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第七話

 俺の言葉に、じんはやっぱり人とは思えない綺麗な笑顔を見せた。


「初めて、本質的な質問がお前からきたな。脳が真っ当に成長してたみたいで安心したわ」


 じんは当然の様に上から来た。とりあえず、綺麗だけど憎たらしい顔を片手で避ける。


「だから、お前はさ……」


「天の使いだよ」


 簡単に言うとな、と碧い涼しい眼が真っ直ぐに見詰めてくる。


「え?」


 あまりの答えに、間抜けな声しか出ない。


「だから、もっと簡単に言うと、天使だよ。エンジェルっていうの?」


 じんは、珍しくちょっと恥ずかしそうに吐き出した。


「ファンタジーかよ」


 俺はあまりにもあまりな展開に、気の利いた言葉が出ない。


「まあ、すぐに信じて貰えるとは思わないけど、バスの一件から全ての出来事、理解したいって気があるんなら、俺の言う事素直に聞いておけ」


 物凄い威圧的な言葉に、やっとの思いで「お、おう」とだけ、頷いた。


 じんは座り直し、小さく咳をして喉の調子を整える。


 そもそも、人間社会に俺の世界のこと説明するのって、言葉がイチイチ気恥ずかしいんだよな。と小声でブツクサ漏らしてから、もう一度、咳をして俺に向き直る。


 ヤツの長い話が始まった。


「人は、この世に生まれ落ちる前、天の世界でかみの加護を受ける。


 平等に加護が与えられているとか思っている人間はいるけど、そんな筈はないのは世の中見てれば分かるだろ?

 でも、幸、不幸のバランスは別として、人間には幸せになるチャンスの回数は決まった数与えられるんだ。そのチャンスがこっちの世界で言う「加護」。それで、まあ、世に生まれ落ちる時に、魂の行先やら、家族構成やら、歴史やら書いてある書類に目を通した神様がチャンスの回数を魂に割り振って、人間界に降りるんだけれども、元々、神様も人の子だったせいか、単純作業の繰り返しで、ミスも犯す」


 そこまで、じんは一気に語り、一つ息を吐いて、氷が解けて薄まったコーラを気にせず、グッと飲み干した。


かみって、全知全能じゃねえの?」


 考えた事もないファンタジーな世界を理解しようと、俺も必死に頭を使う。


「な訳ねーだろ。かみの全て思い通りだったら、かみは、只の殺戮者だろ。神様もミスする。でも、人間って強いんだ。だから、人間は歴史を作ってきた。神様が考え付かないような幸せな人間になる奴もいれば、人とは思えないような悪党にもなる。


 あ! ほら、昔の漫画であったじゃん。ある国の王女の魂に、神様が間違えて男の心を入れちゃったって話。あれ、実話だから」


「え!? あの名前が宝石の王女様の話だろ?」


「そうそう、それ。で、その話で神様が、その失策を挽回するのに天使を王女の元へ走らせただろ?」


「確かに、そんな話だったような……って、待って。もしかして、俺の魂もなんか、ヤバイミスされてる……とか?」


 口に出しながら、少々怖気づいて語尾が縮こまる。


「正解。ミスしても、天使にちょっと頑張ってもらえばいいかくらいに考えてるから、凡ミスするんだよな。その下で働かされるこっちの身にもなれってな。ブラック企業とか、俺らの世界では当たり前の待遇だよ」


 俺がビビっているのも気にならないのか、じんはやってられねえと頭をかいた。


「待て待て、俺の話だろ」


「あ、わりぃ。あきの場合は、凡ミスなんかじゃなかったよ。大失態。ほんと勘弁してほしい」


 待て待て……。じんの何事もないような上司の愚痴が、俺の人生の歯車の歪みの全てなのか。嫌な予感過ぎて、体温が下がっている気がする。


「一体……どんなミスなんだよ」


 じんは天井を仰いで、「んー」と考えるような伸びをして、目を閉じた。

 暫く考えるような仕草で、首を回したり、肩を回したりした後、腹を決めたように「よし!」と気合を入れて、俺を見据えた。



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