おばちゃんって、気が利くよね。
「ユースケ、ちょっと聞きたいことがある。」
大翔が食堂につながる廊下で話しかけてきた。
「なんだ。」
「お前は、あの貴族を庇ってあの騎士から逃げた。それであってるか?」
「ああ、それで広場に行って誠に騎士を倒してもらった。」
「じゃあ、逃げているときどうすれば騎士から逃げられるんだ。ステータスを見た時はそんなスキル持ってなかったよな。お前何か隠してるよな。」
「ちょっと待て、ステータスプレートを見た時、称号の欄に 女神からの贈り物 っていう項目があっただろう。」
「そういうことか。まだ何か隠してるだろ言ってくれ。」
俺は、女神様の話をした。起こったことすべてを話した。腕時計を使うと命を削ること以外は。
「なるほどな。とりあえずは女神様とやらは信じてみるか。信託で聞いたと王様から話があったんだろ。 勇者の資格 か、実はなこの世界の歴史を調べてみたんだ。そしたら、勇者は過去に何回か来ているらしい。そのなかに、聖剣が使える勇者がいたみたいだ。」
「大翔聞いていいか?」
「なんだ。」
「勇者のなかに自分の世界に帰れたものはいるのか?」
俺は、この数日みんなが禁忌として扱った言葉を大翔にぶつけた。
大翔は、どこか遠くを見て
「いいや、いない。」
そう答えた。
なんとなくわかっていた。俺は、元の世界に未練がないわけではないが、こっちにこれてうれしいと思っている。しかし、ほかのみんなはちがう。家族、友達、やりたいこと、何かしらの未練はあるだろう。それを思い出したら辛くなる。だから、みんなは言わない。知らない方がいいこともあるからみたいな空気だ。大翔は、俺と同じく元の世界に未練はないからためらいもなく、調べたんだろう。
「そうか。」
素っ気ない返事をしてしまった。しかし、未練はなくてもやはりショックだった。
その時、誰かが走って行く音がした。
まずい、この話を聞かれていた。この話を聞いて逃げるのは、俺達勇者だけだ。この情報を今、みんなに知られたら混乱を引き起こすかもしれない。急げ、この話を誰かに言う前に説得するんだ。
そうして、俺は走り出した。
同じようなことを考えたのか、大翔も走り始めた。
しばらくすると、廊下が二つに別れていた。
「俺の勘は、右だと言っている。だから、ユースケが右を頼む。」
「何で俺なんだ?」
「さっき話を聞いていたのは女子だった。背格好から見てな。それに、顔は見えなかったがユースケを気にしているみたいだったしな。」
「本当か?本当だったとしても、右に行ったとは限らないだろ。」
「絨毯を見てみろ、少しずれてるだろ。左側はずれてない。だから、右の方が確率が高い。てことでよろしく頼むな。」
そう言うと大翔は、左の廊下に行ってしまった。
「あいつ逃げやがったな。しょうがないが行くか。」
少しすると委員長に会った。
「委員長、この先に誰かいかなかったか?」
「ああ、それなら雪菜さんとすれ違いましたよ。」
「そっか、ありがとう。でも、それは嘘でしょ。あいつはもっと肉付きがいいから。」
俺がそう言うと、委員長はビクと身体動かした。
俺は、雪菜といた時間は長い方だ。一時期あまりしゃべらなかったからといって雪菜を見間違えることはない。走ってた娘スレンダーだったから見間違えは、ないはずだ。
「委員長、このことは、黙っていてほしい。今、話せばみんなが混乱する。」
「そうなりますよね。でも、私一人に黙っていろっていうのですか。私は、大切な家族だっているんですよ。元の世界に帰れないなんて知って凄い怖いんです。家族と過ごせる時間は、もうないんだって。それを、みんなで分かち合うこともできないですか。」
委員長の頬に涙が零れた。その水滴は、大きくてすぐに顔から落ちて行った。
「元の世界に帰る方法があるかもしれない。と無責任なことは言えない。でも、俺は助けてくれと言ってくれれば、助けるよ。だから、相談してくれればいい。みんなに話せないこと。それが、俺からできることだ。」
俺がそう言うと委員長は泣き出してしまった。
少しなだめていると、委員長が
「何で佐志倉くんは、人を助けるの?」
と聞いてきた。
「格好いいヒーローに憧れたからかな。」
「ふふ、小さな子供みたいな理由ですね。でも、なかなかできないです。すごいね。」
「そう言ってくれると嬉しいよ。」
俺は、格好いいヒーローに憧れた。でも、現実はそうはいかなくて中途半端でカッコ悪い自分だった。ヒーローそれは、力がある奴しかなれない。力がない弱者は、何も守れない。別に、筋力がある奴が力のある奴って訳じゃない。他にも、金力、人望、頭脳とある。だが、俺はどれにおいても中途半端だ。俺のステータスも同じようなものか。魔法使い系なのに、攻撃魔法が使えない。治癒魔法にしても、ヒールはあまりいい魔法とは言えない。効果はすごいが回復職は、これよりいい魔法を使える。攻撃手段は、物理しかないがダメダメの筋力じゃあ難しい。訓練をしてあげているがまだまだだ。器用貧乏でもない、ただの貧乏だ。弱者だ。
弱者というカテゴリーにいるはずの俺はヒーローにはなれない。それなのに、人を助けようとしてしまう。それが俺だ。だから、俺はカッコ悪い。
委員長と別れた後食堂に向かうと、
「おお、あんたかい。いつも遅いから、今日は、少し残しておいたよ。冷えちまってるけど、食いな。」
食堂のおばちゃんが言ってきた。
「ありがとうおばちゃん。」
そう言って、俺は夕食を食べ始めた。冷めてはいたがやはり美味しかった。