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第九話

「え……」


 更に戸惑った、女子の声。

 可哀相過ぎるだろ! じんの奴、女子の純情踏みにじってやるなよ!

 俺は、心の中で、じんをど突き回した。


「なに? 一緒に登下校したり、デートしたり、キスして、抱きしめて、セックスすんの?」


 じんの声は、冷たいけど真面目な響きに聞こえた。

 けど、聞いてるこっちの顔から火が出そうだわ。って、彼女がどうでるのか、ちょっとすごい楽しみになっちゃってるゲスイ俺。


「え……と、それは……」


 必死なか細い女子の声が続く。


じんくんが私の事好きになってくれたら、いつかは、そんな風に……なるんじゃないかな」


 偉い!

 俺は頑張って答えた彼女にエールを送っていた。


「好きだよ」


 言下に、じんは応える。


「ええ! 本当!」


 彼女の声と一緒に、叫びそうになるのを両手で必死に抑える。


「だから、キスしても良い?」


 珍しく優しげなじんの声に、空気が止まった。

 シンとした空気の後、静かに彼女の「いいよ」と言った声が小さく流れた。


 俺は、好奇心に負けて、こっそりと物陰から顔を少しだけ出した。


 ゆっくりとじんの掌が、彼女の頬を包んで、じんが屈み、顔を近づけた。


 うっわ! アイツ、キスしてる!!


 俺は凍りついた様に動けないし、目を離すことも出来ない。


 じんの顔が少し離れて、すごい小さな声で話しているのに、その声がダイレクトに脳に響く様に聞こえてくる。


「好きだ……。ねぇ、少しだけ口開いて」


「ぅ……ぁ……ん」


 途切れる色っぽい女の子の声。


 もう、これ、ディープ……じゃん。

 じんくん、ここ、学校ですよ! 僕達、まだ16歳になったばっかりじゃなかったっけ? 俺が奥手なの? え? これ、普通なの!?


 俺の心の悲鳴は届くことはなく、顔の角度が変わったり、唇吸ってる音みたいな、舌が絡まるみたいな粘液の音がして、俺の股間はとんでもない興奮の形になってしまった。


 やばいやばい、痛い痛い!


 隆起する股間を抑えながら、やっぱり、じんからは目が離せなくて。

 そして、その目の前の光景はどんどんエスカレートしていく。


 キスが、唇から離れて、髪に、頬に、耳に、首筋に落ちる。

 ちらりと見えた女の子の顔は、真っ赤なっていて、でも、切なそうに眉を寄せていて、すごく……エロい。


 うわー! うわー!

 じんさん、大人です……ね。


 じんは、壁に彼女を押し付けて、もう一度、深くキスをする。

 神が彼女の耳元で囁く、囁いてるだけなのに、何故俺の耳に届くのか?


「このまま、しても良いよね?」


 なにをだよー!?


 俺は、もう逃げ出したい気持ちでいっぱいだ。


 なんなの? なんなのコイツ! なんで先にこんな大人な事してんの? しかも、めっちゃ慣れた手つきじゃん! 可笑しいでしょ!? 16歳の青春じゃないでしょ? ってか、女子も少しは拒めーい!


 俺の願いが届いたのか、彼女は両手でじんの身体を離した。


「私……キスもそうだし、こういうの初めてなの。だから、もう少し時間が欲しい……な」


「そうなんだ」


 じんは何事も無かったように、あっさりと彼女から手を離すと、胸のポケットから手帳を取り出した。


「いつぐらいならいい? 今月、俺結構予定埋まってるんだけど」


 一拍置いた後、女子の表情が、恋する乙女から般若に変化した。


 無理もない。無理もないです。うちの親友が馬鹿すぎです。


じんくん、本当に私の事好きなの?」


「好きだよ。女の子、みんな柔らかいからね。色々してみたくなるよ。だから、セックスさせて」


 ばん!


 彼女が鞄を拾って、振り切った。その速度が凄まじくて、俺は、当たったじんの頭が飛んで行ったかと錯覚した。

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