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6話 異質な二人

「ここがムートの街よ」


 ラピスちゃんがそう言ってぼくは辺りを見渡した。街はとても賑やかで、たくさんの建築物が並び、一人だと間違いなく迷子になってしまうだろうと思わされる広さだった。ちなみに当然のことだが、ラピスちゃんは街につく少し前から、自分で歩いている。街の中でもぼくにおんぶされている勇気があればぼくはラピスちゃんのことをラピス様と称えていたかもしれない。ぼくにはそんな勇気は到底出ないだろう。これはぼくが森の中に引き籠もっていて、人の視線に慣れていないのが原因かもしれないが。


しかし、これから、大会に出て人の視線を大量に浴びることになるのだから、物怖じしているわけにはいかない。


「この街で大会に参加する人はどれくらいいるんだろうね」


「うーん、平均だと千人ぐらいかしらね? そこから予選で勝ち上がった十六人がトーナメント形式で戦うことになるわ。間違っても予選で負けるなんてしないでよ?」


 千人がこう言った大会の参加人数として多いのか少ないのかは分からないが、とりあえずは予選を勝ち抜かなければ話にならないようだ。千人から選ばれる十六人。果たしてぼくはその中に入ることができるのだろうか。


「負けないように善処するよ」


「それじゃあ、受付に行きましょうか。早くしないと間に合わなくなるわよ」


 歩みを早めるラピスちゃんにぼくはついていく。本当に少しでも油断していると迷子になってしまいそうだ。そんな時、ぼくの体は突如としてゾッと震え上がった。すべての時が止まっているのではないかと勘違いしてしまうほどに時間がゆっくりと流れているのを感じる。


それは殺気だった。人の群れの中でもはっきりと感じる殺気。遠慮も何もない凍りついてしまいそうな冷たい視線。この場から逃げ出したくなるようなそんな危険な視線。


これはぼくだけに向けられたものではない。周囲の人間全てに、無差別的に向けられている殺気だった。まるで獲物を狙っているかのような、見定めているかのような、そんな視線だった。ラピスちゃんの様子を確認するけれど、特に変わった様子は見られず、他の人たちも、楽しそうに特に変わりなく、街を歩いている。


そんな中で異質な二人の存在がぼくの目に入った。一人は、真っ白な長い髪を腰まで垂らし、これまた真っ白なウエディングドレスを身に纏っていた。この場からは明らかに浮いた服装にも関わらず、その服の主は優雅に、堂々と、そして美しく歩いている。あまりの堂々ぶりにその服装の違和感に周囲はあまり気に留めていないようだった。


そして、もう一人は金髪の幼い子供だった。見た目からして十歳から十二歳くらいだろうか。だけど、人を人とも思っていないような眼で、そこら辺に転がっているゴミを見るかのような冷たい眼で周囲の人間を見ている。とても子供とは思えなかった。幸い、二人ともぼくに見られていることには気付いていないようだった。二人に集中しきっているせいか、二人の会話がはっきりと聞こえてくる。


「ミクロ、わたくし、この街で開催される大会に出てみたいですわ。もしかすると美しい人に出会えるかもしれませんわよ?」


 白髪のウエディングドレス姿の女が金髪の子供に対してそう言った。


「出るのは別に構わないけれど、ちゃんと顔は隠してよね。僕達はあんまり目立っていい存在ってわけじゃないんだから。正体がバレて追われる羽目になったりしたら色々と面倒だからさ。それに他の姉さんや兄さんたちにだって迷惑がかかるし」


「顔を隠すなんて美しくありませんわ。それにミクロの能力なら追っ手なんて何の意味も持たないじゃありませんの。他の家族にも同等のことが言えますわ」


「はあ、デンファレ姉さんは一度言い出すと聞かないからなー。まあ、確かに他の姉さんや兄さんが捕まる心配もないだろうし、別にいいや。あっ、あと一応言っておくけれど、殺すのもダメだからね。と言ってもこれはデンファレ姉さんにはいらない心配か。人を殺さないって決めてるんだっけ?」


「違いますわ。正しくはわたくしが美しいと思った相手しか殺さない、ですわ」


「それって、結局は一緒じゃないの? だってデンファレ姉さん人を美しいと思ったことないじゃん」


 その白髪の女からミクロと呼ばれていた金髪の子供の言葉を最後に二人の会話は他の人たちの雑音に混ざり、聞こえなくなった。


一体あの二人は何者なんだろう?明らかに正義の味方ってわけではなさそうだったけれど。もしかすると、ミクロと呼ばれていた方はわからないが、デンファレと呼ばれていた女は大会に出てくる可能性もあると言うわけか。一体どんな戦い方をするのか全く読めない。見た所、二人とも武器は持っていなさそうだったし。まあ、それはぼくにも言えることなんだけれど。ぼくがさっきの二人について思考を巡らせていると、ラピスちゃんがぼくの異変に気づいたのか、こちらを心配そうな瞳で見ていた。


「どうかしたの?」


「…………」


「十一世界に、白髪でウエディンドレス着てる女と、金髪の冷たい眼をした子供っている?」


 ぼくは興味本位でラピスちゃんに聞いてみる。


「は? いなかったと思うけれど、その二人がどうかしたの?」


「いや、何でもないよ」


 そう言って、ぼくは二人のことをひとまず忘れることにした。二人の存在に気を取られて予選落ちでもしてしまうと笑えない。心を落ち着けて、ぼくは迷わないようにラピスちゃんの後をついていく。ラピスちゃんは何かいいたげにチラチラとこちらに視線を送ってきたが、深く追求しようとしても無駄だと悟ったのか、しばらくすると前を向いて歩き出した。


そういえば先ほどの二人の関係はどういうものなのだろうか。ずいぶんと仲がいいように感じたけれど。


それに比べてぼくたちは互いが互いをほとんど知らない。信頼も、愛情も全てが偽りだらけの歪な関係。不自然で不思議で、実に不安定。だけど、一つだけ彼女についてぼくが感じるものがあった。ぼくは彼女を誰にも殺させるわけにはいかない、と。


きっとそれは単なる思い込みや錯覚の一つに過ぎないのだろうけれど、そう言った頼りないものに従うのも悪くはない、とそう思った。



読んでくださり、ありがとうございます。良ければ、評価などしていただけると幸いです。

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