無知であること
「人はね、死んでも生まれ変わるんだって。
だから僕、生まれ変わってもっとましな人間になって戻ってくる。
大丈夫、君の事はちゃんと覚えてるから。 じゃあ、またね。」
そう言って彼はいつものように、自転車を立ち漕ぎして帰ってった。
そして次の日から彼の席は空白になり、自転車置き場で交わす会話も亡くなった。
私はあの時わかってたけど、言わなくても大丈夫かと思って言わなかったんだ。
人は生まれ変わったりしないんだよ。
人は一度死んだら、おしまいなんだよ。
たぶん彼は信じなかっただろうと思う。
だけど、一日くらいは長く生きてたかもしれない。
もしかしたら、一週間くらい長く生きてたかもしれない。
だけど言わなかった。
言ったら駄目な気もしてたから。
言ったらそれこそ彼は、目の前が真っ暗になってたかもしれないから。
教室にあった彼の席は亡くなって、私の心に彼の席が出来た。
彼はいつものようにそこに座って、ずっと耳を塞いでいる。
私はいつもみたいに、絶対声をかけない。
毎日毎日、私は彼を無視した。
いつもしてたみたいに。
皆がしてたみたいに。
数年が経ったある日、私は彼に声をかけてみた。
ねえ、
いつになったら
生まれ変わるの?
「もうすぐ。」
ねえ、
いつになったら
新しいあなたに会えるの?
「もうすぐ。」
ねえ、
会えるわけ、
ナイジャン。
その日、私は初めて彼のことを思って泣いた。




