを団長に伝えてこなきゃ」
俺はバゴンのあとを追う様に階段に向かうと、一気に駆け下りて作戦本部の置かれている兵士の詰め所へ走ったのだった。
次回、遂にアイツがやってくる!




