戦闘
ラリアから情報をもらった俺は図書館に向かっていた。
が、会いたくない奴と出会ってしまった。
「よう、ヒーロー気取り、昨日は大変だったな。それでこないだのことは考え直してもらえたか?」
「お前の言うことには従わない。」
「そんなつれない事言わないでさ。考え直した方が身のためだぞ。」
「どういう事だ。」
「そろそろここから離れるからお前を殺してから出ていこうと思ってな。」
緊張感が走る。気持ち悪い悪意が目の前にあって吐き気がする。
嘲笑うような笑みを浮かべ大輝がこちらに近づいて来る。短剣を抜いて走ってくる。
キーン
耳がいたくなるような音がした。
ラリアが立っていた。
「大丈夫ですか、ユースケ様。」
「やっぱりお前は有能すぎる。」
「もったいないお言葉です。」
「おいおい、俺を仲間外れにしないでくれよ。」
すぐさま大輝の方を見る。今仕掛けてくる気は無さそうだが重いプレッシャーがのし掛かって来る。
「そこのメイドは邪魔だな。少し飛ばすか。」
そう言った瞬間、ラリアの足元に魔方陣のようなものが浮かぶ。
ラリアがそこから離れようとした所でラリアが居なくなった。
「ラリアをどうした。」
「ゲームとかによくある転移魔法だよ。空間魔法に分類されるみたいだが。まあ、ここから10㎞ぐらい離れた所にワープするぞ。さあこれで邪魔ものは居なくなった。楽しもうぜ。」
短剣を投げてくる。一瞬投げナイフかと思ったが違うみたいだ。
「俺だけ得物を持っているのは不公平だろ。それ使えよ。」
何かナイフに仕掛けがあるのかと思い上級鑑定で調べてみたが普通のナイフみたいだ。
俺はそれを拾う。だが、戦うつもりはない。逃げる事が一番の策だとそう思う。
二歩下がる。お互いを見合っているがどちらも仕掛ける行動はしない。
「逃げようと考えているならやめた方がいいぜ。ここには結界が張ってある。その結界は中からも外からも出られないみたいでな、俺が持ってるこの魔石を破壊しないと魔力が供給され続けるぜ。後、耐久戦をしようとするのもやめた方がいい結界は特定以外の人物はどんどんステータスが下がっていくからな。まあ、出れば元に戻るが。さあ、こんなこと話してる間にどれぐらい時間稼ぎできたかな。」
くそ、最初から時間稼ぎをしていたのか。だが、こっちには腕時計がある。
ボタンを押す。空間が歪み元に戻る。
「おっと、その腕時計も対策済みだ。かなりの出力が出てるみたいだが、ここの結界内ではせいぜい二倍ぐらいだぜ。」
少し、ゆっくりとした声だった。
対策済みってどういう事だよ。まさかと思うが
「昨日あそこにいたのはお前か、大輝!!」
「正解。あの時は実験しててな、たまたま通り掛かった騎士に俺の使い魔を使ってやってたら、たまたまお前が来た。暴れだす騎士に殺られて無惨に死ぬ所が見れると思ったのにな。あんな力持ってるだもん驚いたぜ。」
召喚されてからこれだけの事を数日でやったのか。いやおかしい。だって、あいつの職業は狩人だ。隠密行動が得意なのはこれで頷けるが結界なんかは、魔法使い系の職業でも、この数日で作ることは難しいんじゃないか。ここでの知識が少ないのにそんなことができるとするなら、裏で誰かと繋がってることだよな。だったら
「たまたまじゃないだろ。サイルさんを暴れさせたのは、カルラ王女を襲わせるためじゃないのか。」
「正解。」
ニチャアと効果音が付きそうな笑みで答える。
ここまで聞いたら大輝の裏にいるのが誰だか分かる。ラークの神もしくは、それの部下とかそんな所だろう。じゃなきゃ、女神様の腕時計の力を押さえられる理由が見つからない。
短剣を持って攻撃を受け流す行動を繰り返しながら、思考する。魔石を壊す術を。
「さっきから防戦してばっかでつまんねえな。俺を殺す気でかかってこいよ。ああ、そっかお前まだ人殺したことないのか。それに、お前は元の世界でもあんま殴り返してこなかったよな。人を殺ることに抵抗あるのか。」
は、今こいつなんて言った。まだ、人を殺したことないのかと聞いてきたよな。こいつまさか。
「お前まさか。」
「そうだよ。俺は地球でも何人か殺してる。まあ、社会のゴミどもだったから行方不明ぐらいなんじゃないか。」
嬉しそうに話してくる。さも、当たり前のように。
俺はこいつを殺さないといけない。こいつがもっと力を手に入れたら大変なことになる。
そう思った。短剣を握り締めた。こいつから受け取った武器で戦うのは嫌で嫌でしょうがなかったが、どうでもよくなった。
大輝目掛けて走る。下の絨毯が滑る。そんなことどうでもいい。あいつに。あいつの心臓に当たればそれでいい。死ぬほどの傷を負わせる。俺よりも短剣の使い方がうまい。でも、スピードは、まだ俺の方が上だ。
何度も短剣がぶつかり合う。金属同士が当たると耳が痛くなる。切り傷が両方とも増え続ける。だが、俺の方が受ける傷は大きい。それをヒールでカバーしてとんとんって感じだ。ヒールも限界はある。それにさっきから身体がふらつき始めた。やっぱりこの状況を打破するには、これしかないよな。
「うおぉぉぉぉぉ。」
体制を低くして大輝に向かい走る。
グサッ
そんな音が俺の身体からした。背中に短剣を刺されたからだ。背中がひどく熱く痛い。
でも、この距離ならさせる。俺は、短剣を大輝の胸部目掛けて刺す。背中の短剣を奥に刺そうと大輝も短剣に力を入れている。でも、その力も決して強くはない。
口から血の味がする。
「グハッ。」
血を吐き出すが、力は緩めない。しかし、身体はもう駄目みたいで短剣から手が離れていく。
大輝もそれに便乗して俺から離れた。
「さすが、だ、な。ヒーロー気取り。でも、俺、は、ここから、離れられる。残念だった、な、」
「でも、しばらく、は活動できない、だろ。」
どちらも満身創痍だ。
「おまえには、最後に、仕事をやるよ、おまえも、薄々、気づいてると、思うが、俺は、狂化状態を付与できる。思い切り、暴れてくれ。じゃあな、」
そう言うと俺に向かって黒い何かが飛んでくる。避けようとしたが間に合わない。
大輝はもう消えていた。
「うぐ、あ、」
身体が自由に動かない。かなりの数の足音が聞こえる。その方向を見るとルイート副団長を先頭に騎士達が走ってきていた。
「ユースケ君どうしたんだ。」
俺の周りが血だらけで驚いているようだが、冷静みたいだった。
「俺は、もうすぐ、暴れ、出します、昨日の、サイルさんが暴走したのも、五十嵐大輝が、原因です。大輝は、もう、ここには、いない、みたいです。俺を、止めて、ください。」
しゃべりたかったことは全てしゃべった。でも、暴走し始めたら俺っていう人格がなくなる気がするな。だって、王城で思い切りってことはサイルさんの時よりもっとってことだろ。諦めるなだって、もう俺はほとんど身体が動かせない。それに意識もすぐに途切れそうだ。誠とか、大翔ならきっと諦めないんだろうな。はは、
そこで意識は途切れた。