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3話 占いの結果

ぼくと少女は現在二人で森の中を歩いていた。少女はどうやらここまでの道のりで相当疲れていたらしい。だから、十一世界については、ぼくの家で寛ぎながら話すこととなったのだ。それに屋外では、誰に聞かれているかも分からない。なるべくリスクは避けておくべきだ、と言う少女の判断だった。ぼくもどうせ、ユリちゃんに世界を救うことになったと言うことは伝えておかなければいけないと思っていたし、ぼくの家で話を進めるという提案には断る理由などなかった。


「そういえば、私はあなたに名前を名乗っていなかったわね。私の名前はラピスよ。センカ城のセンカ王に拾われ、十一世界のような悪を滅ぼすことを使命として生きているわ」


 なるほど。高貴そうな見た目だとは思っていたけれど、城の人間だったか。拾われた、と言う点が気になるけれど、人の事情はそれぞれだし、むやみやたらに踏み入るつもりはない。いや、これから死ぬかもしれない旅を共にするわけだから、お互いのことは詳しく知っておいたほうがいいとも言えるか。まあ、そこら辺は後からでも聞ける話だ。それにしてもラピス、か。これも何かの縁なのかな。もしかすると、ぼくたちは何かの因果で出会うべくして出会ったのかもしれない。


「ラピスちゃんって呼んでもいいかい?」


「別に……好きなように呼べばいいわ。私はあなたを何と呼べばいいのかしら?」


 どうしよう。何だか、名乗りたくないんだけれど。ぼくが名乗ろうかどうか悩んでいると。


「名乗らないと、蹴るわよ」


「…………」


 名乗らなかったときの代償が割りに合わない気がする。


「ラズリだよ」


 名乗ると、結局蹴られた。


「どうしてぼくは名乗ったのに蹴られたの?」


「交流を深めようとしただけよ」


 交流の深め方がとてもひねくれていた。まあ、その辺は置いておくことにしよう。あまり、深入りしようとするとまた蹴られかねない。


「それにしても、ラピスちゃんはぼくのことを信じる、というふうに言っていたけれど、実の所、勇者が逃げ出して、剣姫もおそらく十一世界の手によって消えた、そんな相手にぼくが勝てるなんて本当に思っているわけじゃないんだろう?」


 さっきはうっかり乗せられた感じになってしまったけれど、一応ラピスちゃんのぼくに向けられた言葉のほとんどが嘘だということは分かっている。当たり前だ。勇者や剣姫が通用しなかった相手が名前すら広がっていないぼくなんかが倒せると思えるほうが不思議なのだ。


「あら、気づいていたのね。まあ、私はあなたの実力を直に見たわけじゃないもの。信じると言うのはあなたを少しでもやる気にさせるための嘘よ。正直、あなたが十一世界に対抗できる可能性は限りなく低い、と私はそう考えているわ」


 その予想通りの言葉を聞いてほっとする。これで、たとえぼくが負けることがあったとしてもラピスちゃんが悲しんだり、ショックを受けたりすることはなくなった。だから、ぼくは何も考えずにただただ目の前に現れた敵と戦うだけでいい。


「じゃあ、どうしてラピスちゃんはぼくを選んだのさ。一応、勇者と剣姫以外にも十一世界に対抗できそうな戦力はいっぱいいるんだろ? 何もぼくである必要は……」


 世界は広い。ぼくはあまり世界を知っている方ではないが、勇者と剣姫以外にも実力のある人間、あるいは人外が多数存在することぐらいは知っている。


「あなたを選んだのは、私ではなく、1人の占い師よ」


 今度は予想できない意外な答えが返ってきた。


「占い師? そういえば、さっきもそんなことを言ってたね。その占い師がどう関係しているって言うんだい?」


「その占い師がこの森で十一世界を倒す可能性のある人物に出会えると言ったから、私はこの森にきた。ただ、それだけのことよ。だから、あなたを選んだのは私じゃなくて占い師。出来ればもう二度と会いたくない人物だわ。まあ、私がどう考えたところでどうせその占い師にはまた会わなければならないんだけどね」


「よくそんな不確かで信用ならない情報でこんな何もないところまできたものだね。もしかすると、誰もいない可能性だってあったわけだろ?」


「私だって、好きでこんな森の中に来たくなんてなかったわよ。ただ、その占い師の求める報酬が少し変わっていてね、いいえ、占い師としては普通のことというべきなのかしら。その占い師はただで占う代わりにその占いの結果を欲するのよ。占い師はこの森で起こる私とあなたの出会いを占った。では、実際にその占いは当たっているのか、外れているのか、それを教えなければならないってわけ。だから、私は苦労してこんな何もない森にまで足を運ぶ羽目になったってわけ」


 なるほど。金銭よりも、占いの結果を欲する占い師か。それはつまり、自分の占いを一番信用できていないということではないのだろうか。ぼくは他人を占ったことがないから、占い師の心情なんて分かるはずもないし、分かりたいとも思わないけれど。


「そんなの商売として破綻しているね。それに最悪そんな条件無視してしまえば、ラピスちゃんが苦労することもなかったと思うけれど」


 ぼくはそんな提案を伝えてみるけれど、ぼくのその提案を聞いて、ラピスちゃんの表情は少しだけ険しいものへと変わる。


「その考えを私も考えなかったわけじゃないわ。だけど、あの占い師実力はどうやら本物みたいよ。あの女は、他人の過去も現在も未来も、まるで自分のことのように分かるのよ。私も過去を見透かされて正直ゾッとしたわ。あの女にはどんな裏切りも嘘も隠し事もきっと無駄よ」


「…………」


 ぼくの提案はその言葉によってあっさりと切り捨てられた。過去も現在も未来も見透かす占い師か。確かにそれはぼくだって会いたくない。しかし、そこまで知り尽くしているというのに、自分の占いの結果を知りたがる。出会ったことはないけれど、強欲という言葉がよく似合いそうだ。一体その占い師にはこの世界がどのように見えているのだろうか。会いたくはないけれど、気にはなってしまう。他人の過去も現在も未来も見て、その上で世界を見たとき、世界はいったいどんなふうに映るのか。


「なるほどね。だいたいはラピスちゃんがここを訪れた理由は理解できたよ」


 真実も明らかになってしまえば、割と大したことはない。もしかすると、先ほど話に出ていた十一世界の一人、ガーネット、一人と断定していいかも分からないが、剣姫さえも消したとされる能力。その能力も案外、大したものではないかもしれない。ぼくがそんな楽観的なことを考えていると。


「そう。ところで次は私からの質問なんだけれど、この家があなたの家であっているのかしら?」


 ラピスちゃんはそう言って、いつの間にか辿り着いていたらしい、ぼくと死なない少女ユリちゃんの家を指差した。



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