幼女が聖女のふりをする話
学校からの帰り道
佐倉琉架(9歳)は目の前に現れたしゃべるうさぎさんを追いかけて、不思議な穴にうさぎさんと落ちちゃって・・・
そしてそのまま異世界に飛ばされちゃった!!
琉架とうさぎさんが今いるのは、エルフたちの村『アーク』の村長の家の離れ。
人のいい村長さんがぜひ使ってくれと貸してくれた部屋だ。
この村の人たちから、うさぎさんと一緒に困っている人を助けて欲しいとお願いされている。
なんとこの世界には、白い使者を従え魔法が使える『聖女』が違う世界から現れて、人々を救うと言われているのだ。
(これは昨日アニメで見たお話と一緒だ・・・)
テレビの中では、違う世界に飛ばされた主人公が世界を救うお話。
(そうか、るか、このせかいにきてからまほうがつかえるようになったのね・・・)
昨日のアニメを思い出しながら、琉架は手を空にかざし、叫んでみた。
「火魔法!!!」
だがしかし、その小さな手からは何も出てこなかった・・・。
(あれ・・・るか、まほうがつかえるんじゃなかったの・・・)
琉架がしょんぼりしていると、うさぎさんが一言。
「とりあえず、この村の人の困っていることを聞いてみようヨ。」
話はそれからだと言われ、琉架は仕方なく村の人の悩みを聞いてみることにした。
そして連れてこられた村人Aさん。
「火をつけてってお願い事じゃなきゃいいネ」
不吉な事をぼそりと呟いたうさぎさんの声は聞こえないフリをして、琉架はAさんに尋ねてみた。
「こまっていることはなんですか?」
Aさんは幼女の前でひざまづき、少し言いにくそうに口を開いた。
「靴が・・・臭いんです・・・」
「「は?」」
琉架はうさぎさんと声を揃えてしまった、でももう一度Aさんは同じ事を呟く。
「靴が・・・臭いんです・・・」
見ればAさんは50歳を越えていそうなおじさん、においが気になるお年頃なのだろう。
「娘が、パパの靴下を一緒に洗わないでって妻に言ってるのを見かけたんです・・・」
Aさんは年端もいかない幼女の前で泣きそうになった。
「足もちゃんと洗っているのに・・・」
(これって、魔法でどうにかなる問題なの・・・?)
そこでうさぎさんは、聞き覚えのあるフレーズを口ずさみながら自分の鞄から、なにかとりだした。
「たららったた~、け~たいでんわ~」
そしてそのまま、あっけにとられる琉架にスマホを渡した。
(え、これって使えるの・・・?)
「異世界だからなんでもありさ、これ使ってみてヨ」
琉架は自分では持っていなかったが、母親が使うの見ている。
「検索画面だヨ」
琉架はうさぎさんの言葉に頷いて、検索画面に『くつ においけし』と入力して検索をかけた。
スマホの右上で矢印がクルクルと回っている。
2秒くらい経って、すぐに検索結果が小さい画面に現れた。
『靴のにおいには10円玉が効果的』
「「10円玉」」
またうさぎさんと琉架の声がハモった。
(まずこの世界に10円玉があるのかな・・・)
難しい漢字も含まれる説明文をうさぎさんが読み上げる。
「って事で、要は銅に消臭効果があるって事らしいヨ」
「この世界に銅でできたコインはありますか?」
「あ、あぁ、10ピトーなら銅でできているが・・・」
琉架はよかったとほっとしながら言った。
「その10ピトーをねる前にくつに入れてみてください。」
「できれば一晩中ネ」
「わ、分かりました・・・」
幼女とうさぎの言葉に何度も頷きながら、Aさんは部屋から出ていった。
「これで解決できたらいいけどネ」
とりあえず、今日のミッションは終わりみたいだ。
「まぁ、明日には結果がでるヨ」
「そうだといいけど・・・」
今日はふわふわに干しておいた布団にダイブして寝よう。
聖女への期待に気疲れした琉架は、ひとつ欠伸をした。
+ + + +
次の日の朝、Aさんが琉架たちが朝食を食べている部屋に駆け込んできた。
「聖女さま!!これ!!昨日のお告げ通りにしたら、本当に靴の臭いがなくなりました!!」
Aさんの手には昨日履いていた靴。
うさぎさんが近付いてくんくんと臭いを嗅いでみる。
「ほんとだ、全然くさくないヨ」
ブンブンと勢いよくるかの手を握って、Aさんは笑顔を振りまいた。
「今朝娘と一緒にご飯食べたんです〜」
どうやら、娘さんは最近朝ごはんも一緒にならないようにしているらしい・・・
「半信半疑だった他の村人もお告げをして欲しいそうですよ」
にっこりと笑って、それから何度も頭をさげてAさんは部屋を出ていった。
「これから忙しくなりそうだネ」
あんまりうれしくなさそうに、うさぎさんは呟いた。
これから忙しくなるのは琉架だって一緒だ。
「これからもよろしくね」
琉架がこっそりにんじんを自分の皿に入れたのをうさぎさんはみなかった事にした。
+ + + +
スマホの画面が何度か点滅して消えた。
『ミッションコンプリート ★☆☆』
そう画面に表示されていたのを、琉架もうさぎさんも気付く事はなかった。