本物の殺意
「ゆうちゃん!ゆうちゃん!」
必死に叫ぶ声がする。その声は、同時に泣いているような感じもした。
良かった。生きてるぞ。俺。
「そんなに、叫ばなくても生きてるよ。せっちゃん。」
「良かった、本当に。騒ぎを聞き付けて来てみたら、ゆうちゃん真っ青な顔で倒れてるんだもん。ハイヒールを掛けてもなかなか起きないし。本当に心配したんだからね。」
「だから、こんなに身体が軽いのか。ありがとうなせっちゃん。」
俺がそう言うと雪菜が抱き締めてきた。この柔らか~い感触は、
「何で、約束したじゃん。無理は、しないって。約束は守るためにあるんだよ。」
「あれ、俺が約束したのは一人で抱え込まないって約束だったような。」
「あ。と、ともかくゆうちゃんが無理したのは代わりないでしょ。だから、明日は私の買い物に付き合ってね。」
「えぇーお前の買い物長いじゃん。しかも、俺がいつも荷物持ちだったよな。」
「約束だからね。朝食食べたらここに来てね。」
そう言って、雪菜は走って行った。
「はあ、無理矢理付き合わされることになったし、昔からそうだったような。」
「よう、ユースケ大丈夫だったか。まあ、お前が生きてるって事は大丈夫ってことだな。」
「ひどい言い様だな。まあ、大丈夫だけども。それより彼女は大丈夫だったか?俺と一緒にいた貴族の女子。」
「ああその女子なら、誠一緒どっかいったぞ。」
「そうか、それなら良かった。」
「お前も残念だな。せっかく助けた女なのに誠に横取りされて。それとも、雪菜さんがいるからお前は良いのか。」
「助けたのは、誠だし別に横取りなんてされてないだろ。後、雪菜と俺はそういう関係じゃない。」
「そう照れんなって。まあ、お前が無事ならそれでいい。今日は、お前の部屋行かないからゆっくり休めよ。」
そう言って、大翔は帰って行った。
さて俺も部屋にもどるか。
俺は、あのとき逃げる選択を取った。いつもなら俺が相手をしている間に彼女を逃がす。という選択を取るだろう。だって、地球じゃあ人を殺す人が少ないから。しかし、それは本当の理由じゃない。本物の殺意に触れたことがなかったから。それが本当の理由だ。
地球じゃ、殺すと言っても、本当に殺そうとはしない。ただの脅しだ。しかし、サイルという騎士が纏っていたものは、本当に彼女を殺そうとしていた。俺は、それに恐怖した。だから、二人で逃げる。という選択を取った。
それを俺は誰かに擦り付けようとした。その恐怖を。そして、安堵した。それはそこにいたのが誠だったからだ。誠なら、その恐怖に打ち勝てると。勇者の力があると。現に誠は、サイルに勝った。
しかし、その考えに従った俺がどうしても許せない。やっていることが、一歩間違えれば人殺しと変わらないじゃないか。
だから、もっと強くならなきゃいけない。二度とこんなことをしないように。
そうして俺は、部屋に戻った。
「ユースケ様お帰りなさいませ。」
「ラリア頼みたいことがある。」
「私にできることでしたら何なりと。」
「俺に殺意に慣れる訓練の手伝いをしてもらいたい。もちろん、追加でお金も出そう。だから、頼む。」
今の俺に出来る事は、これだけだ。だから、頼む。
「わかりました、やりましょう。お金も要りません。ただし、私のやり方でやらせていただきます。それが条件です。」
「わかった、その条件でいい。だから、お願いします。」
俺達は広場にやって来た。木剣も借りてきた。しかし、持つのは俺だけだ。ラリアは、短剣でやる。痛みを知らないとダメだという理由らしい。
夕食の時間までずっと訓練をし続けるらしい。ヒールは使用してもいい。
そして、互いに見つめ合う。先に動いたのは、ラリアだ。圧倒的なスピードで俺を翻弄してくる。しかも、殺気を放ったまま。黒いもやから出ていたものよりは劣るがそれでもわかるぐらいに。
その殺気に俺は動けないでいた。しかし、動かないと傷を受けるのは俺だ。木剣で短剣を受け止めるしか。いや、避けるという方法もある、が現実的ではないだろう。
どこから攻撃が来るのかよく見なければ、ドッヂボールと同じ感じだ。得意だっただろう俺。相手をよく見ろ。
ここだ。
木剣で短剣を弾くことができた。しかし、まだ一度しか止めていないぞと、言わんばかりにラリアは攻撃を続けた。
さっきから、俺はラリアと目が合うとどうしても目を反らしてしまう。ダリスが言っていたな、相手の目を見ろそうすれば次に攻撃される場所がわかると。あまり、自分の身体に傷は付けたくない痛いからな。じゃあ、目を見るんだ。怖がるな。見れば、わかる。俺は、できる。
そう自分に暗示をかけた。
そして、ラリアの目を見る。怖いだが、痛みよりましだろ。右足を見た。分かれば、後は簡単だ。そこに、木剣を置けばいい。
よし、防げたぞ。これからの攻撃全部受け止めてやる。
「さすがに、全部防ぐのは無理だったか。」
「私にもプライドというものがあるので。でも、コツを掴んでいるようですね。このまま行けばいずれ殺気を感知することもできるようになりますよ。」
相変わらずの真顔だが、素直に嬉しいな。
レベルアップしました。
機械音声と軽快な音楽とともにレベルアップの通知がきた。
佐志倉 祐輔
異世界人
年齢16
レベル2
なし
HP 95
SP 22
MP 73
体力 52
筋力 57
知力 71
俊敏 71
防御 45
精神力 60
ポイント2追加
「ラリアやったよ、レベルアップしたんだ。しかも、ステータスも順調に上がってる。これも、ラリアのお陰だよ。ありがとう。」
子供のように俺は喜んだ。
ステータスは期待できないと思っていたが、これならみんなより訓練時間増やせばいずれ追い付けるかも。嬉しいな。
「いえ、レベルアップしたのは、ユースケ様が人より多く訓練をしていたからです。それは、私の力ではなく、ユースケ様ご自身の力ですよ。」
「そう言ってくれるとうれしい。」
「ただ、ユースケ様は、殺意を無視する行為をしているに過ぎません。夕食を食べてきたら、部屋に帰って来てください。」
「ああ、わかった。それじゃあ、後でな。」
そうして食堂に向かった。